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Episode12 - リザルトトーク


 リアル戦のリザルトを確認する前に、私はやらないといけない事がある。

 下水道のワニ、そしてリアルから手に入れた謎の結晶の解析だ。

 故に、


「……何で着いてきてるんです?」

「面白そうだからよ。それに話も出来なかったでしょう?」

「話すつもりなさそうじゃないですか」

「まぁ、質疑応答形式の方がやりやすいとは思ってるわ」


 何故か着いてきたRTBNと共に、私は解読屋に訪れていた。

 手持ちの約半分程の都市伝説の欠片と共に、謎の結晶を預けてみると、


「……ふむ、これらはすこーし時間が掛かりそうですねー」

「どれくらいか分かる?」

「凡そ1時間ほど貰えればー解析が終わると思いますよー」

「……あれ、思った以上に早いかな……うん、それじゃあお願い」


 一瞬だけ固まった後、雰囲気が変わった店員NPCが予想以上に早い時間を提示してきた。


『今切り替わったわね。あの子、中身に誰か居るわよ』


 【口裂け女】に言われずとも流石に分かる。

 口調も、雰囲気も。それ以外の要素の何もかもが、NPC由来の無機質さを感じないものに切り替わったのだから。

……多分、運営側かな?こっちの味方っぽい動きをずっとしてくれてる側の人だろうし、あんまり心配しなくても大丈夫そう。

 恐らく、早い時間を提示出来たのはその辺りが原因だろう。

 他のプレイヤーから請けた仕事も並列してこなすNPCよりも、1人の……今回で言うならば私の依頼だけを最優先でこなしてくれる人間の方が早くなるのは必然だ。


「よし、じゃあ解析が終わるまでの間……リザルトでも確認しながら話しましょうか」

「結局話すは話すのね」

「知りたい事もありますしね」


 解読屋から出て、適当な広場のベンチに2人して腰掛け。

 インベントリの中身を見ながら話し始める。とは言っても、私が聞きたいのは1つだ。


「単刀直入に聞かせてください。――貴女は誰の味方です?」

「難しい話題ね」

「でもハッキリさせておいた方がお互いの為じゃないですか?」

「それもそうよねー……」


 RTBNがどこの陣営に属しているのか、だ。

 ライオネルの友人……マギステルやハロウ、メアリーと言った、イベントの時に手伝ってくれた面々とは違い、彼女はライオネルと繋がりがあるものの……その繋がりがかなり薄い。

 本当にライオネルに招待されただけに見えるし、その上で様々な組織と関係を持っている。

 駆除班やSneers wolfは関わろうとすれば関われる組織ではあるが、その上で両リーダーと近い位置まで短い期間で迫っていけている時点で普通ではないだろう。


「一応言えば、ただのゲーマーよ本当に。敵じゃないわ。ライオネルに招待されただけの、本当の一般人。アイツの知り合いの中でちょっと都市伝説とか逸話とか、伝説とかに詳しいだけ」

「……成程?」

「いや、まぁやってたゲーム的にそうなるのよ。魔術だけのVRMMOとか、固有の魔術が貰えるVRMMOとかね」

「魔術ばっかりじゃないですか。……でもそうか、魔術って言ったらそりゃあ……」

「関係あるものばっかりでしょう?魔術は特に」


 幸いにして、Arban collect Onlineには魔術のようなコンテンツは存在していないものの。他の、それこそその手のコンテンツに力を入れているゲームならば、都市伝説等の知識は有用となってくる事が多い。

 かく言う私も、他のVRMMOをやった時に都市伝説や逸話の知識が役に立った事がある側の人間だ。彼女の話を嘘と断定する事は出来ない。


「成程です。……背中から撃ってこなかったら、別に良いんですけどね。今回の場合は」

「今だとそれが一番怖いものね。にしたって、警戒しすぎじゃない?」

「警戒もしますよ。この、イベントが近い時期に突然現れた知り合いの知り合いを名乗る人……とか怪しまないわけないじゃないですか」

「私が言うのも何だけど、本当に怪しいわねソレ。タイミング最悪じゃないの」


 とりあえず、インベントリを操作している様に見せながらライオネルにこちらへと来るようにメッセージを送信する。

 RTBNの話を1つも信じていない訳ではないが、誘った本人に話を聞いた方が裏も取れるからだ。

……まぁ、現状のこのゲーム、現実世界の状態で敵じゃないって言い切るだけでも十分ではあるんだけど。

 私の聞きたいことは聞けた為、手慰み程度に開いていたインベントリから1つのアイテムを具現化させる。

 それは、


「札?……あぁこっちのインベントリにも同じの入ってるわね。って事は」

「リアルの特殊戦利品ですねー。まぁ御札って時点で色々と考えられる事は多いですけど」


 リアルを心像空間にて倒した事によって付与された、特殊戦利品。

 今までの2体のアイテムがそれなりに優秀だった事を考えると、今回のコレも性能自体は良いのだろうが……如何せん、リアルという存在的に心配な所はある。


「他が元になった存在の能力とか特徴を簡易的に再現したりしてるアイテムだったんで……リアルってなると、どれがモチーフになってるのかが分からないんですよ」

「ヘドロのデバフか、分体生成か、それとも首吊りか……分かんないわね」

「ちょっと最後のは止めて欲しいですけど、元の話側から何か引っ張られてくる可能性もあるんですよねー……まぁ見ますか」


 ここで話していても内容は分からない。

 故に、手に乗せている札の詳細を開いてみると、だ。


「あぁー……成程、そういう感じ」


――――――――――

Tale in ”Real”

種別:アクセサリー

状態:安定


能力:HP減少時、その要因となった敵対存在に対して『ヘドロ』を1スタック付与


説明:それはそこに居るだけだ

   何が封印されているのか、何故そこに居るのか、何で存在しているのか

   分からないが言える事は1つだけ

   ご愁傷様、と

――――――――――

――――――――――

Tips:『ヘドロ』

特殊状態。スタック数によって様々な効果を付与し続ける。

洗い流す事でスタック数を減少させる事が可能。

――――――――――


「ダメージ受けるの前提のアクセサリー……アクセサリーなの?これ」

「アクセサリーっぽいですよ?えぇっと……ほら、なんか分からないけど、不思議な力で頭に着きました」

「うわ、本当じゃない。こっちもなんか分からないけど腕に引っ付いたわ」


 札という形であるが故に、何処に着ける事が出来るのだろうと考えたものの。

 ゲーム特有の不思議な力で私の側頭部に着いてくれた為、そのままに着けておく事にした。


「うん、良いですね。他と競合もしないし……着ける場所によっては視界や動きの邪魔もしない」

「意外と使いやすいのが出たわね……これ、もしかして他の心像空間でも似たようなの手に入るのかしら」

「手に入りますよ?くねくねの望遠鏡もそうですし、下水道のワニのもこれですし」

「あー……じゃあイベントまではボス巡りした方が良さそうね……あるとないとじゃ大違いになりそうだわ」


 このアクセサリーの欠点があるとすれば、ダメージを受けねば効果が発動しない点だろう。

……だけど、少ないダメージでも相手が弱体化していくなら着けない理由がないよね。

 下水道のワニのような、そもそもが液体だったり液体を操る……もしくは液体が戦場の近くにある存在相手には弱いものの、それ以外の相手には汎用的に効果を発揮するアクセサリーは貴重だ。

 特に敵に囲まれる場面が多くなるであろうイベントの事を考えれば、これほど有用なアクセサリーも他にないだろう。


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