「じゃ、2冊目行こうか……気が進まないなぁー本当に」
『先にどんな物語が待ってるか分かるからかしら?』
「それもそうだけど、正直……止められるようなモノでもないじゃん、これ。クリエイターがクリエイターとして、クオリティを求めすぎた結果の産物って事でしょ?結局はさ」
ここまで読んだ私の感想はコレに尽きる。
所々かいつまんで読んでみてはいるものの。時折、繰り返すように……自分に言い聞かせるように『VRなのに現実を忘れるような世界を作れない』とか『完璧を。妥協は死でしかない』なんて書かれているのだ。気が滅入る以前に、ここまで鬼気迫る状態でモノ作りをしている相手に対して、私は言える何かを持ち合わせてはいないのだから。
「……よしっ、読もう」
一度、気合を入れ直し。2冊目の日記を開き読んでいく。
基本的には1冊目と似たような、このゲームの開発日記のような内容だ。
しかしながら、
「『ある日から、ゲームに対してのアプローチが思いついて止まらない。あれもこれも……思いつく限り、全てを試してみたい。もし成功したならば……いや、そもそもこれは本当に自分のアイデアなのか?あの声が聞こえた日から、何処か、何かがおかしい気がする。……でも、もう止まれない』」
『やり口が悪魔ね、コレ。相手が望むものを与えて……対価に何を要求してるのかが見えてこないのが怖いわ』
「悪魔だから魂だとは思うけど……他にもありそうだよね。どっかに書いてないかな……」
開発はもう戻れない所まで来てしまっているようで。
彼自身も何処かおかしいと思いつつも、ゲームを開発する手を止める事は出来ないようだった。
彼をこのような状態にした存在……未だ、日記の中では声でしか登場していないソレが何なのか。はっきりと登場している場面を探していけば。
「――あった。『ある日、夢を見た。俺は何処かの四角い部屋の中、椅子に座っていたんだ。木製の椅子に、木製の机。そして対面には……男が居た。軽薄そうな笑みを浮かべた、燕尾服を着た男だ。……アイツは言った。自分が提供するアイデアは気に入ったか、と。もっと、もっと君の想像を超えるようなアイデアを提供出来ると』」
『夢で接触……夢魔?』
「いや、そうじゃないっぽい」
【口裂け女】にも分かるよう、指である文章をなぞっていく。そこに書かれていたのはこうだ。
『その男は、自分の事をメフィストフェレスだと名乗った。……悪魔だとでも言うのか?いや、だが……ここ数日の俺の変化を考えてしまうと、否定しきれない自分も居た』。
……存外、大物が出てきちゃったなぁ。
ファウスト伝説に登場する悪魔であり、物語の中で契約者に対して無限の知恵を与えたともされる存在だ。だが、迂闊にその名前を声に出す事はできない。
通常、名前を出しても問題は無いだろうが……このゲームがこの悪魔の力を借りて作られたとなれば話は別だ。なんせ、名を呼ぶという行為はその存在を呼び寄せる行為に他ならないのだから。
「『悪魔がなんだ。現実よりも価値がある世界が作れる?望むところだ。俺は、俺のゲームで世界を魅せてやる。クオリティで他の追従を許さない……誰も作れなかった世界を作り出してやる』。……堕ちちゃったなぁ」
『もうこうなってくるとどうしようもないわねー。運営の方は何も言ってないのかしら』
「いや、この頃も度々衝突自体はしてるみたい。『運営が『過労で死ぬぞ』なんて言ってきた。優しさかもしれないが、俺の夢がすぐそこに迫ってるんだ。邪魔をするなら……もう、独りでやってやる』。決裂したねぇ」
『しちゃったわねぇ』
私と【口裂け女】のリアクションが薄いのは、結局の所の結末が分かり切っているからだ。
悪魔を呼び出し、技術を得てしまった者の末路なんて……どんな文献を読んでも大体同じなのだから。
読み進めていく度に、開発の正気は失われていくのが分かる。
……文字が読みにくくなってきたな……ホラゲとかで日記読んでる人達もこんな感じで読んでたんだろうなぁ。
まともに読めていた文章は、ミミズが這ったかのような文字へと変わっていく。
だが、その中でも読める単語を繋げて読んで行くと、
「『奴の目的は、このゲームが世に出る事だ』。『何故かは分からない。だが、それは俺も望んでいる事。進むしかない』。『もっと、もっともっともっと俺に技術を、アイデアを』」
『ここでページは終わり?』
「終わりだね。まぁ……辛うじて読み取れる日付的に、ゲームが完成したんでしょ。開発がどうなったかは分からないけど……これはゲームの開発日記みたいなものだからね。書く必要がなくなった訳だ」
一息。
開発の末路、と言うよりは。この日記2冊に書かれていたのは、悪魔によって狂わされた人間の末路だ。
クオリティを、開発が求めた『現実よりも価値がある世界』とやらを作り出す為の技術をメフィストフェレスは与え、その対価としてこのゲームが世に出る事を望んだ。
……何が目的なんだろう。このゲームが世界に出回る事で一体何の得が悪魔側にある……?
引っ掛かるのはそこだ。
一見、悪魔側には何のメリットも無い対価。だが、メリットが無いモノをあの手の存在が求める訳がない。
「……わっかんないなぁ……」
『考えても仕方がない事もあるわよ?』
「まぁね。でも考えなきゃいけないのが私の仕事でもあるんだよねぇー……」
『中々辛いわねぇ、社会人も』
「そうなんだよ。でもま……考えなくても分かる事はあるか」
結局の所、メフィストフェレスの目的が何なのかが分からなくても、今の私が判断出来る正解の道を1つある。
「このゲームを止めよう。ぶん殴ってでもさ」
『あら物理。野蛮ねぇ』
「でも好きでしょ?こういうの」
『好きに決まってるじゃない。私がどんな都市伝説か、どんな逸話があるか思い出しなさいな』
「ふふ、頼もしいなぁ」
元より、この事態の解決法は示されているのだ。
このArban collect Onlineの最深部まで辿り着けばいい。簡単な話でしかない。
そこにぶん殴れるものがあるならばぶん殴れば良いだけの話だし、その上で何か別のモノが必要となってくるならば、それを持っていけばいい。
だが、どちらにしても、それはイベントが終わった後の話。
「今は、イベントに全力を、だね」
『初心ね』
「そうだよ。初心ってのは何よりも優先されるべき心掛けだからねー」
今はただ、全力で目の前の問題を片づけていく事にしよう。
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プレイヤー:神酒
・所属
伝承蒐集部隊【蒐集部門】
・所有アルバン
メイン【口裂け女】
サブ1【メリーさん】
サブ2【猿夢】
サブ3【下水道のワニ】
サブ4【ダドリータウンの呪い】
・装備
蒐集部門急所特化制服(上)
蒐集部門急所特化制服(下)
・逸話同調
技術:奇譚繊維操術 Lv.7
技術:同種侵食 Lv.4
技術:身体能力拡張行使 Lv2
技術:α能力拡張行使 Lv.3
技術:認識位相拡張 Lv.2
技術:単為同調 Lv2
技術:心像顕現 Lv3
技術:多為同調 Lv1
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