頭の中のアナウンスに従ってステータスを見てみると、なんかすごいことになっていた。
変化していたところを抜粋するとこんな感じ。
個体名:ダイナ
種族:リトルレックス
レベル:9
体力:60/60
筋力:90
耐久:48
知力:36
抵抗:24
瞬発:48
おお、クラリスに名前を付けてもらっただけで能力値が上がってるぜ!
「えへへ、すごく嬉しそうだね。何かいいことでもあった~?」
ああ、それはもちろん! あんたのおかげで俺もっと強くなれるぜ!
有頂天でピョンピョン跳び跳ねる俺をニコニコしながら見つめるクラリスは、ふと手をポンと叩いてこんなことを言い出す。
「そうだ! アンナちゃんと待ち合わせしてたんだった~!」
「クカッ?」
俺が小首をかしげると、クラリスはしゃがんで目線を合わせながら説明した。
「アンナちゃん、わたしの親友だよ。わたしたち仕事でこの森に来てたんだけど、二手に別れて目当ての魔物を探してたんだあ。ん~でもアンナちゃん方向音痴だから大丈夫かなあー?」
なるほど、そんな事情でこの森に来てたのか。
どんな魔物を探してたのか気になるけど、しゃべれないのでこれ以上知りようがない。
するとクラリスがエルフ耳をピクピクと動かしてすくっと立ち上がる。
「この反応は、アンナちゃん!?」
反応? 俺には何も感じなかったけどな。
「行くよ、ダイナ!」
「クケッ!?」
そう告げるが早いか俺を抱き抱えたクラリスが森の中を駆け出す。
もちろんまたクラリスの巨乳に包まれることに。
ああ、至福。
だけど当のクラリスはくるりとロールしたツインテールを振り乱して急いでるみたいで。
「アンナちゃん、無事だよね……!?」
彼女の口から漏れたのは不安と思しき言葉。
そうして走るクラリスのおっぱいに包まれながら揺られることしばし、俺たちは巨大なギガントカリブーと対峙するエルフの少女を見つけた。
ウルフカットの銀色がかったプラチナブロンドの髪に、金色をした切れ長の瞳。
緑のミニワンピースに包まれた身体つきはクラリスよりもスリムで、それでいて出るところは出ているナイスバディーだ。
そうそう、エルフっていったらこれだよな!
おっと、少女の見た目を分析してる場合じゃない。
「アンナちゃん!」
その名前を切迫してクラリスが呼ぶ通り、剣を構える少女は傷だらけで息を荒くしているところ。
しかもあのギガントカリブー、さっき俺をボコボコにした奴よりもさらに身体が大きくて角も立派だ。
さっきのが雌ならこいつは雄か!
「ブルルル……!」
怒り心頭で鼻を鳴らすギガントカリブーの身体にも切り傷があちこちにあるが、あまり深手は負っていない様子。
はたから見る限りではアンナと呼ばれたエルフの少女が劣勢のようだ。
「アンナちゃん、今すぐわたしが治癒魔法をかけるね! ――
俺を下ろして木の杖を構えたクラリスが唱えると、アンナの傷がみるみるうちに癒えていく。
「すまない、助かった」
「んもう~! あんな大物を独りで相手にするなんて無茶しちゃダメ!」
「ははは、クラリスの言う通りだな。よし、今から力を借りるぞクラリス!」
「そう来なくっちゃ!」
なんかよく分からないけど、二人の士気が格段に上がってる気がするぜ。
「
両手を組んだクラリスが唱えると、アンナの身体にオレンジ色のオーラがまとわれる。
「ビルルルルルルル!!」
それを知ってか知らずか激昂したギガントカリブーが上体を上げてから突進してきた。
「来い!」
迫り来るギガントカリブーをギリギリまで引き付けてから、アンナが刀身に手をかざす。
「
そう叫んだアンナが雷電がまとわれた剣を振るうと、ギガントカリブーの前脚に深い裂傷を負わせた。
速い! これがアンナの実力なのか。いや、そうならさっきまであんな劣勢にはならなかったはず。
クラリスが力を貸してからだ、ここまで劇的に強化されたのは。
「ビルル!?」
「終わりだ!」
傷を負った前脚を庇うギガントカリブーの首を、アンナが雷電をまとった剣で貫く。
その直後、ギガントカリブーの巨体がゆっくりと倒れ伏した。
「やった……のか?」
息を荒くするアンナに、クラリスが飛び込むように抱きつく。
「やったねアンナちゃん!」
「ああ。お前のおかげだクラリス」
お互い笑い合う様子が友情って感じで清々しい。
それにしても強いんだな~あの二人。
俺が手も足もでなかったギガントカリブーを倒しちまったよ。
そんな二人に俺が歩み寄ると、アンナの鋭い目がこっちを向いた。
「何だこいつは? 見たことない魔物のようだが」
「クケッ!?」
待った待った! 俺は怪しいものじゃない! だから今突き出しているその剣を下げてくれ!
「待ってアンナちゃん! この子はね、森で怪我してるところをわたしが助けたの!」
「クラリスが拾ってきたのか?」
目を丸くするアンナに、クラリスはうんうんとうなづいて説明を続ける。
「それでね、この子にダイナって名前を付けてあげたんだ~」
「ちょっと待て。名前を付けたってお前、それがどういうことだか分かってるのか!?」
「悪いのー?」
何だろう、雰囲気が一気に凍りついたような気が。