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Episode10 - スレッジレギオン


 血は出ない。

 その代わり、


「ッ、ヘドロ……!」


 リアルの身体からは、血の代わりなのか酷い臭いがするヘドロが溢れ出した。

……これ、どっちだ!?

 逸話や伝説、寓話なんかには倒せば倒す程に、傷付ければ傷付ける程に災厄をばら撒く存在が語られている事がある。

 目の前のリアルは、倒されたという結末が無い逸話出身の存在。故に、その結末が無い事を良い方向に『解釈』している可能性だってあるのだ。


「考えている事は大体分かるけれど……問題ないわよ」

「へ?……あぁ、成程!」


 目を凝らし、警戒心を強めていた私にRTBNが呆れたような声を掛けてくる。

 その瞬間、貫かれたリアルの身体が青い炎によって燃え始めたのだ。


「これも【キング様】の?」

「そ。対象を単一に、尚且つ命中した後のアフターサービスまで求めたら少し時間掛かったわ」


 キング様。所謂、おまじないに属する都市伝説であり、その性質は願いを叶える事に特化している。

 だが、その分失敗した時や途中で止めてしまった時の代償は計り知れないモノがある……そんな、恐ろしくも夢がある都市伝説だ。だが、通常ならばこんな戦闘には使えない願いしか叶える事が出来ないものでもある。

……奇譚繊維で能力強化して、攻撃特化にしたのかな。

 私が奇譚繊維から刃物の具現化を行うように。

 彼女は奇譚繊維を使い、その願いを叶えるという能力を拡張、強化した……のだろう。事前に見せてもらった能力詳細には詳しく書かれていなかった為、推測でしかないが……中々に強力なものだ。


「でも……終わった訳じゃないみたいよ?」

「……ですねー……群体型かなコレ」


 リアルの身体が燃え尽きた瞬間。

 私達の立っていた本堂が……否。周囲の景色全てが溶けていく・・・・・

 まるで汚れを落とすかのように、色が落ち、建物の造形が落ち、そして全てがヘドロの様に黒い何かへと変化して。


「「げぇ……」」

「2人共、女の子が出したらまずい声出してるわよ」

「なら【口裂け女】が相手する?良いよ、代わろうか?」

「あ、私今包丁研いでるから!じゃあね!」


 ヘドロの中から、大量の腕が、身体が、足が。リアルの身体が湧き上がるようにして出現していく。

 1体ではない。景色からヘドロへ、ヘドロからリアルへと……見渡す限り全てのモノがリアルへと変貌していくのだ。

……普通に倒そうとしてもジリ貧どころか……私じゃ倒せないな、コレ。

 私の持つ攻撃手段には、先程見た【キング様】のような炎などの現象系攻撃は存在しない。

 全てが己の身体、もしくは刃物による物理攻撃に寄っている為に、ヘドロから復活するような相手には無力なのだ。

 故に、


「これまたアレやらないといけないかなぁ……相手の核も見つからないし……」


 再び、心像空間にて特殊勝利を狙うしかないだろう。

 しかしながら、それを狙うという事はこの場にRTBNを1人残す事になるという事。

 心配そうに視線を向ける私に気が付いたのか、彼女は軽く溜息を吐いた後、


「馬鹿ね、私も行けるわよ。嘗めないで」

「……え、あっ、行けるんです!?」

「あんたみたいにスムーズにはいかないけどね。というか前回のワニも、もっと弱ってる状態なら私でもやれたわよアレ」


 人差し指と中指で挟むようにしながら、青黒い奇譚繊維で成形されたトランプのカードを作り出す。

 彼女の持つアルバンで扱うのに特化したのがあの形なのだろう。私のスタイルに合わせて手袋等に成形しているのと同じだ。


「だったら……道は付けます」

「了解、任せるわ。それまでの露払いは任せなさい」

「お願いします」


 で、あるのなら。RTBNを1人残さないのならばやる事は単純だ。

……狙うは、1体。核も見えない、数も多い。でも全部が同じ形をしてるなら……縁が繋がってるはず。完全スタンドアローンなんてあり得ないんだから。

 くねくねやワニの時とは違い、核へと直接侵食し行く訳ではない。だが……私達には無いかもしれないが、周囲のリアルには本体と繋がっている筈なのだ。

 それがどれ程薄く、希薄な縁であるとしても掴み取ってこちらと繋げるのが、今の私の仕事。

 故に、


「RTBNさん、1つだけ。――『勝てますよね?』」

「あぁー成程?あんたそれホントズルね。――勝てるに決まってるでしょう」

「ズルいは褒め言葉ですよッ!」


 私の身体全体に赤いオーラが首元の印から漏れ出ていく。

 久方ぶりに使った、【口裂け女】の質問式ステータス強化を使う事で自身の処理能力を無理矢理に上げて……全身から普段の倍以上の奇譚繊維を湧き出させた。

 その姿に何かを感じたのか、それとも本体から命令されたのか。周囲を取り囲んでいたリアル達が動き出す……のだが。


「はい、どんまいどんまい。吹き飛ばすだけなら一瞬で出せるのよコレ」


 RTBNの声と共に彼女の背後から巨大な半透明の王が出現し、手に持った両刃剣でリアル達を薙ぎ払っていく。

 ただただ薙ぎ払い、吹き飛ばすだけ。ワニの時のような爆発も、先程のような青い炎も存在しないものの。大量の敵を相手に、時間を稼ぐだけと考えるならばこれ以上ないだろう。

……無理矢理道を作るイメージ。狭い道をこじ開けるイメージ。細い糸を繋ぎ合わせるイメージ……ッ!

 それに感謝しながら、私は全ての奇譚繊維を手の内へと集め成形していく。

 心像空間へと向かう為の物。私とRTBNの2人を、居るかもわからないリアルの本体へと……リアルという都市伝説の核の元へと運ぶ為の物を。


「ッ……やっぱりこういう形には、なるよねぇ……!丁度良いけど!」


 そうして出来上がったのは、1つの赤黒い出刃包丁だった。

 私が湧き出させた全ての奇譚繊維と、全身に纏っていた他の奇譚繊維も全て使い出来上がったそれは、何処か威圧感のようなものを放っていた。

……使い方は……うん、何となく分かる。それに……私ならいける!

 形も、その方法も考えず、ただただ念だけを込めて作り上げたそれ。しかしながら、それを握っている私の頭の中には、どうすればいいのかが薄っすらと浮かんできている。


「RTBNさん、失礼!」

「いった!?あんたそれ一体!?操られてんの?!」

「そういう事じゃない!これも縁!」


 【キング様】を操り、リアル達を薙ぎ払っていたRTBNの腕を軽く斬り付け。次いで、私自身の腕も斬り付ける。

 すると、設定していないにも関わらず……両者の腕からは赤黒い血のような液体が流れ出し始めた。


「血は本人認証!そして大量の奇譚繊維を使ったこれは、侵食する為の鍵!――『あたし、メリーさん』!」


 そして、鍵は鍵穴へと差し込む事で機能する。

 【キング様】が全方位へと攻撃を仕掛けている今、こちらへと近付いてくるような存在は居ない。故に、私は自身の能力を使うのだ。


「『今あなたの後ろにいるの』!」


 誰を対象にするわけでも無く。適当に……この場から少し離れた、しかしながらRTBNの姿が見える距離へと私は飛び。瞬間、目の前のリアルの背中へと包丁を突き刺し捻る。

 さながら、鍵を開けるように。内部にはヘドロしかないというのに、肉を断ち骨へと到達し……砕いていく感覚を手に感じながら……私の視界はブラックアウトした。

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