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Episode10 - ミスティックアイテム


 生産区の中を歩いていると、それなりに分かる事がある。それは、


「ライオネルさん、あれって」

「あぁ、うん。プレイヤーの露店だね。各自で作った装備とかを売り出してるはずだよ。見てみるかい?」

「いえ、大丈夫です。……やっぱりあるんだ、生産コンテンツ」

「あは、生産区に辿り着いたら解放されるモノだけどね」


 私達と同様に、生産区へと辿り着いているプレイヤーが開いている露店だ。

 地上の装備屋で売っている様な見た目のものから、何処か不気味な雰囲気を纏っているものまで様々なモノが置かれており、その種類も豊富。まるで地上とは全く違うゲームの中へと入り込んだようだ。


「ま、目的地のランプ屋までは距離があるし……少しだけ情報共有から始めようか」

「そうですね……まず何からします?」

「そうだねぇ……神酒ちゃんって1-1層でどんな都市伝説を相手にしたんだい?」


 と、ここで思ってもみなかった質問が飛んできた。

……そんな分かりきった質問を?……いや。

 一瞬、疑問に思ったものの。しかしながら1つの可能性が頭に過ぎる。


「……もしかして、人によって違うんですか?」

「あは、今の所結構皆違うみたいだよ?例えば、あそこで露店を開いてるソロの男の子。あの子は『紫鏡』が地下を支配してたみたいだし……私だって『巨頭オ』が相手だったしね」

「わぁ、全然違う。私は猿夢ですよ猿夢。……殺意高いなぁ全部」

「死んじゃったり行方不明になったり、どうなるか分からない類だもんねぇ」


 3つの都市伝説と、それらを踏まえた上で導き出される結論。それは、


「ボスがランダムとか、その手の類ですか?」

「当たり。まぁ確証はないんだけど、ここまでソロプレイヤー3人が違う都市伝説と相対してきた事を考えると、大体間違ってもないんじゃあないかな」


……恐らくボスは抽選式だったとかそういう感じかな?どれくらいの数から抽選されてるのかは分からないけど。

 地下へと侵入した時に、それぞれのパーティによってボスが確定し、それによってダンジョン……1-1層が生成されたと考えればある程度は納得がいく。


「……ソロ向けに調整されてたんですかね?」

「……んー、そうとは言い難いなぁ。アルバンの相性が良かったからどうにかなったけど。神酒ちゃんは?」

「こっちも似た様な感じです。そもそもがボスらしいボスも居なかったですし」


 猿夢自体がボス、と言えば話は早いが……ゲーム的に強敵という意味でのボスが居たかと言われれば怪しい所だ。

 最後に出現した巨大な猿がそうだと言われればそうだし、私が乗っていた列車自体がボスだったと言えばそうだろう。


「成程ねぇ……おっと、目的地に着いたみたいだぜ?」

「へ?……わぁ!綺麗……!」

「ランプ専門って聞いてたんだけど……ちょっとニュアンスが違ったぽいね」

「細かい話は大丈夫です!行きますよ!」


 店の中へと入っていくと共に、私は無数の光に包まれる。

 店内には数多くのガラスで造られた工芸品が展示されており、その中でも天井から吊り下げられているランタンやカンテラへと視線が向いた。

……凄い。一部しか灯りが入れられてないのに。

 工芸品やランタン、カンテラに反射した光が店内に満ちている為に、生産区特有の薄暗さを感じない。

 それどころか、光によって他よりも明るく、そして何処か幻想的な空間が広がっている様に思えた。


「ん……おや、客だな。いらっしゃい」

「どうも!見てっても?」

「問題ない。ただ手に取るのはやめてくれ。欲しいものがあったら俺に声を掛ける事。それ以外は自由にしていってくれ」

「分かりました!」


 恐らくプレイヤーであろう男性の店員から許可を取った後、遅れて入ってきたライオネルを半ば放置しつつも店内を見て回る。

 無論、全体的には見ていくものの……メインで見たいのは元々の目的であるランタンやカンテラと言った、光源系がメインだ。

……結構種類があるなぁ。

 現実にもありそうな、キャンプなんかに持っていくであろうデザインのものから、実用というよりも観賞用に近いステンドグラスのような装飾が入ったもの。それ以外にも、蝶や動物などの形をした一種の芸術品のようなものらが並んでいる中、


「……ん?」

「どうしたんだい?神酒ちゃん」

「いや、ちょっと……ライオネルさん。これ」

「んー?……おぉ?これはこれは。中々珍しいものがあるねぇ」


 私はそれを発見した。

 ガラスで造られていながらも、他のものとは何処か違う……言うなれば、地下1-1層・・・・・・に近い雰囲気・・・・・・を纏った、南瓜型のランタン。

 ジャック・オ・ランタンを基に造られたのだろうそれは、光が灯っていないにも関わらず、薄らと輝いているように見えていた。


「……店員さーん」

「おう、何か良いの見つかったか?」

「うん。この南瓜の奴欲しいな。幾ら?」

「南瓜?……こんなんウチにあったか?……いや、良い。値札も付いてねぇし……最低限の値段で良いか。都市伝説の欠片1個で良いぞ」

「本当!?買う買う!」

「毎度あり」


 店員は首を傾げつつ、南瓜型のランタンの簡単な整備を行なった後、私へと手渡してくれた。重みは無く、それでいて纏う雰囲気はそのままだったものの……店員はそれに気が付いていないのか、そのまま決済を行うとまた店番へと戻ってしまった。

 何かを言いたそうなライオネルを連れ、店の外へと出た後、私は口を開く。


「どう思います?これ」

「厄ネタでしょ。こんなゲームでその形、尚且つ雰囲気的に」

「でも店員さん気が付いてなかったですよ?」

「そこも含めて、じゃないかな?資格ある者だけが気が付ける……ってやつ。良くあるじゃん」


 改めて眺めてみるものの、一見すれば普通のインテリアにしか見えないそれ。

……ん?あれ?

 だが次第に、首元の印が……【口裂け女】が埋め込まれた位置が熱を帯びていくのを感じた。

 隣のライオネルに視線を向けて見れば、彼女は彼女で何処か息苦しそうに舌を……マズルマスクの所為で良くは見えないものの、印の入った舌を外に出す様に息をしている。

 それと共に、南瓜型のランタンは灯が入っていないにも関わらず不規則に点滅し始めた。


「一体――ッ!?」


 明らかな異常事態。その為、一度インベントリ内へと仕舞おうとした瞬間……手の中の南瓜型のランタンがその形を溶けるように崩し始め、別の形へと変化していく。――否、その内側に隠されていた物が露わとなる。

 立方体の、まるでルービックキューブのような。

 結晶で造られた、血のように紅い不可思議な物質だ。


「……変化は収まった、かな?」

「恐らく……でもランタンじゃなくなりましたね」

「ふぃー……やっと普通に喋れるよ。神酒ちゃんの方は大丈夫だった?」

「大丈夫です。私よりも辛そうな人が居たんで!」

「あは、言うねぇ」


 近くの明かりで透かしてみたり、明らかに反応していたであろう【口裂け女】の印へと近付けてみるもの、特には反応が返ってくる事は無い。

 完全に謎の物質へと変化しており、インベントリへと仕舞う事自体は出来るものの、アイテム詳細は文字化けしていて読む事が出来なかった。


「どうします?コレ」

「んー……明らかにバグってるアイテムっぽいんだけどなぁ。GMコールしてもすぐに来ないって事は……多分これが正規の状態、っぽいよねぇ」

「一旦色んな所のNPCに聞いてみます?これがトリガーになってイベント起きるかもしれないですし」

「いいね。ちょっとそれでやってみようか」


 そうして、私達はああでもない、こうでもないと話し合いながらも生産区と地上を歩き回っていった。

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