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Episode8 - ダイヴイン


「さて、行くわよ」

「ちなみに、先にどんな都市伝説を相手にするかだけ教えてもらっても?」

「ぁー……『リアル』、って言って分かるかしら?いや、分かるわよね。あんた、そっちの人だし」

「まぁ分かりますけども。……いやーリアル、リアルかぁ……マジかぁ……」


 リアル。都市伝説、というよりは所謂怪異譚の1つであり……対処法が話の中に存在しない類のモノだ。

 由来は明らかになっておらず、話の中で登場する怪異は悪意も殺意も持っていない……ものの。

 強すぎる力を持っているが故に、その話の主人公に悪影響を与えてしまっていたという、何とも相手し辛いモノ。


「ま、ゲームだしボスとして設定されるなら何かしらのギミックは用意されるわ。それこそ、猿夢みたいに」

「それを探しだすのがまた大変なんですけどね。まぁ行きましょう」


 私がそう言うと、少しだけ驚いたような表情を彼女は見せたものの。すぐに気を取り直したのか、DAUの操作を始めた。

 筒状の装置の中に入ると共に、私の視界は暗転し……何処かへと落ちていくような感覚に襲われる。

 だが、もうこの感覚には慣れている。毎度VRの世界に落ちてくる時に味わっている感覚なのだから。


【蒐集家検知……プレイヤー名:RTBN、神酒】

【情報確認……選択難易度:中級】

【ボス抽選開始……干渉を確認。ボス【リアル】にて確定……完了】

【ようこそ、旧き逸話の探索へ】



--DAU・中級ダンジョン1F


 落ちた先は、夜の山の中の様だった。

 しかしながら、前回のくねくねの時とは違い……何やら空気が澄んでいるように感じた。


「到着……そっちは?」

「問題無いです」

「了解、じゃあ……探しましょうか」


 このダンジョンがどのような形式なのかはこの時点では理解できていない。

 山の中である事は分かるものの、ボスであるリアルが下水道のワニやエイリアン・ビッグ・キャットのようにフィールド上を徘徊しているかも分からないのだ。

 また、何かしらのギミックが存在している場合……先にボスに出会うというのは自殺行為に過ぎない。

……都市伝説や怪異系は初見殺しが多いからなぁ。

 対策をしないと相手にならない。その手の話が多いのはどうかと思うが……その手の話が多いからこそ、恐怖を誘う事が出来る。それが人の間を伝播していく噂話なのだから。


「一応聞きますけど、なんでリアルなんですか?」


 静かな夜の山の中を2人で進んでいく中。

 何も会話がないのもアレだろうと、1つ気になっていた事を聞いてみる事にした。


「――最近読んだからよ」

「……え、それだけ?」

「それだけ。ほら、どうしようもない相手に挑めるのもゲームだからこそ、じゃないかしら?」

「それはそうですけどね?」


 中々に肝が据わっている、と言うべきか。

 それとも、こちら側の仕事を知っているのになんて無謀な事を考えるのかと叱るべきなのか。どちらにしても、彼女の行動基準は私には理解しがたい所にあるらしい。


「二人とも。――奇譚繊維、出しておきなさい」

「【口裂け女】?……いや、まぁ出しておくけど」

「本当に勝手に出てくるのね。こっちと違って意思疎通もし易そうで羨ましいこと」


 と、ここで【口裂け女】が突然、しかもご丁寧にRTBNにも聞こえるように話しかけてきた。

 声の聞こえる位置からして頬の辺りに口を出しているのだろう。何処かの漫画の主人公のようで、少し恥ずかしいのだが……今更言っても変えてはくれないのがこの都市伝説だ。

……とはいえ、出しておくっていったら……こうか。

 上から、眼鏡、フード付きのコート、手袋、そしてブーツ。それらを全て奇譚繊維で作り上げた所でインベントリ内からある道具を取り出してみる。


「何よその……何?」

「くねくねの戦利品です。病視の双眼鏡って言って……まぁ色んな力の流れとか見れる優れものですよ。……まぁ遠くのモノを見るわけじゃないし、1倍で良いかな」


 都市伝説、怪異、伝承の力の流れを確認できる双眼鏡。くねくねからの戦利品にしては使い勝手の良い代物であると言えるだろう。

 始めて入る地下やダンジョンなんかで使えば、それを支配しているボスがどのような動きをしているのか、影響が強い場所は何処かを見る事が出来るし……今後のイベントでも、前回の様に散々迷った挙句1人で打ち上げられる事も無くなる筈だ。


「……うわ、マジかぁなんだコレ」

「何?どうしたのよ」

「えぇーっと見た方が早いかな。はい、どうぞ」

「ちょっと怖いわね……って何コレ凄い事になってるじゃない」


 双眼鏡を覗いた先。そこに映っていたのは、夥しい量のヘドロのような形をした何かだった。

 奇譚繊維の眼鏡でも見ることが出来ず、特に問題なく見えていた山の中。しかしながら、そこに在ったのは恐らくリアルのモノであると思われる力の痕跡。

……ちょーっと不味いかな、コレ。

 そして、その力の痕跡を見た、という事はだ。


「どうします?これで完全に気が付かれたと思いますけど」

「どうしようもないでしょう。あの話に沿ってギミックが設置されてるなら……私達が目指すべきは頂上しかないんだから」


 都市伝説、怪異、逸話、伝説……呼び名は何でもいいが、見てはならないモノという存在が世界には数多存在しているとされている。

 だが、それぞれによってその『見てはならない』理由というのは異なっている事が多い。

 くねくねの様に見たら狂ってしまう為に、『見てはならない』。

 邪視の様に見たら死んでしまうが為に、『見てはならない』。

 他にも、幽霊なんかを見てしまえば存在を知られ近寄られてしまう為に、『見てはならない』等……本当に多岐に渡る。

 そして、今回のリアルで言えば、


「縁が作られたって感じ、ですかね」

「ハッキリ感じる?私にはそんなだけれど」

「ハッキリと、って訳じゃないですけど……何かが繋がった感覚はありますよ。多分これは……私のこれまでの経験的なアレですけど」


 力の痕跡を見てしまったが故に、縁を作られた。

 超常的な存在との縁、というのは良い方向に転ぶ事もあれば今回の様に悪い方向に転ぶ事も多いとされている。というのも、だ。

 相手は人間に出来る事や強度を気にせずに、ただただ無邪気に……時に悪意を持って接してくるのだから。特に、今回のリアルで言えば、悪意の無い強大な力を持つ存在という……中々に厄介な性質を持っている。


「ちょっと急ぎましょうか。相手がどれくらいの速度でこっちに来るか分かりませんし」

「了解。速度出して良いわよ。無理矢理着いてくわ」

「じゃ、お言葉に甘えてッ!」


 ブーツ状に成形していた奇譚繊維を使い、その場から跳躍し……今度は手袋状にしていたそれを木々の枝に引っかける事でターザンロープの様にしながら前へ前へと推進力を得て進んでいく。

 私1人の重さを支えきれなさそうな枝に引っかける際は、侵食する事で無理矢理強度を上げて解決して。

 進路上に邪魔になる枝や植物があった場合は、刃物を具現化する事で伐採して進む。

……リアルの話の流れだと……この山は恐らく、西の本山って呼ばれてた場所!

 そうして目指すのは、この山の頂上付近にあるであろう……ある寺だ。

 私の持つ知識やRTBNの最近読んだリアルが同じものであるのならば、一度そこに着いてしまえばある程度は安心出来るだろう。

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