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Episode6 - ネクストステージ


「おっとっと……」

「大丈夫か?」


 次に私の視界に映ったのは、いつものトウキョウの広場の光景。

 私があの空間で下水道のワニを倒したからか、それとも私が向こうで戦っている間に3人が何かをした可能性だってある。

……まだ、分からない事だって多い場所だしね、あそこ。

 転移と共にバランスを崩した私の身体を咄嗟に支えてくれた1YOUに礼を言いつつ。

 周りに居る面々の表情を見ていくと……大分、私に対しての評価が変わったようだというのが分かる。


『見直されたってよりは、狂ってるとか……自分達と違うモノを見た、みたいな感じねぇ』


 それならそれで良い。そもそもの所属が所属の人間だ、普通の……ゲーマー達とは根っこの部分が違うのだから仕方がない。そも、ゲーム内で死んだら現実でも死ぬような代物でもないのだ。覚悟くらいならば私にだってきめられる。

 故に、自身の足でしっかりと立ってから、


「どうでした?認めてくれます?」


 そう笑いかけた。

 あくまで、私は危害を加える側の人間ではなく協力が出来る人間だと。これから起きる厄災イベントに立ち向かう側の人間だと伝える様に。

……これで覚悟ガンギマリの化け物、みたいな扱いされるなら……正直、駆除班との付き合いは諦めた方がいいなぁ。

 間を取り持ってくれたのであろう1YOU、そしてSneers wolfには申し訳ないが……と考えていると。


「――あぁ、認める。すまなかったな」

「へっ?いや、ん?なんで謝るんです?」

「力を侮っていた事が1つ。そっちには協力する理由がないのに、協力する姿勢を見せてくれていたのに無礼な態度を取ってしまった事が2つ目。そして、最後。俺らがしっかりと攻撃出来ていれば、君を前に出す必要もなかった事が3つ目。合計3つ分だ」

「あ、あぁー……?」


 突然、リックに頭を下げられてしまった。

 それに伴い、他の駆除班のメンバーらしきプレイヤー達も口々に謝りながら頭を下げてくる。


『あら、中々物分かりが良いじゃないの。許してあげなさいな』

「別に怒ってない!……ってあぁもう!【口裂け女】に反応したのに返答したみたいになってるじゃん!」

『ふふ、一方的に言える立場って良いわぁ』


 とりあえず、その場の面々には頭を上げてもらう。

 それと共に、私は別に怒ってはいなかった事や侮られて当然の振る舞いをしていた事を話しながら、何とか今後についての話へと流れを修正する事が出来た。


「……って事で、イベントまでの話ですけど」

「あぁ……ふふっ。そう、だな!イベントまでの話だな!あぁ!」

「――あ、ライオネルさん?今ちょっと色々あって来てほしいんですけど――」

「やめてくれやめてくれ!すまなかったから!……よし、イベントまでの話だな!早速話していこう!」


 何がツボに入ったかは分からないが、ずっと私と駆除班の会話に笑い続けている1YOUにジト目を向けながら。

 私は周りに見えないように設定してウィンドウを出現させた。

 特別な何かを見る為のものではない。ただのインベントリ内の確認だ。

……ただ、今回は今回で……ちょっと問題がありそうなんだよねぇ。

 下水道のワニの報酬自体は良い。ちらっと見た程度ではあるが、くねくねと同じように道具の様なものが新しくインベントリ内に増えているのが見えている。

 だが、私が今回確かめたいのはそれではない。


『前回は……確か、ランタンを買いに行ったら、だったわね』


 下水道のワニの心像空間。そのゴミの中に埋もれていた、妖しく光る都市伝説の欠片……のようなモノ。

 後で解読屋に解析を頼むつもりではあるが、出来るだけこの場でも何か出来る事はないかと確かめておきたいのだ。


「今後、神酒さんには色々と走り回ってもらう事になるが大丈夫そうかな?」

「頻度にも寄りますかね。私以外にも特課所属の人間なら居ますし……奇譚繊維関係の師事の話なら、一度に見れる数もそんな多くないですよ。私、別に万能じゃないんで」

「ふむ……それなら――」


 とはいえ、人が多いこの場所で取り出す訳にもいかない。

 今、変に注目されている状態の私が取り出せば、また変に注目されてしまうし……これが解析出来た時に変なモノが出てこないとも限らないのだ。

……というか、私だったらトラップの1つや2つ仕掛けておくしね。

 これまで似たような形式で情報を得てきたプレイヤー達だ。また同じ様な物を見つければ勝手に解析し、情報が得られるかもしれないと期待するだろう。

 そこを狙う。その流れ自体を餌にして妨害する。疑心暗鬼にさせ、本当に必要な情報を得られないように誘導する。簡単でありながら効果的な妨害策の1つだ。


「あ、ちょっと良いかしら」

「ん?……あぁ、RTBNさん。どうした?」

「私、その人と一緒にもう1つダンジョン潜ってきても良い?」

「ん?――んん!?」


 どうしたものか、と考えていると。突如、こちらへと視線が集まったように感じ顔を上げる。すると、だ。

 そこにはRTBNが何を考えているか分からない無表情で、私の方を指を差していた。


「えぇっと……どういう?リックさんと違って私は認めてない!とかの話……?」

「そういうんじゃない。あっちと違って、私はまた別件。――ちょっと、共通の友人の話でもしようかと思ってね」

「共通の、友人……」


 そう言われ、他の事を考えていた脳内にある記憶が蘇る。

 それは同じ特課の実働隊に、前回のイベント中に言われた言葉。


『あは、2人は遅れる理由が予想できるんだけど……あと1人はなんでだろうね?ログインはしてるし、場所は伝えてあるから問題ないとは思うぜ。まだまだ開始には時間あるし』


 結局、その時は会う事は出来ず。その後も音沙汰がなかったが為に、記憶の中に埋もれていた言葉だ。


「ライオネルさんの友人さん……ですか……?」

「そうよ。改めて自己紹介するわ。――RTBN。駆除班の中の、唯一そっちの事情に詳しい人間よ。以後よろしく」

「あぁー……うん、はい。成程。確かに話はしないとですねー……」


 そう言いながら、私は1YOUへと視線を向ける。

 彼は彼で『ライオネルの友人』という単語が出てきた時点で、その処理を私に任せてしまいたいのだろう。疲れた顏で手を振っていた。

……本当、このタイミングで最後の1人が出てくるかぁ。

 いや、こちらが知らなかっただけで向こうは私の事を値踏みしていたのだろう。

 本当に協力する価値があるのかどうか、ライオネルの友人として……ではなく、彼女個人の判断基準で。


「そういう訳だから……リック、契約自体はこの辺で良いわよね?」

「あぁ、まぁ良いだろ。このゲームの駆除班はもう回るからな」

「そう。じゃあそういう事で――行きましょうか」

「えっ、ちょ、今から!?」


 周りのプレイヤー達に生暖かいモノを見るように見送られながら。

 RTBNは私のスカーフを引きながら、どんどんトウキョウを下に下っていく。先程まで居た生産区、そしてその下にある、今も多くのプレイヤー達が挑戦している娯楽区を通り過ぎ、


「ちょ、ここ……!」

「そうよ。まぁここが一番話すなら邪魔が入らないし……戦力増強って考えるなら十二分に良い場所でしょう?」


 トウキョウ防衛前線基地。

 DAUが存在する、現状の最前線へと辿り着いていた。

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