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Episode4 - エクスターミネーションチーム


 下水道のワニの攻略法、というのは私とライオネルが挑んだ時に比べれば既に確立されている。

 当時はプレイヤー全体で出来ることが少なかった為、ガチンコで真正面からの気合い勝負だったのだが……今はそうではない。


「まぁ俺には見えないが――景気付けだ、食らっておけ!」


 1YOUが素早く、その姿を人狼のそれへと変えると同時。

 彼の頭に大量の奇譚繊維が巻き付き……まるでメガホンの様な形を形成した。


「――『狩りの始まりハンティング』!」


 彼がそう叫ぶと共に、狼の遠吠えの様な音が周囲に響き渡る。

……おぉ、範囲バフ技!

 アルバンの能力によるものか、それとも奇譚繊維との合わせ技なのかは分からない。しかしながら、私の視界の隅には攻撃力上昇のアイコンが新たに出現していた。

 だが、今回のパーティはそれだけでは終わらない。


「RTBN!そっちも自由にやってくれ!俺も自由にやる!」

「良いの?」

「良い!どうせ勝てねぇ相手じゃあねぇからな!」


 私が動き出すよりも先、残る駆除班の2人が先に動き出す。

 リックはその身を1YOUのように人狼へと、RTBNはと言えばその手に数枚のカードのようなものを出現させていた。

……同じモチーフのアルバン?いや、でもそれだったら能力は似通ったものになる筈……?

 一度、前へと踏み出そうとした足をその場に留まらせ、2人の行動に目を向ける。

 ここで私を待たずに行動しているのだ。それに、駆除班はボス狩り専門のゲーム外クラン。そんな彼らがこのボスの狩り方を知らない訳がない。


「【ジェヴォーダンの獣】ッ!」

「【キング様】」


 下水道のワニ。身体を液体に変える事が出来、生半可な物理攻撃は効かない都市伝説に対する攻略法。

 それは――その場における、液体全てに対する飽和攻撃。


「うわぁーお……流石って言った方が良いですかね?」

「言って良いだろうな。伊達にボスを倒し慣れていない、という訳だ」


 目の前で起こったのは、ただの蹂躙だ。

 人狼と化したリックの身体から生じた、大量の灰色の四足歩行の獣達が下水道の淀んだ水へと着水したかと思いきや。RTBNのカードから出現した、巨大な王様のような姿をした人型が手に持った剣でそれらを一掃したのだ。

……ただ仲間を攻撃しただけじゃあないねコレ。

 何の都市伝説や逸話が関係しているのかは分からない。だが、王様に一掃されていく灰色の獣達はその身を爆発させる事で、その場にある液体を吹き飛ばしていた。


「おう、どうだ?この辺は全部吹っ飛ぶぞ」

「えぇーっと――いや、まだ居ますね。瀕死とかでも無さそうですよコレ」


 だが、まだ戦闘は終わっていない。

 今も【キング様】と呼ばれた人型が延々と灰色の獣達を爆破させているものの、私の【下水道のワニアルバン】には未だボスから発せられる水音が聞こえ続けているのだ。

 故に、


「前、出ますか」


 私が一歩前へと踏み出した。

 瞬間、私の足元からは大量の奇譚繊維が湧き出し、下水道の通路を埋め尽くしていく。


『あら、パフォーマンス重視?』


 今回は奇譚繊維を使った戦闘を魅せるのが目的なのだから……パフォーマンス重視になるのは仕方ないでしょう。


『やり過ぎて変な事にならない様に祈ってるわね』


 【口裂け女】の、ちっとも心配していない声色を聴きながら。

 私は無手のまま、更に一歩前へと踏み出し……ボスの音がする方向へと歩いていく。

……リックさんとRTBNさんのアルバンは……ダメージは与えられてる。

 私がこの地下へと踏み込んだ時に察知した音と、今感じている音では目標の大きさが違う。向こうが距離を取ったわけではなく、単純に体積が減ったが故だ。


「――派手な事やられたら、私も派手にやらないと」


 私の攻撃方法は、自身の格闘技術を織り交ぜてからは派手とは言い難いものになった。

 当然だ。近付いて拳や脚を振るうだけの攻撃に美しさを感じる事はあっても、派手さを感じる事は無いだろう。

 だからこそ、私が出来る事をやれば良い。


「広範囲攻撃、その上で私らしさを出す……ならッさァ!」


 通路全体とは言わないものの。こちらの様子を伺っている下水道のワニの周囲全てを私の奇譚繊維が覆った瞬間――私はその場に拳を振り下ろした。


「ッ、何だ?!」

「……神酒さん?何したかだけ教えてもらってもいいか?」


 私が拳を振り下ろす度に響く、何かの激突音と通路全体を震わせる衝撃。

 遠くから響いてくるそれと私の動きが連動しているのだ。当然、他3人の視線はこちらへと向くだろう。だが止めない。まだ倒せていないから。


「ふぅー、簡単、ですよッ!奇譚繊維で、拳作ってッ!私の動きに、連動させてるだけッ!ですッ!」


 そう、単純な話だ。格闘技術を派手にするならば……その分、規模を大きくすればいい。

 巨大な格闘家やボクシング選手の試合が迫力あるモノになるのと同じ。


「デカさは、派手ッ!――ッと、来ましたね」

「ッ、リック!」

「お?おぉおお!?」


 尚も拳を振り下ろそうとした所で、私の居る通路へと巨大な津波が……否。

 巨大な津波と化した下水道のワニがこちらへと迫って来ているのが見えていた。

……通路に張り巡らせた奇譚繊維を剥がしながら来てるなぁ。うん、やっぱり賢い。

 その津波にリックが飲み込まれそうになっているものの、灰色の獣を追加で召喚し壁のようにしているのが見えた為、恐らくは問題はないだろう。


『――ッ!!』

「おぉー怒ってる怒ってる」

「言ってる場合か!?」

「言ってる場合ですよ。こっちに来てくれた方が狙い易いし……私もやってみたい事あるんで!」


 リックの救助に走るRTBNを視界の隅に捉えながら、私は軽くファイティングポーズを取りつつ目の前に来たものをしっかりと見据えた。

 身体の半分以上を淀んだ水と同化しつつ、形状だけはワニのような形に辛うじて見えなくもないソレ。

 私の記憶にあるボスの姿とはかなりの違いがあるものの、威圧感は変わりない。


「じゃ、行きますかッ」


 軽く声に出しながら。私はそんな相手に対して懐に入るように踏み込んで。

 右手を堅く握り締め、身体全体の勢いを乗せながらその液体の身体へと放つ。

……私の格闘技術は、VRMMO基準の対超大型用。だからこそ!

 相手が幾ら液体の身体を持っていようと関係はない。核を破壊すれば倒れるのは他の都市伝説と変わらないのだから。

 そして、私はその核が何処にあるのかが視えている。

 奇譚繊維によって形成された眼鏡は、時に見てはいけないものまで見えてしまうが……今は、しっかりと私の見たいモノが何処にあるのかを映し出してくれていた。


「ただの拳」

「技名とか無いのか?!」

「あるわけないじゃないですか。これただ殴ってるだけですもん。型とかあるようなモノでも無いですし、技名ってのはしっかりとした技に――」

『ァガッ!』

「――おぉっと危ない」


 私が放った拳の一撃は、一見すると液体の身体には全くダメージを与えられていないように見える。

 しかしながら、放つ度に拳の勢い、威力のおかげか液体の身体の一部が破裂するように弾け飛ぶのだ。相手の体積を削る。下水道のワニ戦では重要な行動であると言えるだろう。

……ま、ただこのままじゃあすぐに回復されちゃうし……やっぱりやってみるしかないかな。

 だが、やはり液体を使って身体を維持している相手には相性が悪い。

 別に刃物を出してもいいのだが……それはそれで面から線の攻撃に変わるだけであまり変わりはない為に、


「1YOUさん」

「なんだ、次は?」

「ちょっと動けなくなるかもなんで、その間任せます」

「は!?もうちょっと詳しく――って聞いてないなさては!くッ!やっぱり先輩と同じ所の所属なだけはある……!」


 何やら心外な事を言われているが、問い詰めるのは後にしてあげよう。


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