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Episode3 - ランアウェイリメンバー


 以前見たそれよりも、身体の各所が壊れているのにも関わらず、鉈持ちの動きは素早く力強い。

 私自身のステータス強化が膂力だけに割り振られるようになった事もあるが、それでも多少は強化されているようだった。


「うん、避けられるね!」


 だからと言って、そう易々と攻撃を喰らう訳ではない。

 素早い踏み込みによって、上段より振るわれた鉈を軽く身体を逸らす事で避けつつも、更に地面を蹴る事で距離を取る。

 幾ら素早くなっていると言っても、見える程度の早さ。何処かのワニと違って攻撃してくる方向が決まっているのだから……見えてさえいれば、避けられない事はないのだ。


『あら、攻撃しないの?』

「まだ、ねッ!」


 口裂け女の楽しそうな声に返答しつつも、鉈持ちの追撃に手を出さず避け続ける。

 手を出したいのはやまやまだが、それよりも気になる事が1つ。

 戦闘に入る前から相手の身体から撒き散らされ続けているオイルの事だ。

……このゲーム、血とかはすぐに消えたりするはず。なのに消えてないんだよねあれ。

 火花を散らしているコードの事もあり、下手に攻撃を仕掛け手痛いカウンターを喰らうよりは、しっかりと相手の行動を見定めた方が良い筈だ。


『ヅヅヅヅクリィ!』

「もう何言ってんのか分かんないね!」


 だが、このまま攻撃しないのも不安と言えば不安なのだ。

 増援が来るかもしれない、なんて普通の事情ではなく……私自身の内側に宿るモノ。それが余計な事をしないとも言い切れない。

……あぁもう!考える事が多すぎるよ!私身体動かしながら考えるの苦手なんだけど!

 そんな事を考えつつ、無闇矢鱈に振るわれる鉈を避け続けていると。

 突然、鉈持ちが私から距離を取り、


『――ッ!』

「あっやっぱりそういう使い方!?」


 自身の身体から伸びるコードを掴み、地面に飛び散ったオイルへと叩き付けるように近付けた。

 瞬間、発生するのは爆発と爆炎による範囲攻撃だ。

 避けようにも、ここは駅構内の普通の通路。逃げ込めるような横道も、盾になりそうな遮蔽物も何処にも無い。

 故に、咄嗟にその場から全力で後方へと跳び退く事で出来るだけ衝撃とダメージを減らそうとするものの、


「あっついなぁ!」


 最大HPの半分以上が持ってかれ、尚且つ見慣れないデバフのようなアイコンが表示された。

……あれは……確か『火傷』だったかな?

 HPが自然に回復するのを阻害し、尚且つ与ダメージを減少させる厄介なデバフ。時間経過か特定のアイテムを使う事で治癒できるものの……流石にその手のアイテムの用意はない。


「……ふぅー……」

使う・・の?』

「まぁ大体全部見たかなって感じだし……流石にこれ以上は長引かせたら怖いからね」


 だが、今の一撃でダメージを負ったのは私だけではない。

 爆心地の中心に居た鉈持ちはその機械の身体のフレームが溶け、先程よりも動きが悪くなっている。

 時折小さく身体の何処かしらが爆発しているのは、恐らく身体内のオイルにまで引火しているのだろう。正しく自爆特攻だ。

……心臓部を破壊すれば良いだろうけど、まぁ上段から真っ二つで!

 息を吸い、熱された空気を肺の中へと送り込み。

 私は宣言する。


「『あたし、メリーさん』!」


 視界が切り替わり、先程以上の熱とオイルの臭いを感じつつ。私は右手を首元に添えて、


「『今あなたの後ろにいるの』――?!」


【■ ■開始――失敗】

【メインアルバン【口裂け女】:暴走開始】


 大太刀とも呼ばれる、巨大な刃物を取り出した所で右腕の感覚が無くなった。

……ここでか!

 見れば、そこには。

 私の腕ではない、見覚えのある何処か青白い女性の腕と、それに握られた赤黒い出刃包丁が存在し、


『うふ、ふふふ!ざぁーんねん!失敗しちゃったわね!』

「何が!?というより……ッ!」


 私の意志に反して動き出す。

 【メリーさん】のバフと共に、目の前の壊れかけの鉈持ちの背中へと滅多矢鱈に出刃包丁を突き刺し、斬り付け、そして柄の部分で打撃した後……一気に腕を胴体部へと貫通させるように突き刺し、中の心臓部を掴み引き抜いたのだ。


『うぅーん。ま、右腕だけじゃこれくらいよねぇ』

「は、はぁ……?」


 それが致命だったのか、鉈持ちは周囲のオイルと共に光の粒子となって消えていく。

 討伐完了のログが流れたものの、右腕はそのまま変わらず好き勝手に動き続けていた。

……なんかRPGとかに出てくる触手みたいな動きだなぁ。

 蠢くと言えばおどろおどろしいが、骨が無いかの様に独りでに動き続けているのだ。少しばかり変な連想をしてしまっても仕方ないだろう。


『触手とは失礼ね……おっと』

「あ、戻った。……時限式なのねこれ」


 と、心を読まれつつもツッコミの為かこちらに出刃包丁の矛先が向けられた瞬間、私の右腕は元に戻っていく。

 そもそもが身体アバターの内側の存在。元よりこちらの考えを読んでいる節もあった為、別段気にする事でもないのだが……それはそれとして。

……何かが失敗、とか書いてあったよね?

 刃物を具現化させると共に、私の視界の隅には何やらよく分からないシステムログが流れ、右腕が一時的に【口裂け女】に乗っ取られた。

 となれば、


「もしかして、制御とかじゃなく……そういう技術か何かがあるって事?」

『流石にここまでヒントがあれば分かるわよねぇ。厄介なものだわ、ゲームっていうのも』


 苦心するであろうと考えていた、【口裂け女】の制御。

 これが楽に……とは言わないものの。運否天賦ではなく、確実に確定的に出来る可能性がある。

 それが分かっただけでも今の一戦は十分な戦果を私に与えてくれたと考えるべきだろう。

……でも、それが何かはまだ分からないし、それを探るのがここからの攻略……って感じかな。

 闇雲に走る必要が無くなった分、気分は楽になった。


「ふふ、良いじゃん良いじゃん!ちなみにどういう技術かってのは教えてくれないわけ?」

『簡単には教えないわよ。自分を御する技術、なんて自分から教えたいと思うわけないでしょう?』

「そりゃそうだ」


 仕方ないと感じつつも、笑みを浮かべながら私は再び駅構内を歩き出す。

 ボスが居るであろうホームへはまだ向かわない。先にするべき事……制御の糸口くらいは掴んでから挑みたいからだ。

 それに、鉈持ち以外の機械の猿達がどのような変化を遂げているのかも気になる。

……自爆特攻、ってよりは属性系の攻撃をするようになったって考えるべきなのかな。

 このArban collect Onlineに属性なんていう概念があるかどうかは分からないものの。

 事実として、鉈持ちはオイルと自身の身体から伸びるコードを用いる事で爆炎での攻撃を放ってきたのだ。何かしらの対策自体は用意するべきだろう。何をどうするべきなのかはこれから考えるとして。


「おっと、忘れそうになった」


 ここで戦闘中の出来事によって再び忘れ去られそうになっていたモノを思い出した。

 それは、私が得ていた戦果であり、力であり、足りていないモノを補えるかもしれないモノ。


「【下水道のワニ】……【猿夢】の時と同じ、サブアルバン化した都市伝説のデータ!」


 インベントリから取り出した、白い種。

 これを身体の何処かに埋め込む事で、私は新たに【下水道のワニ】の力の一端を扱えるようになる……のだが。

……これ、何処に埋め込もう……?

 既に両手はサブアルバンで埋まっており、首元にはメインアルバンである【口裂け女】の印が存在している。

 アルバンを埋め込める上限数が決まっているのかは分からないが、普通に考えて既に埋め込まれている部位には新たに追加する事は出来ないだろう。浮かび上がってくる刺青のような印がごちゃ混ぜになってしまう。


「んー……あ、そうじゃん。あの手があった」


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