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Episode18 - ファクトインアルバン


■神酒


 地下2-3層攻略後。

 私達は改めて生産区に存在している喫茶店へと訪れ、事の顛末等を話し合う事にした。

 と言っても、話し合う議題は1つだけなのだが。


「とりあえずは、お疲れ様とおめでとうだね?」

「そう……ですね。お疲れ様でしたぁー……」


 兎にも角にも、口を潤わせてからと運ばれてきた紅茶をちびちびと飲みながら……ライオネルの視線がこちらへと……首元のアルバンの印へと向いている事に気が付いた。

……まぁ、気になるよね。私も気になるし。

 下水道のワニとの戦闘自体は最後の油断さえ無ければ十二分に勝ち目のあるものだった。

 当然、自身だけの力ではない事は理解しているし、新たに加わった【猿夢】の力も大きい事は分かっている。だが、その上で気にしなくてはいけない事が1つある。


「……本当に何なんでしょうね?」

「あは、君がそれ言っちゃう?」

「まぁ当事者ですけど!当事者なんですけどね!でも突然暴走するとか分からないじゃないですか!」

「それはそうなんだよねぇ。私の方もいつか暴走するのかね。ちょっとだけ怖いぜ」

「楽しそうに言わないでください……」


 【口裂け女】の暴走。否、暴走と言って良いのかも分からない現象。

 原因は依然としてハッキリ分かってはいないものの、恐らくはアルバンとしての能力を使い過ぎたが故のモノと考えられ……結果として、暴走はこれからも抑えられないだろうというのがこうして集まる前に立ち寄った解読屋の見解だった。

……メインアルバンの使用を抑えないといけない、って考えるよりは……暴走した上で制御できるかどうか、って所に焦点を当てた方が良いんだろうなぁ。

 抑えられず、避けられないのであれば。

 それを加味した上で、自身の力として使えるようにしなければならない。そうしなければ、これから共に行動していくであろうライオネルに迷惑が掛かるだろうし、戦闘の度に自分から死ぬ事を選ぶ新手の自殺志願者になり兼ねないのだから。


「でもさぁ、アルバンの暴走って言ったって程度があると思うんだよ」

「それは……そうですね。全員が全員私みたいになるかと言われてたら……ならないでしょうし」

「そうそう。今回はメインだっただけで、サブの方も暴走しないとは限らないしね。そっちの場合、私猿になっちゃうぜ?」

「デメリット気にせずにバフ選びまくる猿が誕生しそうで怖いですね、それ」


 ライオネルが言った通り、これは何もメインアルバンだけに起きるとは限らない話なのだ。

 サブアルバン……私で言えば【メリーさん】や【猿夢】。そして彼女で言うならば、【猿の腕】や持っているであろう【巨頭オ】等、暴走してもおかしくないアルバンは存在している。

 その上で考えるべきはやはり、どう付き合っていくか……なのだろうが、


「どぉーしようもなくないですかぁ……?リアルで知り合いでも呼んできて、地下で特訓でもします?」

「それが一番今は手っ取り早いだろうけど……あれ、神酒ちゃんは次のアプデ情報見てない?」

「アプデ情報?」


 突然話の向き先が変わったな、と思いつつ。

 私は言われた通り、Arban collect Onlineの公式サイトをゲーム内ブラウザで開き確認する。

 すると、


「大型イベント情報とアプデ情報……」


 2つの大きな情報が載せられていた。

 大型イベントの方は今の所、開催が決定しただけであり次回アプデ後に開催予定。特にこれと言った情報もない。

 しかしながら、アプデ情報の方が問題だ。

……攻略済みの地下に挑戦できる機能の追加……これか!

 既に攻略した地下に侵入する手段は今の所存在していない。その地下を構成していた要素である都市伝説を討伐、安定化させたのが理由だろう。

 しかしながらゲームである事を考えるのであれば、以前攻略した場所でも挑める方が自由度が高い。

 それに加え、私やライオネルにはあまり関係がないものの、現金へと変える事が出来る都市伝説の欠片を今挑んでいる場所よりも弱い敵が出てくる場所で集める事が出来るならば……それだけでもプレイヤーのやる気には繋がるのではないだろうか。


「ゲーム全体は停滞しかねないけど……私達にとっては良いアプデですね!これ」

「そうだろう?一応アプデ自体は来週に入るらしいから……それまでは私の知り合いを呼んでくるとか出来るけど……どうする?」

「んー……ありがたいですけど、一旦アプデ待ちで良いですか?」

「大丈夫だけど、その心は?」


 アルバンの暴走制御。これは急務であり、仕事としてこのゲームをプレイしている私にとってはやらねばならぬ目的の1つだろう。

 しかしながら、


「ちょっと、このゲームについて調べたくて。表側の情報しか調べられてないんで」

「それはー……特課ウチの仕事として?それとも興味ベース?」

「半々ですかね。仕事としては、暴走したアルバン……口裂け女の存在感がどうしてもゲームのソレに思えなかったので。ライオネルさんは間近で見たでしょう?」

「まぁね。あれはちょっと……一瞬現実の方の仕事を思い出したよ」


 このゲームがきな臭い事は初めから……秘匿事象隠蔽特課から私にプレイするよう仕事が飛んできた所から分かっていた。だが、生産区に訪れてから起こった一連の流れから、そのきな臭さは無視できないものとなってきている。

 その上で、上司に止められるまでは少しだけ調べてみようと思い立ったのだ。

……まぁ、私に調べられる程度の範囲で何か出てくるとは思えないけどね。

 普段、異常現象等を相手にしている実働隊と違い、私はちょっと裏を知っているだけの事務員。

 そんな存在である私が調べて何か出てくるのであれば……それはブラフの可能性も高いだろうが、これからの行動指標にも成り得る。


「だから、調べます。後は解析中のアレですけど……」

「あぁ、もう少しなんだっけ?」

「そうですね……そろそろ終わってもおかしくはないですけど」


 ボス戦前に確かめた時は、あと5時間から半日程掛かる、という話だったが……凡そ4時間以上は既に過ぎている。


「一旦確かめに行きますか。ついてきます?」

「行こうかな。暇だし」


 あくまで緩く、喫茶店を後にした私達は解読屋へと移動した。

 アプデ情報が発表されたからなのか、今の内に都市伝説の欠片の解析を任せたり、他にも次の地下を攻略する為に自身のアルバンの強化を行っていると思われるプレイヤー等でごった返している店内を移動し、何とか店員NPC前まで辿り着く。すると、


「いらっしゃいませ。……神酒様ですね?全てのデータの解析が終わっていますが、受け取りますか?」

「おっ、本当?じゃあ受け取ろうかな。ありがとう」

「またのご利用をお待ちしております~」


 安定化させた都市伝説の欠片と、ランタンから生じた謎の結晶の解析データ。

 この2つを手に入れた私達はとりあえずでトウキョウの地上の広場へと移動して……解析データの中身を確認して絶句した。


「――イベントを失敗させたら……都市伝説の一部が現実に解放される……?」


 その内容は……ある種、このゲームにおける不信感を高めるものであり、秘匿事象隠蔽特課として見過ごせない内容だったからだ。



――――――――――

プレイヤー:神酒


・所属

 伝承蒐集部隊【蒐集部門】


・所有アルバン

 メイン【口裂け女】

 サブ1【メリーさん】

 サブ2【猿夢】


・装備

 蒐集部門急所特化制服(上)

 蒐集部門急所特化制服(下)

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