その後も行く先々で待ち構えていた盗賊たちを蹴散らしながら、商人チャールズの護衛として森の道を行くこと半日。
俺たちはギルラトにたどり着いた。
「ここがギルラト……」
クラリスが息を飲むのも無理はない、この街を囲む外壁は前見たのと違ってあちこちに有刺鉄線が巻かれた物々しい外観だったのだから。
街の門番にチャールズが身分証を提示したけど、すぐには街に入れないようで。
「ずいぶん厳しい検問なんだな」
「ええ。ここは治安もよろしくないゆえ、馬車に麻薬や危険物を持ち込んでいないか厳しく検査されるんです」
アンナの感想にチャールズはハンカチで頬を拭きながら説明する。
そんな検査の手は俺たちにも差し向けられた。
「おい、そのバッグに何が入ってる?」
「えーと、この子は使い魔のダイナです。ほら、こんなにいい子なんですよ~」
バッグから俺を抱えあげてクラリスが門番に紹介する。
当の門番は困った顔してたがな。
しばらくして長かった検問は終わり、俺たちは晴れてギルラトへの入場を許可される。
「やっぱり人族ばっかりだねー。獣人もエルフも全然いないよ」
クラリスの言う通り、街行く住人は人族ばかり。
地球から転生した俺にしてみれば特に不思議なことではないけど、クラリスの目にはどこか不気味に写ったみたいで。
「そうだな、私たちエルフは場違いだろう。こんなところに長居は無用だ、依頼が終わり次第帰ろう」
「そうだね。この街の感じ、わたし好きじゃないかも……」
馬車に揺られながら不安げに話すアンナとクラリスの二人。
そうして馬車が行き着いたのは、人通りのない裏通り。
「妙だな。商人がなぜこのような場所に足を運ぶのか」
「なんか怖いよ……」
警戒を露わにする二人に、チャールズはこんなことを告げた。
「それではわたくし、少し野暮用がありますので。お二方はここでお待ちください」
「待て、こんなところに置いていく気か!? ――行ってしまったか」
アンナの呼び止めも空しく、チャールズはそそくさとこの場を離れてしまう。
「やはりおかしい。怪しすぎるぞ」
「でもどうすればいいのかな~? 荷物を放っていくわけにいかないし……」
怪しいと分かりつつも二人の身動きが取れないところに、なんか甘い匂いが漂ってくるのを感じた。
「……あれ? なんだか眠くなってきた……」
そうかと思えばクラリスとアンナがその場で横たわって、すぐ眠りについてしまう。
俺もなんだか意識がもうろうとしてきた。
これは一体……?
降りかかる睡魔に抗っていると、俺たちの前に黒いローブで全身を隠した三人組がやってきた。
「作戦通りエルフ二人は眠りについているようだ。あの商人もうまくやってくれたな」
「よし、このままこいつらを連れていけ」
クラリスとアンナを連れていくだって!?
熟睡するクラリスに手を伸ばそうとする黒ずくめに、俺はおぼつかない脚で間に割り込んだ。
「ク……カ……っ」
「ん、何だこいつは?」
気づいた黒ずくめの一人に、俺はやすやすと払いのけられてしまう。
「このエルフたちが連れてきていた使い魔と見られますが、どういたしましょう?」
「放っておけ。こんなモノ取るに足らん」
フラフラの俺を無視して黒ずくめの三人組は、クラリスとアンナの二人を小脇に抱えた。
待ちやがれ……!
クラリスとアンナを連れさらう黒ずくめの三人を前にして、俺の意識は無情にも遠退いていく……。
「……クカッ!?」
気がつくと辺りはすっかり夜になってしまっていた。
あれ、俺は確か……。
――そうだ、クラリスとアンナは!?
慌ててキョロキョロと見渡すけど、二人の姿はどこにもない。
そうだ、あいつらに二人はさらわれたんだ……!
くそがあああああああ!!
「クガアアアアアア!!」
憤りのままに吠えたところで、事態は何も変わらない。
すぐに二人を探さないと! だけどどうやって……?
二人を探すため、俺は夜の街を探索することにした。
月明かりもなく暗闇に包まれた街並みは、昼あんなに溢れていた人通りもなく不気味なほどに静まり返っている。
当てもなくさまようことしばらく、俺はついに清々しい花のような香りを鼻に捉えた。
この香りはクラリスのだ。ということはこの匂いをたどれば……!
そう考えて匂いをたどる俺は、いつの間にか巨大な屋敷の前に行き着いていた。
この屋敷から二人の匂いが強く漂っている、間違いない!
だけど中へ入ろうにも入り口は鉄格子の門で塞がれている。
こういうときはアレだ。
俺がそう念じると、牙が赤く燃える火に包まれる。
この状態で鉄格子の門に噛みつく、だけど門はびくともしない。
くそっ。金属には熱と思ったのに、うまくいかないか……!
いや、諦めるのはまだ早い。俺にはまだ別のスキルがある。
めげずに今度は白く閃光を放つ牙で噛みつくと、今度は鉄格子をひしゃげさせることができた。
こうやって格子を曲げれば……よし、俺だけでも通れるスペースができる。
中に入ると、早速衛兵が何人も駆けつけてきやがった。
早すぎる!
「何だこいつは!」
「構わん、殺せ」
そうかと思ったら衛兵がいきなり剣を抜く。
こうなったら仕方がねえ!
俺は衛兵共と交戦することになってしまった。