翌日、この日もクラリスとアンナの二人に連れられてギルドに足を運ぼうとしていた時だった。
「あれ、あの人は……?」
「見かけない顔だな」
クラリスたちの言う通り、ギルドの前に普段は見かけない男がいるのだ。
ずいぶん太っちょな男だけど、何者なんだろう?
そんなことを考えてたら、クラリスがその太っちょに向かっていった。
もちろんバッグの中に入ってる俺も一緒にである。
「あのー、何かお困りごとですか?」
クラリスが声をかけるなり、太っちょが彼女の手を握った。
ちなみにそいつの名前はチャールズ・ドクソンだって、俺の
「おお、もしや貴方はクラリス殿ではございませんか!? 話は耳にしておりますぞ。最近メキメキと実績をあげている、エルフ二人組の一人と」
「へ、ふええ~!?」
チャールズにガシッと手を握られてすっとんきょうな声をあげるクラリス。
おい、なに気安くクラリスの手を握ってやがる!
「クガア!!」
「わわっ、なんと!?」
クラリスのバッグから顔を出して吠える俺にビビったのか、チャールズは慌てて彼女の手を離した。
続いてアンナも駆けつけてくる。
「おい、貴様は何者だ。どうやら私たちのことを知ってるようだが」
「おっと、申し遅れました。わたくしはチャールズ・ドクソン、しがない商人の者でございます」
そう告げてチャールズは名刺のようなものを差し出した。
「それで商人のチャールズさんがわたしたちに何の用なの~?」
「はい。実はギルラトに向けて出発する予定なのですが、我々の護衛をしていただく冒険者さんをこのギルドで募ろうと思ってまして。しかしこうしてお二方に会えたなら手間が省けますよ」
「「ギルラト……」」
チャールズの口から出たギルラトと聞くなり、クラリスとアンナの二人は警戒心を露わに顔が険しくなる。
何かあるんだろうか? ギルラトには。
「エルフのお二方が不安に思うのも無理はございません、なにせギルラトはここと違って亜人種族に対する差別が色濃いですから。しかしそれでも貴女方にこの護衛の依頼を受けていただきたいのです、もちろん報酬は言い値で支払います!」
「しかし……。それに私たちでなくとも他に頼める者がこのギルドにはいるはずだが」
渋るアンナの前で、チャールズは頭を深々と下げて頼み込む。
「お願いします、貴女方だけが頼りなのです! この通り!」
チャールズの必死な頼み込みで、クラリスがアンナにこう持ちかけた。
「――受けてあげようよ、アンナちゃん。わたしたちの力をこの人が必要としてるんだよ?」
「おいクラリス、本気か? お前も知ってるだろ、ギルラトではエルフをはじめとした亜人種族が奴隷として闇で取引されているという話があるんだぞ」
ど、奴隷!? 確かに異世界ものでは奴隷も定番だったけど、まさか本当に存在するなんて。
だけどクラリスの意志は変わらなかった。
「それでもわたしは必要としてくれる人がいたら手を差し伸べたい。大丈夫だよ、だってわたしたち強いんだもん」
クラリスが向ける真剣な目に、アンナも折れたようで。
「分かった、クラリスがそこまで言うなら私もその意志を尊重しよう。――チャールズ、クラリスに感謝しろ」
「ありがとうございます……! それでは昼になったら出発いたしましょう。荷物は急いで届けなくてはなので……」
こうして俺たちはこの太っちょ商人の護衛を引き受けることになった。
だけどこのときは知るよしもなかった、この依頼の裏に待ち受ける影を……。
ギルドを出たところで、アンナがクラリスを問い詰める。
「クラリス。お前が困ってる人の助けになりたいのは分かるが、少しは考えたらどうだ。私たちエルフがギルラトに足を踏み入れるというのは危険が伴うんだぞ」
「え~? わたしちゃんと考えてるつもりなんだけどなー」
ボンヤリとしたことを言うクラリスに、アンナは額に手を添えて深いため息をついた。
「まあ受けてしまったものは仕方がない。とりあえず今後の準備をしよう。まずはエルフであることを隠すためのローブをだな……」
それからアンナたち二人は服飾屋でローブを買ってから、昼頃に待ち合わせ場所である街の出口に向かう。
「お待ちしてましたよ、エルフのお二方」
手をすりすりと擦りながらニカッと笑みを浮かべるチャールズに促されて俺たちが幌馬車に乗ると、そのままギルラトに向けて出発した。
……だけど馬車も揺れるな、外の景色でも眺めてないと酔いそうだぜ。
バッグから顔を出す俺を見たチャールズが、クラリスに話しかける。
「クラリス殿は不思議な使い魔を連れてらっしゃるのですね。リトルドラゴンの一種でしょうか、見たことのない姿をしてますが……」
「実はわたしにもよく分からないんですよ~。それでもダイナはわたしの大事な仲間なんです。ねーダイナっ」
「クカッ」
ニコッと笑みを浮かべるクラリスに、俺は一声鳴いて返事をした。
後方の街が見えなくなって、森の道に入ってしばらく進んだときだった。
突然馬車が急停止して、クラリスたちと一緒に前につんのめってしまう。
「きゃあっ!?」
「何事だ!」
慌てて外に出る二人に連れられると、どう見ても盗賊といった風貌の男たちが馬車の前で立ちふさがっていた。
「荷物を全部置いていけ! そうすれば命だけは助けてやってもいいぜ?」
「おや? アニキ、なんか荷物だけじゃなくて可愛い娘共も出てきやしたぜ?」
ありがちなセリフと共に、盗賊共がクラリスとアンナをイヤらしい目でじろじろと見る。
「ひいっ! こいつらをどうにかしてください~!」
チャールズはというと、幌の中に引っ込んで縮こまっていた。
全く情けない奴だぜ。
だけどそんなチャールズに構わずクラリスたちはそれぞれの武器を手にして臨戦態勢に。
「あぁん、やんのかあ?」
「そんなにやりたいなら分からせてやるぜギャハハ!」
下卑た馬鹿笑いをする盗賊共に、早速攻撃を仕掛けたのはアンナだ。
「
「ぐはあっ!?」
早速盗賊の一人が雷電をまとったアンナの剣に斬り伏せられる。
「なんだこのアマぁ! ――うげっ!?」
「わたしもいるんだから!
クラリスの魔法で地面から生えた茨が、盗賊をまた一人打ちのめした。
「「「てめえええ!!」」」
「行くぞ、クラリス!」
「うん!」
目配せをした二人は、怒り狂った盗賊共をあっという間に鎮圧したのである。
俺が出る隙もなかったな……。