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Episode2 - ミーティング


「初めに、今回は集まってくれてありがとう。前回のように、碌な会議や話し合いの場も無く防衛戦に対処するのは難しいと思ったが故の集まりだ。堅苦しくはしたくないから、適当に茶でも飲みながら聞いて欲しい」


 1YOUはそう言いながらも、手元にウィンドウを出現させる。その瞬間、喫茶店内のプレイヤーの手元にも同様のモノが出現した。


「まず、この場にて集まったクラン、グループの紹介だ。我々Sneers wolf……は良いとして」

「俺達かな?――ゲーム外ボス狩り専門クラン『駆除班』、このACOにおけるリーダーをやらせてもらってるリックだ。前回は噛み合いが悪かったが、今回はある程度任せてくれて構わないよ。よろしく」


 リックが周りに向けて軽く笑いながら挨拶した。

……ん、身体がブレた。なんかのアルバンのパッシヴかな。

 時折、彼の身体にノイズが走ったかのようにブレが生じているものの。特に私以外が気にしてはいない為、別段変わった事でもないのだろう。

 リックは周囲に頭を軽く下げると、一度私に向けて視線を向けた後に席へと座る。

 ボス狩り専門、というだけあって前回のイベントでの事を気にしているのだろうか。


『貴女、結構目立ったものね。まだたまーに話し掛けられるじゃない』


 あれ、正直面倒だから人違いって事にしたいんだけどね。


「ありがとうリック。今回駆除班には、基本的に地上にボス級が出現した時のメインの対応と指揮を頼もうと思っている。皆もその前提で動いてくれると助かる」

「指揮の精度はそこまで高くないから、お手柔らかにー」

「さて、次」


 そうして1YOUがこの場に集まったプレイヤー達の所属グループについて説明を開始してくれるものの、別段気になる名前も、知っているプレイヤーもいない為に聞き流していれば、


「――と、これで紹介終わりだな。続いて、本題に入っていこうと思うわけだが」

「あ、ちょっと良いですか?」

「何かな?えーっと……鴉間くんだね」

「おっと、名前を覚えてもらえてるとは……じゃなくて。近頃よく見る、自衛隊っぽい人達の姿が無いんですけど、あの人達は一緒に動かないんです?」

「あー……その件か」


 鴉間と呼ばれたプレイヤーの質問に、1YOUは軽く困ったように笑う。

……確かに自衛隊っぽい人とか……後はライオネルさん達も居ないな。あれ?私以外政府関係居なくない?

 言われ、周囲を見てみてもそれらしいプレイヤーの姿は見つからない。


「一応、参加しないかと誘ったは誘ったんだが……まぁ、簡単に言えば下手に政府関係の組織が一般側の組織の指揮下に入ると面倒が多いとの事でな」

「あ、あー……成程?世間体とかその辺りですか」

「そう言う事だ。まぁ、一応会議のログをくれとも言われているし、協力する気がない訳でもない。単純に見え方が悪いし、彼らは元より現実側で訓練してきた人達だ。ゲームは門外漢だし、専門的な知識が豊富な我々の決定には逆らわないとの事だよ」


 と、ここで何か小さく呟いている様だったので、周りに気が付かれないように、耳周辺から奇譚繊維を放出し聴力の補助をしてみれば、「あの先輩の事だからまぁ何とかしてるんだろ多分……」というぼやきが聞こえてきた。

……ライオネルさんの仕込みかぁこれ……。

 自衛隊は日本の防衛を行う組織であり、超常的存在や現象に対するノウハウはない。故に、ここはゲーマー以上にこっちの土俵だから、ということなのだろう。


『って事は、貴女エサにされた訳ね。後で事情知ってる連中から意見聞かれるわよこれ』


 確実にそうなるだろうし、それが嫌だったから実働班組は誰もこの場にいないのだろう。


「まぁ、それはそういうものとして置いといて。――本題だ」


 1YOUが仕切り直し、話の流れを引き戻す。

 話されている内容は基本的に、掲示板にて共有された情報の再確認や、新たに見つかった情報の共有などであり、目の前のウィンドウを見ていれば流れ自体は把握出来る。

 故に、内職ではないが……話を聞き流しながら私は装備の下……他のプレイヤーからは見えない様に身体から奇譚繊維を湧かせつつ、身体強化などが行えるかの確認に時間を費やす事にした。

……ん、四肢の強化はし易いけど身体の内側の強化はし難いな。

 【口裂け女】の性質が身体能力、それも膂力に依っているという事なのだろう。

 内部の強化が出来れば、免疫機能などを強化して毒なんかを効かなくできると思ったのだが。


「――――ん」


 更に舌や手の甲、心臓近くといったサブアルバンを埋め込んでいる場所への強化が出来ないかを試してみるものの。

 そちらはそちらで、出来はするが何かに抵抗されている感覚がある。

……都市伝説毎に奇譚繊維があるのは見ての通りだから、まぁ仕方ないかこれは。

 覆う様に奇譚繊維を編む事は出来ても、内側には入っていかない。

 もう手遅れではあるが、サブアルバンを埋め込む場合はその点を考慮した方がいいのかもしれない。


「――さん」

『神酒、呼ばれてるわよ?』

「へっ?あっ、はい!?」


 珍しく【口裂け女】に名前で呼ばれた為に驚き、我に返って周囲を見れば。

 心配そうな顔をした1YOUがこちらを覗き込んでいた。どうやら、私が奇譚繊維の操作に夢中になっている間に会議は終わってしまったらしく、この場にはSneers wolfの面々や駆除班の面々しか居ない。


「神酒さん、大丈夫か?会議が終わっても1人でずっと俯いてるから少し心配だったぞ」

「あー、はは。ちょっとばかし内職を。……邪魔です?」

「いや、寧ろ残っててくれて助かったよ。これから君の事を周りにちゃんと・・・紹介しようと思ってたから」


 ちゃんと、と言うところを強調したのは……単に、私という個人を紹介する訳ではない、という事なのだろう。

 周りも少しは聞いているのか、興味深そうな視線をこちらへと向けてきている。


「成程。――どこまで伝わってます?」

「前回の功労者、表に出てきたアレの関係者だな」

「ほぼ全部ですねそれ。まぁ、それなら軽く自己紹介しましょうか」


 言って、立ち上がる。

 周囲に居るプレイヤーは約6人。Sneers wolfが3人に、駆除班3人。ただ、私の事を知るのは1YOUのみという若干アウェーな環境だ。

……少しだけ緊張するけど、さっきの会議の場よりはマシだね。

 こう言うのはインパクトが大事、と軽く身体の内部に展開していた奇譚繊維を見える形で湧き出させながら、


「どうも、最近表に出てきた超常事象対応特課所属、事務担当の神酒です。どうぞ、よろしく」


 その全てから刃を具現化させてみれば。


「「「……」」」

『滑ったわね?』


 1YOU以外の皆が固まってしまった。

……滑ってない滑ってない!ちょっと演出過剰すぎただけだよコレ!

 必死に心の内で【口裂け女】の言葉を否定していると、


「す、すげぇな……これが事務?本当に?」

「リーダーとよく一緒に居る人、実働隊とか言ってたか?これ以上?」

「……ワイら必要かー?これー?」


 と、口々に感想を溢し始めた。

……ほら!滑ってない!

 驚かれていただけど分かり、少しだけ胸を張る。


「おー、お前ら。流石に反応してやれ。――すまん、さっきの会議でも紹介されたがリックだ。よろしくな」

「あ、どうも」


 その中でも、すぐさまこちらへと近付き握手を求めてきたリックの手を握り返す。

 こうして、イベントでプレイヤー達の中心となるであろう人物達との会合がようやく始まった。

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