「君たちもレッドドラゴン討伐に?」
訝しむマルスに、サラは補足を加える。
「この二人はDランクではあるっすけど、Bランクくらいの実力はあるっすよ」
誇らしげに胸を張って推薦するサラに対し、アンナとクラリスはオロオロと謙遜した。
「買い被りすぎだサラ」
「そうだよ! わたしたちDランクになったのも最近なのに!」
「Dランクがボクを差し置いてワイバーンを討伐なんてできないっすよ。お二人の実力はボクが保証するっす」
「――サラもずいぶんとこの二人を推してるみたいだね。よし、僕が君たちの実力を見てあげるよ。結果次第で僕がBランク昇格を推薦してあげてもいいよ」
マルスの提案を聞いて、色めき立ったのはクラリスだ。
「わたしたちがBランクに!? ねえねえアンナちゃん、これってすごいチャンスじゃないかなあ!?」
「確かにAランク冒険者であるマルスの推薦があれば、私たちもBランクになれるだろう。しかし……」
一方でうつむいて考え込むアンナの背中を押すように、俺はその脚に頭をすり寄せる。
「クルルルル」
「どうしたダイナ?」
「ダイナもわたしとおんなじ気持ちだよね。なんとなくそんな気がするんだあ」
「そうか。――マルス、お前に私たちの力を見てもらおう」
「そうこなくっちゃね。それじゃあ裏に出ようか」
親指で差したマルスの案内で、俺たちはギルドホールの裏庭のような場所に出た。
ふとあのオネエなギルマスのシュワルトさんが、いつの間にか裏庭で待っているのを俺は確認する。
「マルスちゃん? 戻ってくるなり冒険者二人の実力を見たいなんて、どんな風の吹きまわしかしら」
「なあに、友が厚く推薦する二人の力が気になってね。それに僕個人としても彼女たちは気になる存在なんだ」
シュワルトさんとずいぶん親しげだけど、やっぱ付き合いとか長かったりするんだろうか?
「クカァ!」
一声あげて前に出た俺に顔を向けたマルスは、こう付け足す。
「おっと、君もだったね」
「それでは始め!」
シュワルトさんの号令を皮切りに、アンナが地面を蹴ってマルスに飛び込んだ。
「最初から全力でいかせてもらう!
雷電をまとわせた剣をアンナが振るい、マルスの剣とぶつかり合う。
その瞬間飛び散る火花。
「くっ!」
「なかなかの太刀筋、やはりDランクにしておくのがもったいない。だけど……っ」
そう言いかけてマルスがアンナの剣をはねあげる。
「なにっ!」
「剣に重さが足りないなあ!」
振り下ろされたマルスの剣を、アンナがすんでのところでかわした。
「アンナちゃん! ――
続けてクラリスがアンナと俺に祝福の魔法をかけて、地力を底上げしてくれる。
「すまないクラリス」
「ほう、クラリスは支援魔法の使い手か。なら!」
間髪いれずマルスが地面を蹴り、クラリスに向けて突っ込もうとした。
「クラリス!」
「クカァ!!」
一足早く俺がクラリスの前に立ちふさがり、マルスの剣をあごでくわえて受け止める。
「おお? 使い魔の君に僕の剣を受け止める力があるとは」
「クギギギ……!」
「でも体格が足りないよ!」
直後マルスに蹴り飛ばされて、俺は地面を転げた。
「クゲッ!?」
「ダイナあ!」
「次は君の力を見せてもらおうか!」
そう告げて歩み寄るマルスに、クラリスは真剣な眼差しで呪文を唱える。
「わたしだって!
その途端に地面を突き破って伸びる茨が、マルスをがんじがらめにした。
「くっ!」
「わたしだって強くなってるんだから!!」
「なるほど、ね」
杖を構えて釈迦力になるクラリスの前で、マルスは身体に力を込めて魔法の茨を一気に引きちぎる。
「そんな!」
「あはっ、僕としたことが本気を出してしまうところだったよ。だけどお遊びはもう終わり、僕のスキルを見せてあげようか!」
そう宣言するなり、マルスが剣をまばゆく光らせた。
「
その剣の一振りで、俺たちの目の前が真っ白になる。
それから視界が開けた頃には、俺たちはダメージで身動きをとることも叶わなくなっていた。
「うっ、うう……っ!」
「これが勇者マルスの力だというのか……!」
「クギギギ……!」
「――そこまでよ」
シュワルトさんの審判で、この手合わせは終わりを告げる。
「三人とも大丈夫っすか!?」
駆け寄ってきたのは手合わせを見物していたサラとシュワルトさん。
「今シュワちゃんが治癒魔法をかけるから!」
シュワルトさんのゴツゴツとした手から放たれる光で、身体の痛みが和らいでいく。
「すまないギルマス。……完敗だった」
「すごく強かったね、マルスさん……。わたしたちじゃ全然敵わないよ」
「――そうでもないよ」
そこへ歩み寄ってきたのはマルスだった。
「ほら、これを見てよ」
そう言ったマルスが自分の剣を地面に打ち付けると、それは真ん中からポッキリと折れてしまう。
「僕の剣にこれだけのダメージを与えたんだ、君たちは十分強いさ。特にダイナだったっけ、君まだ力を隠してるね?」
「クケ?」
見つめるマルスの眼差しに、俺は思わず目をそらした。
さすがは勇者、まるで俺の内面が見透かされてるようだぜ。
「それじゃあ約束通り君たちをBランクに昇格するよう、僕から推薦しておくよ。共に戦えること、楽しみにしてる」
「手合わせしてくれた上に推薦まで、感謝する」
「こちらこそよろしくね!」
マルスと握手するアンナとクラリスの二人。
そうして俺たちは勇者マルスに力を認めてもらえることになったのだった。