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Episode7 - スタンバイフェイズ


「いや、別に良いんですけどね?もうちょっとこう、説明が欲しいかなって思うんですけど!」

「説明ぃー……?あぁ、共通の友人の話がしたいって奴?あれただの建前よ」

「は?!」


 淡々とDAUの設定をしていく彼女の後ろで、私は慌てつつ現状に対する説明を求めた……のだが。

 彼女は彼女で自分のペースを崩す事はない。


「単純に、私がこの先に進みたいから手が欲しかっただけ。あの女の友人だし、なんならここで一回会ってるから、実力的にも申し分ないとは思ってたけど……まぁ実際にどれくらい強いのかを見れたから、こうして連れてきたわけ」

「一回会った……ってあのフードの!?」

「そうよ?なんでそっちは気が付いてないのよ……」


 私がこの場に始めて訪れた時、ぶつかってしまったフードの女性プレイヤー。

 しっかりと顔を見てない上に、話したのも一瞬だったが為に気が付いていなかった。とはいえ、だ。


「いや、まぁ攻略の手伝いをするのは別に良いんですけど……その、駆除班と一緒に来た方が色々楽じゃないんです?」


 そう、彼女は駆除班と行動を共にしていた。

 ボス狩り専門のゲーム外クランと共に行動が出来るのであれば、出自が特殊なだけの1プレイヤーだけを連れてくるよりもよっぽど攻略しやすいはずだ。


「……本当はそうしたかったんだけどね」

「出来ない理由が……?」

「簡単よ。まだあいつら、娯楽区のボスを倒してないの。私だけが先に進んで、ここの初級もクリアしちゃったから、あいつらと進捗が合わないわけ」

「あっ、あぁー……」


 進捗が合わない、というのはこのゲームでは致命的だ。

 生産区にしか行けないプレイヤーと共に娯楽区の地下に挑む事は出来ないし、その先も然り。だが、それならば先に進んだプレイヤーが後進をフォローすれば良いだけの話ではあるのだが……それにしたって、今後を考えるとあまり手を出し過ぎない方が良い。

……前回は私が頑張ったけど、今後はそうじゃない可能性だって十分あるしね。

 図らずも主人公の様なムーブをキメてしまったものの、別にあの役が私以外でも良かったのだ。

 当然、私が倒されかけた時に駆け付けたライオネルにだってその資格はあったのだから。


「で、あんたが丁度良く私と進捗も合うし、実力もあるし、色々裏側の話も知ってるしで今回連れてきたわけ。説明終了。他何かある?」

「今回挑む難度は?」

「中級よ中級。流石に段階すっ飛ばしてなんて変な事はしないわよ。そもそもここのシステム的に出来ないし」


 言われ、前回の初級で出てきたくねくねの事を思い出す。

 初級であれだったのだ。中級ともなれば、もう少し倒すのが難しい敵か、特殊なギミックが出現してもおかしくはない。


「じゃあ……【キング様】について、簡単に教えてもらっても?」

「良いわよ?その代わりそっちのアルバンについても教えなさい」

「当然」


 そう言って、RTBNは作業の手を止めこちらにウィンドウを差し出してくる。

 そこに書かれているのは、彼女のメインアルバンであろう【キング様】の詳細な情報だった。


「……えっ、良いんですかコレ」

「教えろって言ったのはそっちでしょうに」

「いやいや、もっと簡単に……口頭で教えてもらえるのかなって」

「そんなんじゃあ意味ないじゃない。別にフィールド全体がPvPエリアとかじゃないんだから、教えても問題ないわよ。こんなの」


 実際の話、詳細な情報を貰えた方が連携が取りやすいというのは事実だ。

 それに加え、お互いにお互いの能力を知っておく事でこのパーティで相手取るのが難しい都市伝説なんかも可視化される。PvPが絡まないのであればメリットしかないのだ。

……ま、うちのは……問題無いか。【口裂け女】由来の能力、最近は刃物の具現化くらいしか使ってないしね。

 残り2つも別にバレていたって問題はない。ステータス強化能力がバレた所で対策なんてしようがないのだから。

 そう考え、私は【口裂け女】の詳細情報をメモ用ウィンドウにコピーして彼女に渡す。すると、


「……ん?コレ本当?」

「本当ですけど……」

「もっと奇譚繊維に特化してる能力があるかと思ってたけど……じゃあアレ自前か……成程ね」


 少しだけ驚いたような表情を浮かべていた。

 どうやら、私の奇譚繊維の操作技術をアルバン由来のモノと認識していたらしい。確かにあれだけ大規模に使っていれば総勘違いするのもおかしくはない。


「……ちなみにまだ時間は掛かりそうです?」

「挑みたい相手に接続出来るか試してるから、ちょっと掛かるわねー」

「じゃあ下水道のワニのリザルト確認してるんで、終わったら声掛けてください」


 そう言うと、彼女はこちらを見ずに手を軽く振って応えてくれた。

 コミュニケーションに労力を割くのが得意ではないタイプなのだろう。私としてはそちらの方がやりやすい事もあって気にしないが。

……さて、確認するかぁ。

 ここに連れてこられる前、インベントリ内を覗いた時にある程度形だけは見ているものの……その内容自体は見ていない。それに今回得たモノは2つもあるのだ。


『くねくねの時と同じ報酬と……ハードクリアの報酬かしら?』

「多分そうだね。猿夢の時の指輪と同じ感じだと思う」


 そう言って、私は手元に今回の報酬を2つ出現させた。

 1つはワニが自身の尻尾を食む事で円となっている指輪。もう1つは、


「これ……ワニの歯?かな」

『そうじゃない?確か生え変わりが激しいんじゃなかったかしら?』

「あぁ、なんかロケットペンシル型なんだっけ。奥からどんどん生えてくる奴」

『……私がそれなりに古い都市伝説だから良いけれど、最近の子には伝わらないわよソレ』

「えっ?!無いの今!?」


 ワニの歯らしき、乳白色の物体が付けられた簡素なネックレスだ。

 青白く、そして鈍く光る糸に通されているが……もしかしなくとも奇譚繊維か何かの影響を受けている糸だろう。


「さて、と……まぁ指輪から見ていこうかな」


――――――――――

下水鰐の指輪

種別:アクセサリー

状態:安定


能力:装備者の周囲5メートル以内に存在する液体を操作する事が出来る

   制限:サブアルバン【下水道のワニ】が適応状態でなければ使用できない


説明:かつて、見た

   自身を育ててくれた、自身とは違う生き物を

   だが、今はもうその面影も思い出せぬ

――――――――――


 下水道のワニの能力の劣化版、と言った性能の指輪だ。

 しかし、これを着けていれば自身もある程度似たような事が出来る、となれば……かなり戦術の幅が広がるだろう。

……それに、これを使えば……怪我した時にもっと自由に動けるだろうし。

 先の戦いで行った、【ダドリータウンの呪い】とその装備による緊急処置。止血は出来るものの、正直その部位の動きは悪くなってしまう為、出来るならばやりたくはない処置ではあったのだ。

 それが、この指輪だけで止血が出来るとなれば……かなり話は変わってくる事だろう。


「さて、次はネックレスっと」


――――――――――

白皮鰐の首飾り

種別:アクセサリー

状態:安定


能力:暗視能力を獲得


説明:白い皮は、周りに疎まれる

   仲間には認められず、力で捻じ伏せるしかなかった

   故に、強く

   故に、大きく

   どんな見た目であろうと、侮られないように成ったのだ

――――――――――


『あら、こっちはこっちでシンプルね』

「いいんだよ、これくらいで。というか、下水道のワニ系はどれも汎用性が高くて助かるよ。本当に」


 暗視能力。これだけと考えるか、これも貰えると考えるかによってかなり評価は変わるだろう。

 私に関して言えば、暗視能力はどのアルバンの能力でも持っていない為にかなり有り難いものだ。

……奇譚繊維で視覚補助するって言ったって限度があるしね。

 最近は大盤振る舞いしている奇譚繊維ではあるが、それも無尽蔵、という訳ではない。

 視覚補助に使っているモノも攻撃や、身体能力強化に使わねばならない場面もいつかは訪れるだろう。

 その時に節約出来ると考えれば……かなり便利な代物と言える。


「えぇーっと……あ、ネックレスの糸外れる。これに指輪通せるかな」

『装備してる事になるの?それ』

「どうだろ?……イケそうだ。良かった良かった」


 装備箇所としては、どちらも首から提げる形だ。

 指輪の方もこの装備方法で問題なく機能してくれているのが分かった為、このままで良いだろう。


「おーい、準備出来たわよー」

「おっとっと。はーい、行きます行きます」


 どうやらタイミング良くRTBN側の準備も終わったようで。

 これからどんな相手と戦うのか、それを考えながらDAUの前で待つ彼女へと近付いていった。

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