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Episode7 - モンキードリーム3


『ごッ乗車ァ!?』

「おぉ!凄い凄い!」


 首元の印からナイフを具現化させると同時、私はそれを目の前のメガホン持ちへと投げ続ける。

 私が思いつき、やってみた方法。それは、単純に刃物を具現化し続けて強化された身体能力を活かして投擲し続けるという……【口裂け女】の自分のみで扱える能力をフルに使っての戦闘方法だ。

 但し、一応問題はある。

……やっぱり手から離れると数秒くらいで消えちゃうな。薙刀もそれの所為かそこまで飛ばずに消えちゃったし。

 具現化の限界だ。私の手から離れ凡そ5秒経つか、20メートル程度離れてしまうと、光の粒子となって消えてしまうのだ。

 だが、そもそもとして現在戦闘を行っている列車内ではそこまで関係ない制限であり、猿夢をどうにかするまでは気にしなくて良いレベルだろう。

 現に、今もこちらを見つけメガホンを向けようとしている機械の猿に向け、自由に動けないようにナイフを投げ続けることが出来ている。


「何かがゴリゴリ削れてる気がするけど……まぁ、現状HPとかが削れてる訳じゃないしなぁ」


 アルバンを初めて使った時からの、謎の感覚。その正体は分からないものの、今の所問題は無い為に気にしないでもいいかもしれない。

……先に進んで……これで大体3両目くらい?

 列車内の探索自体は続いている。と言っても、同じような景色の中でこちらへと迫ってくる機械の猿を倒し続けている為に、少しマンネリ気味にはなっていた。


 だが、その時だった。

 何処か遠くの方から目覚まし時計の鳴る音が聞こえてきたのだ。

 それと共に、車両につけられたスピーカーからノイズが流れ出す。


『……ァ、次はァ〜抉り出し〜抉り出し〜』

「2段階目……!」


 アナウンスが終わると共に、車両の窓から見える景色が一部変化する。

 紫の明かりが灯っているだけの長い長いトンネルだったのに対し、今では赤の明かりが混じり始めているのだ。

……これ、急がないとやばいパターン?

 外へと視線を向けてみれば、紫の光だった為に見えづらかったトンネル内部がはっきり見えてくる。

 そこには、


「骨、多いね……」


 大量の白骨死体が、山のように線路の左右に積み上げられていたのだ。

 恐らくは、猿夢によって死んだ人達の成れの果て。ここまでの活け造りや潰された者達が捨てられ続けて山になっているのだろう。


「ゲームとはいえ……気分の良い物じゃないね」


 どうせ山を築くならば、輝く物やお金で山を築けば良いのに。

 私だったらそうするだろうと、考えても無駄な事を思い浮かべながら前へと進む速度を少し上げた。

……って言っても、道中の……メガホン持ちは無視できないよね。

 鉈持ち、ゴリラもどきに関しては無視しても問題はない。パッシヴ能力のみでほぼ対処が可能だからだ。

 しかしながら、メガホン持ちだけはスタン効果のある衝撃波を放ってくる点から、無視していると手痛い一撃を貰う可能性を秘めている為、見つけ次第倒した方が良いだろう。


「よっし、行きますか!」


 強化されている身体能力をフルに活用し、最初の車両で行った曲芸のような移動の仕方を組み合わせながら車両を前へ前へと進んでいく。

 私の進んでいる方向が本当に前かどうかなんて分からない。目的地が逆の可能性はあるものの、今進んでいる方向に向かって進んでいく事しか出来ない。


『叩きィ!潰しィ!』

『活けェッ!?』

「はーい失礼失礼!」


 こちらに気が付いたゴリラもどきの頭部を足場に跳躍し、更に空中に居る私に鉈を振るおうとしてきた鉈持ちへとナイフを投げつける事で黙らせて。


「【あたし、メリーさん。今あなたの後ろにいるの】!」

『ッ!?』

「ごめーんね!」


 メガホン持ちを遠目に発見しては、【メリーさん】の能力を使う事で距離を詰めつつ、斧を具現化させ一気に叩き割る事で前へと進む。

 時折、それらが複数出現したり、後続から雑に対処した機械の猿達が追いついてくる事もあるが、その都度買っておいた煙玉や、ナイフを投げる事で怯ませ時間を稼ぎ。

 そうして私は、ある空間・・へと辿り着いた。


「広っ!なんか間違えた?!……いや、行き止まりって事は多分、ここが最後尾!」


 その空間は、列車内という事を考えると広すぎた。

 ちょっとした体育館程度の広さがあり、奥には内部が見えないように黒いカーテンで覆われている扉が1つ存在している。

……列車の行き止まりにある扉……って事は、多分あれが乗務員室。

 当たりならば、ムービーで見えたガラスで覆われたレバーがあの中に存在している筈だ。

 これ見よがしに見せられていたのだから、恐らくはアレがこの状況をどうにかする為のキーだと信じたい。

 そう考え、私は一歩前へと……その空間へと踏み込んだ。

 その瞬間、


『――ン、ンン?なんで君がそこまで来てるのかな~……猿達は……あぁ、大半が壊れてる~……。じゃあ、ちょっと頑張ってほしいかな~!』

「ちょっ?!」


 少しばかり焦ったようなアナウンスと共に、私の目の前……空間の中心が罅割れていく。

 それを見た私はすぐさまその場から駆けだし、奥の扉へと向かって接近しようとして……阻まれる。

……やっぱりそういうのって出てくるよね!?

 私の目の前には、壁が出現していた。……否、それは機械の塊だった。

 肌色に着色されているものの、中からは歯車の動く音が聞こえ。隙間からは時折蒸気が噴き出し、私の顔を直撃する。

 恐る恐る、上の方へと視線を向けてみると。そこには、


『『『ィイイイ……タタタ……ゴゴッゴ……ォ……』』』


 3つの顔を持った、巨大な機械の猿がそこには居た。

 それぞれ、ここに来るまでに遭遇した3種類の機械の猿の特徴を持ちながらも、それら全てが歪に組み合わさり身体を形成している。

 それぞれを組み合わせた結果なのか、元々巨大だったその体長は私の3倍にも達しており、両腕には所々にメガホンや鉈が生えているような様子。

 極めつけに、それぞれの顔がそれぞれの言っていた台詞を出鱈目に繰り返している為に、ちょっとしたホラーのヴィランのようになっていた。


『ふぅ、これで安心安心~!次は~挽肉~挽肉~!』

「安心なわけあるかぁ!……でも退けないんだよ!ここまで来たら!」


 ついアナウンスの呑気な声にツッコミを入れつつも、私は一度その場から飛び退いて。

 投げる為に持っていたナイフから、取り回ししやすいロングソードと斧へと切り替える。

……多分、ここが正念場!ボス戦って奴だね!猿夢の中でボス戦ってのも意味わかんないけど!

 目の前の巨大な機械の猿を対処する事で、私は奥の扉へと辿り着く事が出来る。

 それで終わりを迎えるかは分からない。だが、ヒントがそれしかないのだから……ここから出る為に、そのヒントに縋るしかないのだ。


「さぁ、行こう!」


 一度自ら離した距離を、再度自身の足で詰める為に地面を力強く蹴る。

 それと同時、巨大な猿はこちらへと向かって壁のようにしていた手を滑るように動かした。

……でっかいから、これだけでも十分に脅威になるのずるいな!

 まるで巨大な壁が迫ってくるかのような感覚を覚えながら、私はその場から前へと跳ぶ事で距離を詰めながらも回避しようと動いていく。

 全ての行動を躊躇わない。躊躇えない。ここまで来て、自分の動きを……アルバンの能力をもってして強化されている身体能力を信じられないのは、流石に格好悪い。

 仕事であるとかは関係ない。ここまで来たからこそ、やり遂げるのだ。


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