「お店は空けててもいいの?」
「お店ならしばらく閉めるっす。ボクもちょうど武器や防具の素材を収集しなきゃなんすよ。――そうだ、良かったらボクとパーティー組まないっすか?」
サラの唐突な提案に、アンナは眉を潜める。
「Bランクだというお前がなぜ私たちと組むんだ?」
「いやー、ボク一人で行ってもいいんすけどね。 久しぶりにギルドで依頼を受けるならやっぱり一緒に行く仲間が欲しいなーって」
「それで顔見知りの私たちに、というわけか」
アンナの確認にうなづいたサラに、クラリスが抱きついた。
その瞬間クラリスのたわわなおっぱいがサラの顔面を包み込む。
「わたしたちなら大歓迎だよ~! よろしくね、サラちゃん!」
「わぷっ、ありがとうっす。――分かったから離れてほしいっす、息が苦しいっす!」
「あ、ごめんねサラちゃん」
クラリスに解放されたところで、サラが自分の胸に手を押し当ててこんなことを。
「それにしても大きいお胸っすね。羨ましい限りっす」
「え~、そうかなあ? これだけ大きいと毎日肩が凝って大変だよー?」
自分の大きなおっぱいを押し上げてため息をつくクラリス。
おいおい、ちょうど対面でサラの顔がどんよりしてるぞ。
「話は逸れたが、サラはどの依頼を受けるつもりなんだ? あんまり難易度の高すぎる依頼では私たちも困るのだが……」
「あ、それは問題ないっす。お二人でも問題なく進められる依頼にもう目星をつけてあるっすから」
そう言ってサラが指差したのは、一際上質な紙で書かれた依頼の張り紙だった。
「どれどれ~? えーと、竜の谷でワイバーンの爪を集めるんだね」
「そうっす。ボクとしては他にも竜の谷で集めたいものがあるっすから、この依頼をついでに進めるのもいいかな~って」
「Dランクの依頼を片手間で、か。さすがはBランクといったところだ……」
アンナがあごをなでたところで、クラリスがサラに質問する。
「竜の谷ってどんなところなの? やっぱりドラゴンがいっぱいいたりするのかなー?」
「その通りっす。クラリスさんも鋭いっすね!」
「えへへ~、そうかなあ?」
「竜の谷って名前がついてるんだから、それくらい容易く想像がつくだろ……」
サラにおだてられて照れ隠しに笑うクラリスに、ため息をついてツッコミを入れるアンナ。
「竜の谷はワイバーンをはじめとしたドラゴン種族の一大生息地になってるのももちろんっすけど、他にもそこにしかない古代素材が目白押しなんすよ!」
「こだいそざい~?」
「竜の谷だけで残っている古代からの植物とか鉱物のことっすよ。これがすごい武器とか防具の素材になるんすよ~!」
目をギラギラと光らせて古代素材を語るサラに、アンナが質問をする。
「出発はいつにするんだ? 私たちはいつでもいいのだが」
「それならもう今から出発するっす。さあ、四十秒で支度するっす!」
空から女の子が降ってくる名作映画を思わせるサラの台詞に、クラリスが目を回した。
「ええ~!? 今から四十秒なんてキツいよ~!!」
「あくまでものの例えに決まっているだろ」
「てへっ、一度言ってみたかったんす」
照れ隠しにペロッと舌を出すサラ。
こうして俺たちはBランク冒険者だっていうサラと一緒に依頼を受けることになったのであった。
簡素な馬車に揺られながら南西の荒野を進む俺たち。
乾いた風に金髪のツインテールをなびかせるクラリスに、サラが話しかける。
「そういえば昨日はギルラトで騒ぎがあったみたいっすけど、クラリスさんたちは大丈夫だったっすか? お二人とも同じ時にギルラトに行ったって聞いたっすから……」
「それなんだけどね、全然大丈夫じゃなかったんだよ~」
「依頼主に騙されてな、危うく下衆な貴族の奴隷にされるところだったんだ」
「そうなんすか!? よく無事に帰れたっすね……」
目を白黒させるサラに、クラリスはバッグから俺を取り出した。
「クカ?」
「この子が助けてくれたからね。ダイナってばすごいんだよ~? こーんなに大きくなって、悪い貴族もガオーッて黙らせちゃったんだもん!」
オーバーな身振り手振りなクラリスの説明に、サラは身を乗り出して興味津々のようで。
「それもっと詳しく頼むっす!」
「私たちも詳しいことは分からないのだがな、ダイナが巨大化したんだ」
「巨大化……。うーん、確かにダイナきゅんも前に見たときよりたくましくなってる感じがするっす。もしかしたら進化したのかも知れないっす」
のほほんとしたサラに見透かされたようで、俺は思わず冷や汗をかく思いだ。
もっとも今の俺は恐竜だから、本当に汗なんてかかないんだけどな。
「「進化?」」
「そうっす。ドラゴンもそうなんすけど、魔物は一定の条件を満たすと姿形が大きく変化することがあるんすよ。ダイナきゅんの巨大化ってのももしかしたらそれかもっす」
「クカァ……」
俺の進化を見破るなんてサラの奴、意外と鋭い。
ふとここでアンナがこんなことを問いかける。
「そういえば出発前に着替えとタオルを持ってくるように行っていたのはなぜだ?」
「そういえばそうだったね~」
そうか。俺が入ってたバッグがやけにふかふかだと思ったら、クラリスたちの着替えとタオルが入ってるんだ。
「ふふ~ん、何を隠そう竜の谷のすぐそばに評判のいい温泉宿があるんすよ!」
なに、温泉!?
「クカァ!?」
「「おんせん?」」
温泉と聞いて鼻息が荒くなる俺と、不思議そうに首をかしげるクラリスとアンナ。
「もしかしてお二人とも温泉は初めてっすか? そもそも温泉というのは地中から湧き出るお湯のことなんすけど、これがまたすごく気持ちいいんすよ~! 依頼が一段落したら温泉に入るつもりっす」
「へ~、それは楽しみだよー!」
サラの説明で目をキラキラ輝かせるクラリス。
温泉とはまた定番のイベントだ、俺も楽しみだぜ。
そんなことを話しているうちに、俺たちの前に雄大な渓谷が見えてくる。
「見えてきたっす、あれが竜の谷っす!」