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壁に空いた大穴の向こうでは、ズボンを下ろしてち○こを丸出しにした貴族風の中年男がクラリスに覆い被さろうとしている。
この状況を見れば何が起きていたかは明らかで、俺の胸にこれ以上ない怒りが燃え上がった。
「グギャオオオオオオオ!!」
「何をやっている、あの化け物を殺さんかあ!」
貴族風の男――どうやら名をゲバコンというらしい――の命令で、どこからともなく整列した弓兵が一斉に矢を発射する。
こんなもの!
「グギャオオオオオオオ!!」
俺の咆哮でおびただしい数の矢は見えない壁にぶつかったようにハラハラと落ち、弓兵共も吹っ飛んでいく。
待ってろクラリス、今から俺が助けに行くからな!
脚に力を込めると、巨体ながらクラリスたちがいる部屋にジャンプでひとっ飛び。
これも進化による力なのか!?
クラリスたちは進化した俺を見て、驚きで目を見開いていた。
近くで見て分かったことだけど、クラリスとアンナがベッドに手足を縛られている。
しかもクラリスに至っては胸の部分がはだけていて、たわわなおっぱいが丸出しになっていた。
あの野郎、クラリスになんてことしやがる……!
「グルルルルル……!」
怒りの唸り声をあげながら睨みつけてゲバコンとかいう男は、腰を抜かしながらわめいた。
「ひいっ! お助けーーーー!!」
その声を聞きつけて、また衛兵共が駆けつけてくる。
まだいやがったのか! だけど今の俺の敵じゃないぜ!
「グルウウウウン!!」
クラリスたちを巻き込まないよう
このくらいなら
そんな感じで衛兵を一人ずつ噛んでは投げ、噛んでは投げを繰り返し、ついに俺はゲバコンに狙いを定めた。
「ひ、ひいいいい!! わ、わ、私を誰だと思っている!?」
うるさい、そんなこと知るか!
「グギャオオオオオ!!」
俺がゲバコンの目の前で吠えると、そいつは気絶したのか動かなくなる。
……なんか拍子抜けだな、逆に殺す気が失せたぜ。
それから俺はそのままクラリスたちにズシンズシンと歩み寄る。
「な、何なんだお前は……!?」
様変わりした俺の姿にアンナは目を白黒させていた。
もしかして俺だって分からないのか……?
するとクラリスがこんなことを口にする。
「もしかしてダイナなの……?」
「グルル」
どうやらクラリスはちゃんと俺だって分かってくれたみたいだ。
そんな彼女に俺は大きくなった頭をすり寄せる。
「あははは、やっぱりダイナだ~」
「グルル……」
「お前、本当にダイナなのか……!?」
アンナはまだ信じられないって感じだが。
そうだ、二人を助けねえと。
俺は光らせた手の爪で、クラリスたちの手足を縛る縄を慎重に断ち切った。
今まで使わなかったスキルだけど、こういう小回りが要求される状況なら使えるな。
「すまないな、ダイナ」
「ダイナー! 怖かったよお~!」
自由の身になったクラリスが、俺の顔面に抱きつく。
わぷっ、顔面にクラリスの生おっぱいが!
――いや、そんなことを気にしてる場合じゃない。
俺は荷物を回収した二人の前で座り、頭に乗るよう促した。
「もしや乗れというのか?」
「そうみたいだね」
すぐに意図を汲み取ってくれたアンナとクラリスが、俺の頭によじ登る。
うほっ、二人の柔らかい尻と太ももが直に触れているぜ……!
二人を乗せたところで俺は立ち上がり、部屋に開けた大穴から飛び降りた。
「なっ!?」
「きゃあああ!!」
ズシンと地響きを立てて着地すると、アンナから苦情がまくし立てられる。
「おいダイナ! 飛び降りるならそう言わないか! 危うく振り落とされるところだったぞ!?」
「それは無理だよアンナちゃん、だってダイナ喋れないんだもん」
ナイスフォローをありがとう、クラリス。
少し歩くと俺はさっき落としたスカーフと防具を足元に見つける。
こいつもちゃんと回収しとかないとな。
口を開けてスカーフと防具を口の中の虚空に収容すると、俺はクラリスとアンナを背中に乗せてこの場を去ることにした。
「うわあ~、高い高ーい!」
俺の背中でクラリスが歓声をあげる。
今の俺は二階建ての建物くらい背があるからな。
夜の町を行く大恐竜、まるで恐竜映画みたいだぜ。
大股で歩くこと少し、俺たちはすぐにギルラトの出口にたどり着く。
門は閉じてるが関係ない。
俺がちょっと押すだけで、門はこじ開けられた。
それで俺はギルラトを出て、元の街へ帰路をたどるのだった。
「巨体の割には速いな」
アンナの言う通り、少し早足で歩けば馬車くらいのスピードは出るんだ。
それにしてもきれいな星空だ、数えきれないほどの星が夜空に瞬いてる。
星一つ見えない薄汚れた東京の夜空とは大違いだ。
しんみりとしながら俺は森の道を進んでいく。
幸い巨大な俺がいるおかげで、野獣とか魔物も襲ってくることはなかった。
あっという間に森を抜けてしばらく歩いたところで、拠点にしてる街が見えてきた。
「わ~、もう着いたんだあ! お疲れ様、ダイナ」
えへへ、クラリスに頭をなでられていい気分だぜ。
門の前で二人を下ろした時だった、突然頭の中にアナウンスが流れた。
【時間経過により大恐竜モードが解除されます】
え、大恐竜モード……?
不思議に思う間もなく、俺の身体は一瞬で元のちび恐竜に戻ってしまった。
「ふえええ!? ダイナがちっちゃくなっちゃった!」
すっとんきょうな声をあげるクラリスは、さすがにもう胸元を正している。
「巨大化したかと思えば今度は元の姿に戻ってしまったというのか……?」
「んー、でもちっちゃい方が可愛いよね~」
クラリスに抱き上げられて頬擦りされて、俺もまんざらでない気持ちになった。
安心したら俺の口から防具と青いスカーフがペロッと出てくる。
さっき回収した奴だ。
するとクラリスがスカーフを拾い上げて、俺の首に結び直してくれた。
「はい、これでまたわたしたちと一緒だね」
「クカァ……!」
そう微笑むクラリスはまるで天使か聖母のように見える。
これからもこうして可愛がられるなら、ちび恐竜でも悪くないかな。