--心像空間【リアル】
そこは、今まで見てきたどの心像空間とも違う場所だった。
【口裂け女】や【下水道のワニ】のように、モデルとなった存在に関係するものが置かれているわけでも無く。
かと言って【くねくね】のように、何も存在はせず水面下に人が浮かんでいるような場所でもない。
ありとあらゆるものが雑多に置かれた、住宅地の一角のような場所。
それがリアルの心像空間だった。
「大丈夫ですか?」
「えぇ……あんた、毎度コレやってるわけ?ちょっと神経疑うわ」
「これで3回目ですよ。それに今回のは2人ですし、博打の面も強かったです」
私と共にこの空間へと転移してきたRTBNは、頭を横に振りながらこちらをじとっとした目で見ている。
とは言えど、その反応に対して何かを返すような余裕は私にはなかった。
……大量に奇譚繊維を使ったからかな……ちょっとキツイ。
先程までの、ダンジョン内でリアルに包丁を突き刺した所までは良い。ちょっとテンションがハイになっていた為に、精神的な疲れ等は吹っ飛んでいたからだ。
しかしながら、今。転移というリフレッシュ時間を経た状態では、中々に頭の回転が遅くなっているのを感じてしまう。
それにいつの間にかHPも減っている。ステータスを強化していたは良いものの、限界を超えて奇譚繊維を湧き出させていたからだろうか。半分以上減ったそれに溜息を吐きそうになる。
「兎に角、もうここは相手の腹の内。何処から攻撃されてもおかしくないですよ」
「知ってるわ。……でも、居ないわね?」
そう、RTBNの言葉の通り……嫌になる程見たリアルの姿は、周囲のどこにも見当たらない。
隠れているのか、それとも私達に見つからないよう逃げているのか。どちらなのかは分からないが、
「この空間はそこまで大きくないはず。いっちょ探し出しますか」
「どうやってよ?自慢じゃないけど、索敵系のアルバンは持ってないわよ」
「ホントに自慢じゃないですね。っていうか、私も別に能動的に索敵出来るアルバンは持ってないです」
「じゃあどうするの?」
「
言うや否や、私は背中から新たな奇譚繊維を湧き出させ巨大な拳を作り上げ……周囲の建物へと攻撃を開始した。
再度、僅かにHPが減ったのを確認しつつ。インベントリ内から回復薬を取り出して勢いよく呷ってから、
「更地にすれば、隠れる場所も逃げる場所も無くなるでしょう?」
「……何となく、ライオネルがあんたの事を気に入ってる理由が分かったわ」
呆れたような表情を浮かべる彼女は、その手の内に奇譚繊維で4枚のカードを作り出した。
「よっし、じゃあ派手にやってやりましょうか!ストレス発散よ!」
「良いですね良いですね!私もストレス発散!」
「ストレスの一角はあんたなのよ!」
「何でぇ!?」
【キング様】が4体出現すると同時、それぞれが剣や槍などを振るい建物を破壊する。
普段ならば絶対に出来ないような大規模破壊。一種のストレス発散も兼ねたそれは、止める者が居ないここではエスカレートしていくだけだ。
私の動きをトレースし突き出される奇譚繊維の拳、そこから具現化する大量の刃物。震脚の要領で、大規模な地震を引き起こす奇譚繊維の足。
それぞれがそれぞれの思う様に、やりたい様に心像空間内にある住宅地を破壊していけば。
「……ふぅー……」
「残りましたね、アレ」
「アレだけ攻撃効いてなかったじゃない。あんたも避けてたし」
「そりゃそうですよ。攻撃効かないモノに攻撃しても逆にストレス溜まるだけですし」
1つのアパートだけを残し、それ以外は全て瓦礫へと変わっていた。
……アパート、って言うと……リアルの主人公の家かな?
リアルという話の冒頭。主人公が何かを招いてしまった儀式を行った場所である、アパートの一室。
私達は顔を見合わせた後、お互いに頷いてからアパートへと向かって歩き出した。
「そっち開いてる?」
「いえ、そっちは?」
「開いてないわ。結局は話で登場してない部屋には入れないみたいよ」
辿り着いて最初に行ったのは、全ての部屋に入れるかどうかの確認だった。
というのも、周囲の建物は破壊出来たというのにここだけ破壊できないというのは……話に関係があるとは言えど怪しすぎる。
その上で、何かしら……例えば、イベントの情報が込められている結晶なんかが置いてあるかもしれないと探索を開始したのだ。
……んー……【下水道のワニ】の時が特殊だっただけかな。ここそもそもDAUで作られたダンジョンの中だし。
外の地下と、DAUのダンジョンの違いだろうか。
考えても仕方のない事ではある為に、私は一度その思考を断ち斬って、
「じゃ、開けるわよ」
「いつでもどうぞ。準備は出来てます」
再度全身を奇譚繊維の装備で固めた上で、唯一鍵が掛かっていない扉をRTBNが勢いよく開け放った。
瞬間、感じたのは強烈な腐敗臭とヘドロの臭いだ。お互いにその臭いに眉を顰めながらも中へと入っていくと。
そこに在ったのは、首を吊った1人の男性の死体だった。
「これって……そういう事ですか?」
「まぁそうでしょうね。あの話の最後はそう解釈してもおかしくはない書かれ方をしていたもの」
「……どうします?リアルの討伐出来ますかね、これ」
「んー……まぁこうでしょ」
言うやいなや、彼女は幾分か小さく出現させた【キング様】を使い首吊り死体の身体を槍で貫いた。
何をしているのだ、とは思ったものの……一応ここはゲームの世界。
……心情的にはかなり複雑だけどね!本当に!
だが、今回はRTBNの行動が正しかったようで。
『あァ……やっと逝けグゥ!?』
「うっさいわね、早く死になさいよ死にぞこない」
「あの、多分最期の言葉とか演出とかそういうのだと思うんですよそれ」
「あらそうなの?」
貫かれると共に、何かを喋り始めたその死体は何度も槍で貫かれ続け。
【ボス:【リアル】を討伐しました】
【戦闘データの確認……都市伝説データの蒐集の完了を確認】
【戦利品を付与しました】
【特殊状況確認……特殊戦利品を付与しました】
【逸話同調:技術獲得:多為同調 Lv1】
【データ蒐集完了:DAUの強制帰還システムを起動します】
「ん……ん!?」
ログも流れ、RTBNと私の身体が転移を開始し始めた時。
何度も何度も貫かれた結果、肉塊のようになってしまったソレの中に鈍く紫色に光る何かを見つけ……咄嗟にそれを手を掴んだ所で視界が暗転した。
視界が戻り、変なポーズでDAUの前へと戻ってきた私を見たRTBNが何かを言いたそうな目でこちらを見てきたものの……今の私にとってはどうでもいい。
「あっぶなぁー……回収出来ない所だった……」
咄嗟に掴んだ何か。それはしっかりと帰還した今でも私の手の中にあった。
よくよく見てみれば、
「何よそれ?都市伝説の欠片?」
「いえ……多分、イベントの情報とかが中に入ってる結晶だと思います」
「あー……なんか掲示板とかで話題になってたりする奴ね。何?あいつの身体の中にあったのそれ」
「あったんですよ。よく気が付きませんでしたね?」
「私が直接攻撃してる訳じゃないもの」
それは、【下水道のワニ】の時にも見つける事が出来た結晶と似たものだった。
つまるところ、何かイベントの追加情報が込められているモノであり、これからそう遠くない内にイベントが開催される今となってはかなり重要度が高いモノだ。
……気が付いて本当に良かったぁ……!
正直、リアルとの戦いがあっさり終わった事に違和感を覚えない訳でもないが、それはそれ。
知らない内に弱体化ギミックを踏んでいた可能性もあるし、本体が弱い為に群体を出していた可能性だってあるのだ。今はそれよりも、未来の事を考えよう。