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Episode11 - チャレンジダンジョン


 結論からして、ランタンから生じた謎の結晶を受け取ってくれるNPCは存在していた。

 それは、


「では、こちらの結晶の解読を開始しますね!――解読完了時間が未知数です。完了次第、お客様に通知が飛びますのでそれを確認次第再度お訪ね下さい」

「はーい、ありがとう!」


 解読屋。主に都市伝説の欠片を解読、安定化してくれるNPCが謎の結晶の解読も請け負ってくれたのだ。


「いやぁ、良かったねぇ受け取ってくれて」

「ほんとですよ!生産区で誰も反応がなかった時は諦めかけた……本当に……!」


 あれ自体はまだ良くわからない代物ではあるが、こうして解読が出来るという事は……都市伝説の欠片に準ずるものである可能性が高い。

 流石にアルバンの強化などに使える様なモノにはならないとは思うものの、意味があるモノには成ってくれるだろう。

……そうなってくれないと困るしね。

 ライオネルとの邂逅から驚きと困惑が続いていたものの、これで一件落着。その上で、私達2人は再度生産区へと移動していた。

 その理由は簡単だ。


「……で、新しいダンジョンでしたっけ」

「うんうん。私も見つけてちょこっと様子を見ただけなんだけどね。丁度良いし2人で攻略した方が良いかなって」


 ライオネルが見つけていた、新たな地下。

 猿夢や巨頭オ、紫鏡のような都市伝説が支配する、危険な階層への入り口。知り合って間もないものの、こうして仕事仲間が揃っているのだ。私達の仕事内容メインクエストであるゲームの攻略を進めるのにはうってつけだろう。

……そういえば、ライオネルさんのアルバンがどういうのかは結局教えてもらってないな。

 少しの問題があるとすればそれだけだ。

 私と同じ、暗殺者系統だった場合は少しばかり戦う位置を考えねばならないし、そうじゃなかった場合も、多少の擦り合わせ程度は必要だろう。


 生産区の中、煉瓦造りの街を歩いていく事暫し。

 私達は、とある場所に辿り着いた。


「……ここ、ですか?」

「なんとここなんだよね。私もびっくりしたよ」

「こっちもしてはこんな所に入っていく勇気の方にびっくりですけどね!」


 廃坑、とでも言うべきだろうか。

 所謂、それに類する場所へと繋がるトンネルの入り口の様な場所。

 怪談や肝試し等でスタート地点となり得る、そんな場所が生産区の一角に突如出現していたのだ。しかも、私達以外の2人は気が付いていないかのように振る舞っている。


「これどういう仕組みなんですかね?ゲーム的によくある『資格ある者にしか見えない……』なんてネタ?」

「かもね。元々は私がここに入る資格を持ってるから見えてて、神酒ちゃんとパーティ組んでるからそっちにも見えてるとか」

「ありそうですねぇー……」


 インベントリ内の消費アイテム類の数は問題ない。

 そもそも猿夢戦ではあまり使わなかったし、そこから地下へと侵入していないのだから減りようがない。


「いよっし、じゃあ中に入っていこうか」

「……私のアルバンの能力は聞かなくても大丈夫ですか?」


 【口裂け女】について説明しようとして、手で制止される。

 ライオネルはこちらへと愉しそうな笑顔を向けると共に、


「そういう楽しみはこの後までとっておかないとね」


 そう言いながら、ダンジョン内へと侵入していく。

……そういうモノ、かなぁ?!

 言っても聞かないタイプなのは、短い時間ながら分かり切っている。

 だからこそどうせならば分かりやすい形で能力を見せられるようにと、少し考えながらも自分の足でライオネルを追うように廃坑へと駆けていく。


--地下2-3


 視界の隅に場所の名称が出現すると共に、ライオネルへと追いついた私は言った。


「全然廃坑じゃない!」


 そこは、映画でしか見ないような巨大な下水道が広がっていた。

 空気は冷たく、それでいてずっと何かがこちらを見てきているかのような……猿夢が支配していた駅構内と同じ雰囲気を感じると共に、下水道特有の臭気が鼻を襲う。

 適当な感覚で設置されている電灯が点いている為、真っ暗で何も見えないという事はないものの。

 薄暗く、何処に何が潜んでいてもおかしくはないだろう。

……それにしても、2-3か。どれくらいの数から抽選されてるのか分からないけど、今回は3番目のボスが選ばれたって事かな……?

 ボスが抽選されると共に、内部構造もボスに適したモノへと変化する……らしい。

 ライオネルが討伐した巨頭オ、名の知らない男性プレイヤーが討伐したらしい紫鏡なども、それらに適した形で地下が広がっていたのだろう。


「あは、私は別にこの先に廃坑が広がってるなんて一度も言ってないぜ?」

「確かにそれはそう!キラキラしてるものもないし……サクっと探索しちゃいましょう」

「良いねぇその気概。じゃあ先に入った事がある私が先頭で、後から着いてきて」

「了解です!」


 こうして、私とライオネル……秘匿事象隠蔽特課に所属する、普段では絡む事のない事務職と実働班の地下探索が始まった。



―――――



 廃坑、もとい巨大な下水道を探索し始めてすぐ。

 私達はそれに遭遇した。


『『ギュッォ!』』

「あは、ほーらまた来たよ神酒ちゃん!」

「楽しそうですね!?」


 身体全体にヘドロや汚水を纏い、下水の中からこちらへと飛び掛かるようにして襲ってくる存在。その見た目は、魚のように見えていた。

……ほんっとうに面倒!

 対処自体は楽な部類だ。何せ、攻撃方法が飛び掛かる以外に存在していないのだから。

 しかしながら、如何せん数が多い。

 一度に出現する数は少なくとも5匹は超え、それでいてランダム間隔で襲いかかってくるのだ。面倒な事この上ないだろう。


「漁師用の刃物なんて……頭の中に無いよって!」


 その上で、私が選択した武器は片手剣。

 それも手数を重視した上で、両手に1本ずつ持つスタイルだ。強化された身体能力を存分に活用する事で、剣に身体を振り回されずに敵を叩き斬ることが出来る。

 だが、そんなスタイルで必死に汚物の魚達を相手にしている私の横で、信じられない事をしている人間が1人居た。


「――イタダキマス」


 ライオネルだ。

 明らかに都市伝説側の敵性バグ。それに加え、汚物塗れの魚らしきものを嬉しそうに……愉しむかのように、大きく開いた口の中へと掴んでは放り込む事で咀嚼しているのだ。

……明らかに食べる度に動きが早くなっていってる。喫茶店でも見たけど……アレがライオネルさんのアルバンの能力かな?


「ッ、とォ!」


 そんな事を考えていれば。

 いつの間にか目の前にまで迫ってきていた汚物の魚を咄嗟に斬り伏せる。

 どうやらそれが最後の1匹だったようで。

 視界の隅にログが流れるのを確認して……その場で軽く脱力した。


「んー……ゴチソウサマでした」

「もしかして、それ食事がライオネルさんの能力だったりします……?」

「あは、まぁ気付くよねぇ……っんべ」


 彼女は笑いながらも、私の方へと舌を出す。

 そこには、


「それは……人の頭と食器類?」

「そうだねぇ、正確には生首とナイフ、フォークの印……らしいね?自分じゃ確認出来ないから、キャラメイクしてくれたAIがそう言ってたんだけど」

「合ってますよ。でもその印って事は……人喰い系?ですか?」

「おぉー流石!」


 生首、そしてそれを食す為に設置されたかのように置かれた食器類の印。

 そこからアルバンの元になったと思われる都市伝説は何個かあるだろう。明らかに食人系なのだ。事、怪談系都市伝説ではその手の話は事欠かない。


「そう、私のアルバンのモチーフは――」

『ギュッォ!』

「ちょっ!?また新手が……!」


 と、説明しようとしたライオネルの背後から、新たに敵性バグが迫ってきたものの。


「――『野郎共、イッツ食事の時間だミールタイム』ッ!」

「『!?』」


 突如、彼女の身体から放たれた緑色の光。

 それと共にばりぼりと言う、何か硬いモノが砕かれるような音がすると共に……討伐完了のログが流れていくのが見えた。

……一応、アレ攻撃なんですけど?!

 この下水道に出現する汚物の魚。その攻撃である突進には、汚物を纏っているが故か命中してしまうと何個かのデバフに侵されてしまう……のだが。


「ふぅ……おかわりも来るなんて良いダンジョンだねぇココは!」

「いやいや!そういう問題ですか!?」


 驚きながら、そしてツッコミを入れながら。

 私は満足したように腹部をさすっているライオネルに、続きの説明を求めたのであった。

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