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Episode15 - ダンジョンリザルト


「よしっ、そろそろ色々確認しよっか」

『あら、休憩はもうおしまい?』

「いつまでもこうしてるのもアレだしね」


 DAUの前で寝転んで掲示板やらを覗いていた身体を無理矢理起こし。

 私はその場に腰掛けた・・・・

……ん?私何に腰掛けたんだろう?

 この場はDAU以外にはほぼ何もない空間であり、そもそもとして座って休憩出来るような場所が無いが故に、先程まで寝転んでいたのだ。

 ちらり、と私が何に座っているのかと視線を向けて見れば。


「奇譚繊維……これ【口裂け女】が出した奴?」

『いいえ?貴女が勝手に出してたわよ、それ。無意識?』

「無意識……だね……」


 赤黒い、鈍く光る奇譚繊維が椅子の様な形状となっていた。

 無論私が出そうとした訳でも無いし、【口裂け女】がそこまで私に親切にしてくれる訳もない。

……これも一応、成長したって事なんだろうなぁ。多分。良い方向なのかは分からないけど。

 意識的ではなく、無意識的に。腕だけではなく、全身のどこからでも。

 DAUに挑む前と今ではまるで別人かのような成長具合だが、自分に素質があったと思った方が良いだろう。そもそもとして、無意識でも奇譚繊維が使えた方が今後の戦闘では有用なのだから。


「ま、これについては後で考えよう。今は色々と確認しないといけない事が多すぎるし」


 言って、私はまずインベントリ内から1つの種を手のひらに取り出し確認していく。

 白く、淡く輝くそれはいつも通りのボスアルバンの種に見えるものの、


「ねぇ【口裂け女】。これ、まだしっかり生きてるよね?」

『生きてるわね』


 奇譚繊維を目の周辺に集め、眼鏡のようにして見てみると。

 種の様な形状は変わらないものの、青白く脈動する人の顔のような模様が浮かんでいるような見た目に変化した。


【状態異常発生:『恐怖』】


「あ、状態異常発生した。確定だね」

『生き汚い都市伝説や怪異にはあるタイプね、それ。ほっといたら都市伝説の欠片や、貴女のHPなんかを吸って復活するわよ』

「うーん、確かに生き汚い」


 倒した後、DAUという特殊な環境でもないというのに種の形状となったくねくねは私に状態異常を与えてきた。

 これはこれで、見ただけでデバフをばら撒く便利な戦闘用アイテムなのではないか?とは思うものの、そのままインベントリに入れていたら突然復活……なんて事態になっても面倒臭い。

……とは言ってもどう処理するべきか……ってあぁ、別に深く考える必要はないか。

 考えながら、私は種を乗せている手のひら全体から大量の奇譚繊維を湧き出させ、その全てで種を侵食するべく干渉を開始した……のだが。


「あれ?もう終わり?」

『そりゃあそうでしょうに。相手は本体でも分体でもない、ただの残り滓よソレ。大量の奇譚繊維で侵食しようとしたらそうなるに決まってるでしょう』

「そう言われたらそうだけども」


 種はすぐさま赤黒く染まってしまい、その活動も止まったようだった。これで一安心と言えるだろう。

 とはいえ、今の私の身体には新しくボスアルバンを組み込める隙はない。どっちみちインベントリ内の肥やしにはなってしまうわけだが……まぁ良いだろう。

 復活する芽をこれだけで潰せたのならば十分だ。


「さて、次は……まぁ滅茶苦茶気になってるモノではあるんだけど」


 続いて、私はインベントリ内から1つの双眼鏡を取り出した。

 全体的に青白く、時折脈動する赤い血管の様なモノが全体に走っている異形の双眼鏡。しかしながら、これに関しては先程の種とは違い、状態異常を付与される事はない。

 奇譚繊維によって形成した眼鏡によって見てみても特に見た目が変わるわけでもない為、元からそういう見た目なのだろう。

 気になって双眼鏡のアイテム詳細を開いてみれば、


――――――――――

病視の双眼鏡

種別:道具

状態:安定


能力:都市伝説、怪異、伝承の力の流れを確認できる

   1~6倍まで対応


説明:かつて、それは見た

   遠く離れた土地に佇んでいるそれを視た

   故に認識され、取り込まれ、今ではそれらと同類を観る力を手に入れた

――――――――――


 戦闘用ではないものの、それなりに便利な能力が備わっているアイテムである事が分かった。


「へぇ、流れ……おぉ、凄い!奇譚繊維とか見ると凄いよこれ!」

『確かに凄いわねこれ。……成程、見てはいけない怪異を見るのに使われたものだから、逆にその能力が強化されたわけだ』

「ふぅん?なんか私でも作れそうだ」


 言いながらも病視の双眼鏡を使って周りを見てみると、面白い。

 例えば、私の身体はアルバンが埋め込まれている場所を起点に、様々な色のオーラが全身を覆っている。見覚えのある色もあれば見覚えのない色まであるのが興味深い所だ。

 そして、DAU。こちらは下へ下へと黒色のオーラが流れていっているのが分かる。案内役のNPCからも漏れ出ているそれ。今後挑む事が出来るであろう何かしらに関係しているモノなのだろう。

……ちょっと見ちゃったけど……ま、触らぬ神に何とやらってね。

 双眼鏡を外し、インベントリ内へと仕舞って一息つき、


「で、何やってんの?」

「ん?やっと外に出れるようになったから寛いでるだけよ」


 何故か【口裂け女】が寝転びながら刃物を弄っていた。

 幻覚ではなく、今まで全身暴走でしか見た事のなかった存在がそこには居た。

……いやまぁ、理由は色々と考えられるけれど。

 だが、それらを考えるよりも先に確認せねばならない事がある。それは、


「あんた、その状態で私からどれくらい離れられるの?」

「……そこに行きつくのが早すぎるわよ、本当」


 この状態の【口裂け女】がどの程度私から離れる事が出来、どの程度の時間外に居れるのか。これが重要だ。

 ほぼ無制限に離れる事が出来るのであれば対策を考えねばならないし、その上で新たに餌か何かで目の前の黒髪の女を釣らねばならなくなる。それ以外にも、【口裂け女】特有の能力が使えた場合等、考える事は多い。


「まずまずとして、私はアルバン。都市伝説本体って訳じゃないから紐付けられてる貴女とは離れられないわ。いけて……50メートルくらいじゃない?」

「ふぅん?」

「で、能力自体は使えるけれど弱体化してる。そもそも奇譚繊維が使えないわ。貴女の方に優先権があるんでしょうね」


 言いながら、彼女は手元に何本かのナイフを具現化させジャグリングを始める。

 言われた事を全て鵜呑みにするわけではないものの、嘘を言うメリットもほぼ無いと判断して溜息を吐いた。

……考えなきゃいけない事が増えたなぁ、コレ。

 恐らくこうなった原因は、私が行動するごとに得ていた同調の技術とやらなのだろうが……それをしっかりと確かめるにはDAUに潜るか、何処かの地下ハードに挑んだ方が都合がいい。

 なんせ、アレは得た経緯からして戦闘用の技術なのだろうから。


「はぁー……ま、良いか。次のイベントに備えるって意味では十分役に立ちそうだしね」

「あら、もう次が来るの?早いわね」

「まぁね。頻度的にはランダムっぽいけど、今回は短いのに当たったみたい」


 言って、先程見ていた掲示板を表示させる。

 そこには、他プレイヤー達が見つけ出した次回防衛イベントの予告文や画像が載せられていた。



――――――――――

プレイヤー:神酒


・所属

 伝承蒐集部隊【蒐集部門】


・所有アルバン

 メイン【口裂け女】

 サブ1【メリーさん】

 サブ2【猿夢】

 サブ3【下水道のワニ】

 サブ4【ダドリータウンの呪い】


・装備

 蒐集部門急所特化制服(上)

 蒐集部門急所特化制服(下)


・逸話同調

 技術:奇譚繊維操術 Lv.3

 技術:同種侵食 Lv.2

 技術:α能力拡張行使 Lv.1

 技術:認識位相拡張 Lv.2

 技術:単為同調 Lv1

 技術:心像顕現 Lv1


――――――――――

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