グランドキャニオンを彷彿とさせる渓谷に足を踏み入れるなり、上空で何かの甲高い鳴き声が遠くから聞こえてくる。
「今のって!」
「間違いないっす、ワイバーンの声っす!」
「やはりこの谷にいるということだな、腕が鳴るぞ」
やる気満々といった感じでアンナが腕を回したところで、俺たちは渓谷を進むことにした。
「それにしても不思議な空気だね~。まるで時が止まってる、みたいな? そんな感じがするんだー」
「クラリスさんも分かるんすね。この谷には特殊な魔力が充満していて、それで古代からの魔物も数多く生きているんす」
「そんな場所もあるのだな……」
ドラゴンの谷の不思議な空気を感じていると、早速サラが何かを発見する。
「お、早速ハードクラブを発見っす!」
サラの指差した先にいたのは、木の実を食べている大きなヤシガニのような魔物が五匹。
個体名:――
種族:ハードクラブ
レベル:22
体力:80/80
筋力:150
耐久:200
知力:60
抵抗:100
瞬発:50
見た目どおり固そうな奴だぜ
「あの殻はいい防具の素材になるし、肉も絶品なんす!」
そう言うなりサラがどこからか取り出したのは、柄の長いハンマーみたいな得物。
「いくっす! そりゃああ!!」
サラのフルスイングで、ハードクラブの一匹がはね飛ばされて谷の壁に叩きつけられる。
「さすがはハードクラブの固い甲殻、ボクの一撃でもヒビ一つ入らないっすね」
そうは言うけど叩きつけられたハードクラブはピクリとも動かない。
甲殻が無事でも衝撃までは防げないんだ。
「カキカキカキカキ……!」
すごすごと逃げようとするハードクラブ、その退路をクラリスが魔法の茨でふさぐ。
「【
それからクラリスはそのまましなやかに動く茨で残りの四匹を拘束した。
だけどハードクラブは大きなハサミでクラリスの茨を断ち切ってしまう。
「カキカキ!!」
「うそぉ!」
「ここはボクに任せるっす! 【
そう叫ぶなりサラがハンマーで地面を思い切り叩くと、その衝撃で吹っ飛ばされたハードクラブ共がひっくり返って動かなくなる。
「サラちゃんすっご~い!」
「へへっ、どんなもんっす!」
拍手をするクラリスに、サラは膨らみかけの胸を張った。
「これがBランク冒険者としての実力なのだな。さすがだ」
「えへへ、そうっすかね~? ともあれハードクラブもこれで調達っす」
仕留めたハードクラブをサラが拾い集めたところで、俺たちは先を進む。
ついでにサラのステータスも俺は
個体名:サラ・ドラゴリア
種族:竜人
レベル:45
体力:200/200
筋力:500
耐久:450
知力:350
抵抗:400
瞬発:360
これは典型的なパワーファイター型である。
今のパワーもうなづけるぜ。
それから俺は見たことのない魔物を数多く目撃することに。
壁を這う巨大なカタツムリに、大木のように育ったシダ植物などなど。
なんていうか本当に古代の世界にタイムスリップしたんじゃないかって錯覚しちまうぜ。
それでいてどこか懐かしく感じるこの感じは何だろう……?
「クカァ……!」
「もしかしたらダイナも何か思うところがあるのかもな」
「確かにダイナきゅんは竜人の間に伝わる古竜種に似てるっす」
「こりゅーしゅ?」
「読んで字のごとく、古代に栄えたドラゴン種族のことっすよクラリスさん」
古竜種か、もしかしたら俺もその中に含まれるのかもな。
「もしかしたらダイナきゅんの仲間がこの谷にいたりするかもっす」
「クケッ!?」
そうなのか!?
気になることを耳にした直後だった、頭上の空から甲高い雄叫びが聞こえてきた。
「キエエエエエン!!」
「今のってさっきも聞こえてきたよね!?」
「ワイバーンか!」
「アンナさんにクラリスさん、上っす!!」
サラの呼び掛けで上を向くと、腕が翼になったトカゲのような魔物が上空で旋回しているのが見える。
個体名:――
種族:ワイバーン
レベル:33
体力:180/180
筋力:200
耐久:100
知力:230
抵抗:100
瞬発:380
「あれがワイバーンか!」
「来るっす!」
俺たちに気づいたのか、ワイバーン共が一斉に急降下して火の玉を吐いてきた。
「キエエエエエン!!」
「わたしに任せて!
クラリスが唱えるなり俺たちの周囲にドーム状のバリアみたいなのが張られて、ワイバーンの火の玉を防ぐ。
「
続いてクラリスが唱えた呪文で、杖の周囲から光弾がいくつも放たれる。
「キエエッ!?」
「キエエエエエン!!」
何頭かには命中して打ち落とされるものの、大多数にはヒラリとかわされてしまう。
「ふえ~!? 速すぎるよー!」
「スピード勝負なら任せろ!
今度はアンナが目にも止まらない剣捌きを見せるも、空中のワイバーンには掠りもしない。
「くそっ、これではこちらの分が悪い!」
敏捷に宙を舞うワイバーン相手に苦戦するクラリスとアンナの二人。
俺も援護しねえと! えーと、そうだ!
バッグから飛び出してクラリスたちから少しはなれた俺は、早速このスキルを行使した。
「クギャアアアアアア!!」
「キエエッ!?」
俺の咆哮でワイバーン共が見えない壁にぶち当てられたようにバタバタと墜落していく。
「よくやったダイナ! 地上戦ならこちらのものだ!
「
雷電をまとうアンナの剣がワイバーンを切り裂き、クラリスの出した魔法の蔓が絡みつく。
俺も加勢するぜ、
念じた俺の牙が冷気に包まれて、それで噛みついたらワイバーンの身体が凍りついた。
「おお、ダイナきゅんのスキルっすか!」
へへ、どうだいサラ!
空飛ぶドラゴンなら氷がよく効くと思ってな。
俺たちが無双してると気がつけばワイバーン共はこれで全滅していた。
ついでにレベルも21に上がったぜ。
「おお~、ワイバーン相手にここまでやれるなんてさすがっす! ボクの出る幕がなかったっすね」
パチパチと手を叩きながらおもむろに歩み寄るサラに、クラリスはえへへと笑う。
「今回もダイナのお手柄だよ~」
へへっ、クラリスになでられて俺も嬉しいぜ。
それからアンナがワイバーンを部位ごとに解体したところで、俺が
「へ~、ダイナきゅんにはそんな力もあるんすねー」
「ああ。おかげでいつも助かってる」
「皆さんの力を見込んでなんすけど、もう少し付き合ってもらえるっすか?」