夜が開けた後、俺を連れたクラリスとアンナはまず街の教会に足を運んだ。
教会の聖女様に呪いの首輪を外してもらうためだそうで。
実際に聖女様がスキルを使うと、呪いの首輪は跡形もなく消えてしまったのだ。
「これでもう大丈夫です」
「ありがとうございます、聖女様!」
「恩に着る」
クラリスとアンナの感謝に、聖女様は柔和に微笑む。
こうしてみると聖女様ってすげえ美人だし、クラリスほどじゃないけどおっぱいも大きいな。
そんな感じでジーッと見てたら、聖女様が膝を折って俺の顔を覗き込む。
「この子は?」
「はい。わたしの使い魔でダイナって名前なんです」
「可愛らしい子ですね」
え、俺ってやっぱ可愛いのか?
ちょっと照れ臭く感じてると、クラリスがパア……と表情を明るくする。
「そうなんですよ! 聖女様も分かるんですね! それにダイナはとっても勇敢で、昨日だって悪い人に捕まったわたしたちを助けてくれたんですよ!」
「そう、なんですね。お大事にどうぞ」
「はい、ありがとうございました!」
微笑んで見送る聖女様に手を振って、クラリスとアンナは教会を後にした。
「呪いの首輪が外れて良かったよ~」
「ああ、さすがは聖女様だな」
呪いの首輪がなくなった喉元をさすって嬉しそうに話す、クラリスとアンナの二人。
「よし、これで今日からまた仕事ができる!」
「うん! 頑張ろうねアンナちゃん」
「クカッ!」
一声鳴いた俺の頭をクラリスがなでてくれる。
「そうそう、もちろんダイナも一緒にね」
「クゥ」
早速俺たちがギルドに顔を出すと、受付嬢のリコッタさんが慌ただしい様子で駆けつけてきた。
「クラリスさんにアンナさん! …ギルマスがお呼びです!」
「……もしや昨日のことか?」
アンナの確認にリコッタさんはこくこくとうなづいてこんなことを。
「はい、ギルマスからお二人に話があるとのことです。こちらへどうぞ」
リコッタさんに案内されたのは、大きな円卓が中央にドンと置かれた立派な部屋。
円卓自体も高級そうだし、壁にはなんかすごそうな絵画も飾られている。
ここは一体……?
「この部屋って……」
「ギルマスから話があると聞いてはいたが……」
居心地悪そうにクラリスとアンナの二人がきょろきょろと見渡すと、あのギルマスが部屋に入ってきた。
筋肉隆々なたくましい身体つきとは裏腹に厚ぼったい化粧が施された顔。
間違いない、ギルマスのシュワルトさんだ。
「待たせたわね」
「「ギルマス(さん)!」」
二人と向かい合うように座ったシュワルトさんだけど、いつものオネエ感は鳴りを潜めて今は神妙な雰囲気。
「まずは二人が無事に帰ってこられたこと、ギルマスとして安心したわ。エルフのお二人がギルラトに行くなんて、自殺行為もいいところだもの。今度からはギルドを通さない仕事なんて受けたらダメよ?」
「そうだな。今回身をもって思い知ったよ」
指を立ててたしなめるシュワルトさんに、アンナはしんみりとうなだれる。
「それで、ギルラトで何があったのかしら? 私が聞いたところだとゲバコン伯爵が謎の魔物に襲撃されたという噂なのだけれど」
「はい、実は……」
それからクラリスが昨日の夜の顛末を説明すると、シュワルトさんは太い腕を組んで唸った。
「なるほど……そういうことだったのね。ダイナちゃんだったわね、二人を救ったなんてまるで騎士みたい。お利口だわ。でも伯爵を襲撃したなんて、ずいぶん思いきったことしたわね」
そう言いながら俺の頭をなでるシュワルトさん。
ゴツゴツとした手だけど、その中にも優しさと包容力が伝わってくる。
「それでクラリスちゃんとアンナちゃんは休んでなくていいのかしら? 昨日はひどい目に遭ったみたいだけど……」
「それは大丈夫だギルマス。ダイナのおかげで私たちは何ともないからな」
「むしろ昨日の依頼の報酬がうやむやになったんですもん、これからがんばらなくっちゃ!」
腕をぐっと構えてやる気満々なクラリスに、シュワルトさんは軽く微笑んだ。
「そう。何ともないようね、それならこれから頑張ってちょうだい。だけど無理はしないでね、辛くなったらいつでも私に相談しても構わないから」
「はい!」
「ああ」
「クカッ!」
こうしてギルマスのシュワルトさんとの対談はそつなく終わり、クラリスとアンナの二人は改めて仕事を始めることに。
部屋を出てロビーに降りると、掲示板のそばに見覚えのある人影が。
「あれは……」
「サラちゃんだよね? おーい、サラちゃ~ん!」
手を振りながらクラリスが大きな声で呼び掛けると、サラのドラゴンみたいな尻尾がピクンと反応する。
「この声はクラリスさんじゃないっすか! 奇遇っすね!」
すたすたと歩み寄るサラに、アンナがこんなことを訊ねた。
「サラ、お前はここに何の用だ?」
「あー、アンナさんたちには言ってなかったっすね。実はボク、Bランクの冒険者なんすよ」
「Bランク!?」
「お前が!?」
ビックリ仰天する二人の前で、サラはニシシと白い歯を見せて笑っていた。