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Episode6 - モンキードリーム2


 身体の回転と共に振るわれた薙刀は、高さもあってか機械の猿の顔面を横一文字に斬り裂くように迫っていく。しかしながら、その一撃は咄嗟に反応した猿の鉈によって止められてしまった。

……パッシヴだけだからごり押しは難しいか!

 だが、鉈持ちが無傷というわけでは無い。遠心力も相まってか、受け止めた鉈は刀身の途中からひしゃげており、使い物にはならないだろう。

 それに加え、強い衝撃を受け止めたであろう肩部からは青白い火花と電気が散っており、それなりのダメージを与えられたように見える。

 だからこそ、私はそのままの勢いで更に薙刀を振るっていく。


「昔、ちょっとだけ他のVRMMOでやってて良かった長物持ち!」


 薙刀は難しい武器だ。

 槍のような使い方と、矛先に付いた刃での斬撃系武装としての使い方。その2つがあるが故に、通常使うならば槍の方が良いものの……使えるのであれば、薙刀はその扱いの難しさに応じた戦果を齎してくれる武器でもある。

 身体の回転を使った、遠心力の乗った力強い横薙ぎの一撃や、細かく動かす事で矛先の刃による斬り刻み。槍のように突く事も出来るし、何なら石突などを使った棒術的な使い方すらも出来る。


「よっ、ほっ、とぅ!」

『いッ、ケェ!?』

「ふふ、もう何も言えてないじゃん!」


 迫ってくる手を軽く弾き、バトンのように回しながら目の前の機械の猿の顎を強打して。

 それと共に、その場で横回転する事で足を払いながら薙刀で更に追撃を行っていく。

 周囲に居る乗客が巻き込まれ、血と肉が周囲に散らばると共に、その匂いに顔をしかめながらも、私は更に薙刀を振るう。

 目の前に居る1体の機械の猿は何も出来ず瀕死になっているものの、その奥にもう1体。そしてその奥には、


『叩き潰しィ叩き潰しィ!』

「新種だね、アレ」


 見た事が無い、新しい種類の機械の猿がこちらへと迫ってきているのが見えていた。

 鉈持ち、メガホン持ちと似たような乗務員の服装を着ているものの、明確に違う点が1つある。それは、


「完全に肉弾戦特化みたいな見た目だ……!」


 異常に発達しているように見える、巨大な両腕だ。

 機械の身体であるのを良い事に、本来握るという用途を持っていたであろう手の部分をハンマーのように変え、猿というよりはゴリラのような歩行の仕方をしてこちらに迫ってきている。

……動きは遅いけど……アレ、流石にパッシヴだけじゃあ受け止められなさそうだ。

 考えている間にも、1体目の鉈持ちはスクラップに変わり、2体目も鉈を振るう前にその手から落とされ、その身体全体を滅多打ちにされていく。


「いいや、切っておいた方が安全かな!ねぇ、知ってる?『君らって私より弱いんだよ?』」

『いッ活け造ッィ……!』

『叩き潰しッ!潰しィッ!』

「はーい、ありがとうございまーす!」


 【口裂け女】のγ能力である【私キレイ?】を発動させ、身体に赤いオーラを身体全体に纏いつつ。私は鉈持ちを早々に薙ぎ払ってから、薙刀の具現化を解いてから新手へと向かって軽く跳躍した。

……両腕に気を付けながら……懐に潜り込める武器!

 首元から具現化させるのは、薙刀よりもコンパクトで範囲自体は狭いものの、取り回しがしやすい刃物……西洋剣。ロングソードと言われ、威力も十分なそれを、強化された身体能力をもって片手で振るう。


『叩きッ!?』

「おっとっと。君、ここまで入り込まれると何も出来なくなっちゃうの?」


 腕を振るおうとしても、懐へと入り込んだ私には届かない。

 掴みたくとも、手の部分がハンマーになっている為に掴む事が出来ず、空ぶるのみ。

 たまにそのまま弾き飛ばそうと手が迫ってくるものの、その場合は私が避ける事で逆に胴体部へと自分で攻撃するような形になってしまう始末。

……一番楽かもしれないね、このゴリラもどき。

 これならば更に身体能力を上げる必要はなかったかもしれない、そう考えたものの。

 逆に身体能力が上がっていない状況だと、懐に入り込むまでが大変そうな相手でもある。


「変に両腕使って回転、とかされたらそれだけで近づけないだろうし……使ったのはマシだったかな?」


 両腕が武器になるというのは、利点であり欠点でもある。

 私自身がそうなる可能性はないものの、それが分かっているだけでも対策のしようがあるのは良い点だ。

……これで3種類。アナウンスしてたのも含めると4種類かな?流石にこれ以上増えられるとちょっと対処に困っちゃうな。

 ゴリラもどきの胴体部を斬り裂き、内部から血のようにオイルが噴き出た所で光の粒子へと変わっていく。


「ふぅ……この場は乗り切れたけど……まだ音してるね」


 少し離れた位置から駆動音は聞こえているものの、目視できる位置には機械の猿は見えていない。

 背後から迫ってきている可能性はあるが、一度切り拓いた方向へと突っ切ってしまった方が良いだろう。

……この後がどうなっていくかに依っても変わってくるよね……。

 猿夢の進行は3段階から4段階以上。現在はその1段階目の『活け造り』であり、その後に『抉り出し』、『挽肉』が待っている形だ。

 基本の流れはその3つの段階を経た上で、話の主が逃げ出すか、更に他の殺人方法が追加されている事もある。

 どの猿夢をモチーフにしているかは分からないが、それらによっては……今後変な機械の猿が出てくる可能性だってあるだろう。


「ま、進むしかないんだよね!トンネルから抜けないし、何なら動きっぱなしだから外に無理矢理出れないし」


 乗客が活け造りや挽肉になっているのを視界の隅に捉えながらも、前へと進んでいく。

 助ける術は私には一切ない。NPCを助ける必要があるのかどうかは置いておいて……もしも助けられたら、と考えてしまうと際限がないからだ。

……仕方ない仕方ない。こういうのは割り切って進むべき。

 それに、彼らを救う一番の方法はこの列車を止める事だ。原因を止めてしまえば、犠牲は止まる。

 既に犠牲になってしまった人には申し訳ないが、それに関しては手を合わせ目を瞑るくらいしか私には出来ない。


「武器は……とりあえず薙刀で」


 【私キレイ?】の能力が切れたからか、少し重く感じるようになったロングソードの具現化を解き、再度薙刀に切り替える。

 急な接敵時はどうしようもないものの、お互いに近付いてきているならば、こっちの方が範囲が広く使いやすいのだから。

……メガホン持ちの対策だけはどうにかしとかないとなぁ。

 最悪、自身の耳を潰す必要があるかもしれないが……それをやって、その後に鼓膜が再生できるかが不透明な為に気が引ける。

 一番不味いのは、気が付かないうちにメガホン持ちに前後を塞がれてしまう事だろう。

 延々とメガホンからの衝撃波によって動けなくなり、その間に他の2種類が寄って来て倒されてしまう。流石にスタンを喰らい続けるクールタイムの方があるとは思うものの、無かった場合が悲惨だろう。


「ちょっと試しながら進んでいこうかな……色々思いついた事もあるし!」


 メガホン持ちの対策にはなり得ないかもしれない。

 しかしながら、他の2種類……攻撃方法が近接に寄っている猿達には効くかもしれない方法が1つ。刃物の具現化も含め、自身の能力を使って出来る事で考え付いた、ただゴリ押すだけではない私の攻撃方法。

 それが有効であるかによっては、この列車の攻略速度もある程度は上がってくれるだろうと思う。


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