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Episode15 - スーアアリゲーター2


 私が巨大なワニに対して打てる手段は限りなく少なく、限りなく広い。

 矛盾した考えではあるが、事実そうなのだ。

……巨大って事は脅威にもなるけど……その分、攻撃を当てるハードルは下がる!

 手段としては、避ける事と攻撃を行う事。

 それ以外に無く、だからこそ攻撃する先を選び放題なのだから。


「行くぜ、1発目――『野郎共、食事の時間だ』!」


 ライオネルのバフを受け、自前のバフ【口裂け女】の能力によって更に強化されているステータスによって、地面を蹴って宙を舞う。

 狙うは頭……ではなく、背中。

 下水道のワニの知覚能力がどれ程のモノかは未だ分からないものの、ワニという形状をしているのだ。背中側は警戒が薄く、目が届かない……はずだ。


「まず、1回目ッ!」


 先程投げた太刀の姿は見当たらない。

 そもそもが能力によって具現化させたモノだ。時間が過ぎれば消え去るモノ。気にする必要はあまり無い。そう結論付け……私は空中から複数のナイフを力任せに投げつけた。

 強化された膂力から放たれるそれらは、すぐさま動きが鈍重なワニの背中へと到達し、


「あっ!?」


 ずぶりと・・・・飲み込まれた・・・・・・

……汚水操作、っていうか……!

 ワニがどうやって私達の目の前に現れたのかを考えれば、思い当たっても不思議では無いだろう。

 何せワニは、汚水が集まり形作る事で出現したのだから。


「ライオネルさん!アイツ!」

「――オーケィ、全身液体とかそういう類だね?」


 この時点で、私の攻撃法の9割は有効打にならない事が分かった。

 液体は斬れず、叩けない。無論、相手が触れようと思えば触れられるのだろうが……あくまで受動的な動きしか出来ない。

 だが、それが分かった上でライオネルは動く。

……【猿の腕】で何か選んでる……?

 異形の猿の腕と化した左腕が、虚空の何かを選び取り……彼女の全身が緑色のオーラによって覆われた瞬間、彼女の握っていた棒状の何かから布が落ちていく。

 だが、ライオネルが動くよりも先にワニは動き出す。空中に居る攻撃しにくい的にではなく、今も自身の目の前で立ち止まっている獲物へと、その大きな口を広げ喰らおうと進み出したのだ。


「大太刀?!」

「残念違うよ。……鮪包丁さ!」


 刀の様に見えながら、そうではない刃物。

 巨大な魚類を捌く為に使う調理器具であり、現実に使っている姿を見る事はほぼ無いそれを彼女は軽く振り回すようにしてから上段に構え、


「ま、実働隊の良い所見せないと、ねッ!」

『――?!』


 一閃。迫るワニの進路から身体1つ分だけ避け、鮪包丁を左前足へと振るう。

 通常ならば、私が先程見たようにダメージは無いはずだ。しかしながら、彼女の一閃はワニの足を肩口から捉え……斬り離した。

……でも、すぐに元に戻るんじゃあ意味が……。

 着地し体勢を整えながらも、ライオネルへと視線を向ける。

 兎にも角にも私達とは相性が悪い都市伝説なのだ。まだ使っていない手札も含め、改めて出直した方が良いのではないか?と思ったものの、


「あは、大丈夫だよ神酒ちゃん。よぉーく見てみ」

「え?……!」


 足を1本切り離されたワニはその場で痛みにのたうち回るかのように横へと回転しているものの、徐々に周囲の汚水が集まる事で元通りの足を形成していく。

……少し、小さくなった?

 しかしながら、その姿は元に戻ったものの……大きさ自体は先程よりも一回り程度小さく見える。


「現実と違って、ゲームだからね。不滅、不死、不消……言い方は何でもいいけれど、きちんとギミックとして死って概念は存在してるはずなのさ」

「つまりは……攻撃し続ければいずれは、って事ですね?」

「そういう事!」


 言って、彼女は体勢を整え始めたワニへと今度は自ら近付く為に駆けだした。

 その姿に慌てて私も再度攻撃する為の得物を具現化させていく。

……ライオネルさんの仮説が本当なら……よくファンタジーに出てくるスライムみたいな、体積が大きい方が本体になる類。

 先程までの手数を稼ぐ為のナイフではなく、最初の太刀のような一撃一撃が大きく、尚且つ相手の身体を斬り離す……もしくは弾けさせる事が出来そうなモノ。それでいて、質量もあるもので刃物と言えば、


「これ、だよね」


 首元の印から取り出したのは、1本の斧だ。

 普通の、木こりに使うような斧ではない。フランキスカと呼ばれる、投擲用の戦斧であり……その大きさ自体は私の片腕よりも短い程度。しかし、ステータス強化が施されている私をもってしても、ずしりという重さが両手に伝わってくる。

……近距離はライオネルさんの得意距離。私は能力的に、極論どこからでも攻撃は出来る……!

 ステータス強化、転移能力。この2つが組み合わさる事で、相手の死角へと移動し続ける事が出来る私にとって、得意距離なんてものは存在しない……はずなのだ。

 何せ、具現化する刃物によって射程距離は変わり、ステータス強化によって無理矢理にでも状況を打開できるはずなのだから。

 2つの『はず』を前提に動けば……それは断定の『出来る』に変わる。変える事が出来る。


「……ふふ、私らしくないね。ちょっとワニが大きくて怖いからって弱気になってたのかな?――じゃ、これでいつも通りに戻ろうか!」


 ライオネルとワニが接敵したのを確認すると同時、私はその場で大きく足を開き身体の重心を落とす。

 それと共に腰を回し、フランキスカを持つ右腕を大きく背中側へと回していき一息。バネのように回していた身体を、一気に元に戻すと共に巨大な的へと向かって戦斧を投擲した。

 瞬間、何かが破裂するかのような音が下水道に鳴り響くと共に、ワニの顔面が潰れたかのようにその形を崩す。命中したのだ。

 普通の生物ならばこの一撃で倒す事は出来ていただろう。しかしながら、


「追撃ッ!」


 ライオネルはまだ相手が死んでいないかのように、潰れたワニへと向かって何度も何度も出鱈目に鮪包丁を振るう。

 当然だ。まだ討伐完了のログは流れていないのだから。

……もう再生が始まってるのも凄いな……!

 周囲の汚水の嵩が減っていくのを感じながらも、既に潰れた身体の再生が始まっているワニに対して私は再度フランキスカを具現化させる事で二度目の投擲の準備を行う。

 このまま削る事が出来れば、何時になるかは分からないが討伐自体は出来るだろう。

 所謂パターンに入った、とでも言えるならば良いのだが……私もライオネルも、都市伝説という存在がそんな簡単に消えてくれない事を知っている。


「さぁて、どこのタイミングで使えば良いかな……ッ!」


 溜めを必要とする為に連発、という事は出来ないものの。

 何度も何度もワニの体積を吹き飛ばす為に斧を投げながらも、自身の左手の甲を見る。

 私の新しいサブアルバンであり、元々宿っていた2つのアルバンとはまた違う系統の能力が備わったソレは、今の状況でも有効打に成り得る可能性を持っている。

 しかしながら、チャンスは一度のみ。

 それを逃したら意味のない手札に成り果てるのがこの【猿夢】というアルバンの能力だった。

……もう少し減らして……せめて、ラストアタックとか……それに近くなるくらいのタイミングで使いたい……!

 強欲に、貪欲に。狙える時が来るまで、ライオネルの援護をしながら斧や、それ以外のモノを投げる事で待ち続ける。

 どんなゲームでも、ボス戦で焦ったら待っているのは負けのみなのだから。


「ッ!……?なんだ今の?」


 そうして、何度も何度も具現化しては投擲していると。

 度々感じていた、何かが削れていくような感覚と共に……頭の内側に電流が走ったかのような感覚を一瞬だけ感じ、動きを止める。止めてしまう。

 それと共に、周囲の景色が灰色へと染まっていき、


「神酒ちゃん!避けて!」

「え?……おわぁ!?」


 ライオネルの声で世界に色が戻る。

 気が付けば、目の前に大きく開いたワニの顎が迫っており。

 何とか横へと跳ぶ事でそれを避けながらも、自身の状況を確認していく。

……何だ今の?

 何かがおかしい。そう感じながらも、私は再度、先程と同じ様にフランキスカの投擲を再開した。

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