レッドドラゴン討伐の依頼を受ける俺たちは、馬車に乗って目的地に向かう。
「ここから北の無限草原でレッドドラゴンの目撃情報があるのか、マルス」
「そのようだね。依頼書によるとレッドドラゴンは無差別に火を吹いて暴れまわってるそうだよ」
アンナと会話するマルスに、胃を唱えたのは同行してるサラだ。
「でもおかしいっすね。確かにレッドドラゴンは気性の荒いドラゴン、だけどそんな目的もなく暴れまわるようなモノじゃないっすよ普通は」
「その通りだサラ。同じ竜人族である我輩としても不可解に思っているところである」
サラに同意したのは、岩石のように屈強な男ロック。
てかあの人サラと同じ竜人族なのかよ!? 全然見た目が違うじゃねーか!
「そんなことは関係ない。僕たちはレッドドラゴンを倒す、それだけさ」
「マルスの言う通りニャ! ミーたちはやるべきことをやるだけニャ!」
「私もマルスとチャオの二人と同意見だ。何も余計なことを考える必要などない」
馬車の上でアンナをはじめとしたみんなが闘志を静かに燃やす中、クラリスだけは黙り込んでいる。
「クカ?」
バッグから顔を出して俺がクラリスにすり寄ると、彼女は軽く愛想笑い。
「ありがとうダイナ、気を遣ってくれてるんだね。でもわたしは大丈夫、確かに強くなったんだもん」
そう口にするクラリスだけど、ぎゅっと握られた拳はブルブルと震えているのを俺は見逃さなかった。
昨日はあんなに意気込んでたクラリスもやっぱり怖いのか……?
するとクラリスの震える手にアンナが手を添える。
「怖いのか? クラリス」
「アンナちゃん? ううん、怖くなんてないよ!? 土壇場になって怖がってなんていたら、冒険者失格だもん!」
「嘘だな」
「はう……」
看破されてうなだれるクラリスに、アンナはこう伝えた。
「怖がる必要なんてない、お前は私が必ず守ってみせる」
「アンナちゃん……!」
クラリスの両手を包むようにアンナは手を添える。
ああ、尊い。これが二人の絆なのか。これに比べたら俺もまだまだだな……。
しばらくだだっ広い草原を進んでいると、突然正面から土ぼこりをあげて何かが向かってくるのが見えた。
個体名:――
種族:グレイウルフ
レベル:16
体力:70/70
筋力:130
耐久:60
知力:80
抵抗:100
瞬発:180
「グレイウルフだニャ! しかもあんなたくさん!」
「あの様子だと何かから逃げてきてるみたいっすね……」
「関係ないさ、ウォーミングアップにはピッタリだ!」
そう高らかに告げるなりマルスが馬車から飛び降りて、突っ込んでくるグレイウルフの大群と対峙する。
「悪いな、貴様らにはここで僕の相手をしてもらうぞ!」
宣言したマルスが天に掲げた剣が、まばゆく光を放ちはじめ、
「
その剣をマルスが横なぎに振るった途端、グレイウルフがまとめて一刀両断にされた。
「やっぱりすごい……!」
「さすがは勇者、といったところか」
称賛するクラリスたちに、マルスは振り向いて白い歯を見せて笑う。
「ははは、このくらいどうってことないさ。でもまだいるなあ……」
マルスが見通す先で、さらなるグレイウルフの大群がこっちに突っ込んでくる。
「あんまり僕ばっかりでしゃばるのもあれだから、今度は君たちの力も見せておくれよ」
「言われなくてもそのつもりニャ!」
「我輩も加勢するぞ」
続いて飛び出したのは、マルスの連れのチャオとロックだ。
「まずは我輩に任せろ!
叫んだロックの身体が鈍く光り、グレイウルフの注意が一斉にそちらを向く。
なるほど、ネトゲでいうタゲ取りスキルか!
「いつもサンキューだニャ!
フリーになったチャオが、どこからか取り出した弓矢でグレイウルフを横から射抜く。
「ロックさんが気を引いてるうちにボクも!
続いてサラまで飛び出して、ハンマーをぶん回しながらグレイウルフをはね飛ばしていく。
「私たちも負けていられないな! クラリス!」
「うん! ダイナも!」
「クカッ!」
俺たちも馬車から飛び出して、総勢百を超えるグレイウルフの大群と戦うことにした。
「
アンナが目にも止まらぬステップでグレイウルフを翻弄し、次々と切り裂いていく。
「
杖を構えるクラリスが魔法の茨でグレイウルフを弾いていく。
よし、俺も早速新しいスキルを使ってみるぜ!
念じた途端俺の口から火が吹いて、接近したグレイウルフをまとめて焼き払った。
「おおー、ダイナもすっご~い!」
「クカッ」
へへっ、すげえだろクラリス。
自慢もそこそこに俺も次々とグレイウルフを蹴散らす。
そうして俺たちは邪魔なグレイウルフをあっという間に全滅させたのだった。