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Episode5 - モンキードリーム1


--地下1-1層


 再び地下……駅構内へと降り立った私は、探索を開始した。

 と言っても、駅構内は駅構内であり、無人で……何より少しの寒気を伴う嫌な雰囲気が漂っている以外は基本的に見るところは少ない。

 駅内部によくあるショップに関しても、特にNPCが居る事もなく。物すら置かれていない為に、ほぼハリボテと代わりないのだ。


「他のプレイヤーは……やっぱり居ないね。インスタンスダンジョンと同じ類なのかなココ」


 インスタンスダンジョン。

 パーティ毎に内部のダンジョンエリアが生成される、出来るだけパーティプレイが推奨される類のものだ。

 生憎と私はソロ。トウキョウにはパーティ募集やそれなりにプレイヤーが居たものの……今の所はゲームの仕様の理解を進めたい時期でもある。

 これから必要が出来たら、自分から良さそうなプレイヤーへと話しかけにいく事にしよう。


「……やっぱりホームの方に行かないとかな?」


 たまに機械の駆動音が聞こえており、昨日戦った猿達が徘徊しているのは分かっているものの……探索をメインに行う為に避けている。というのもだ。


「派生作品とか見てきたけど、駅内部にボタンとかそういうのがあるパターンもあったんだよね」


 猿夢を止める、もしくは破壊して脱出する方法がある作品には、本体である列車ではなく駅の方に非常停止ボタンがあるパターンもあったのだ。

 未だ推定ではあるものの、猿夢に出現したものと似た機械の猿が出てきている現状、一度探してみても損にはならないだろう。

……まぁ、無さそうだけど。

 それなりに……凡そ1時間程度、敵との遭遇を回避しつつ駅構内を探索した結果、それらしいものを発見する事は出来なかった。

 私の探し方が悪いのか、単純に見つけにくい場所にある可能性は否めないが……それにしたって1時間も同じ駅構内を彷徨っていたら飽きも出てくる。


「……本命行こっか!」


 こちらへと向かってくる複数の機械の駆動音を聴きながら、私は駅構内を移動していく。

 ヒントすらないのならば、次に行くべき場所は1つしかない。

 目的の場所へと向かうにつれて、嫌な雰囲気が強くなっていくのを感じながらも私は足を止めず進んで行くと。


「着いたし……あったね」


 辿り着いたのは、駅のホーム。通常ならば電車が来るのを待つ人で溢れているそこには、今は1人も見つける事が出来ず……代わりに、機械の猿が複数徘徊していた。

 そしてそんなホームに停まっている列車が1つ。

……元ネタとかにある通りの見た目なんだねぇ。でもこれで確定かな?

 現実的な駅のホームに似つかわしくない、遊園地などのテーマパークに存在していそうな、猿を模したファンシーな列車。

 その内部には、駅構内では見かける事が出来なかった数多くの人間が生気のない表情で乗車していた。

 それなりに車両数は多く、見えるだけでも十は超えている。


『電車が発車します、電車が発車します。ご乗車の際は走り、他人を押しのけてでもご乗車ください~』

「危険でしょそれは」


 流れ始めたアナウンスについツッコミを入れてしまったものの、ホームで徘徊していた機械の猿達が勢い良く乗車し始めた為、それを見送っていると。


『はい~、そこでお待ちの人間さんも早くお乗りください~。……早く、乗って、ください~!』

「ッ……あれぇ!?身体が勝手に動き始めてるんだけど!?」

『良い子ですね~、そうそうその調子です~早く乗ってくださいね~』


 所謂ムービー処理と言われる類なのだろうか。

 私の身体アバターは勝手に動き出し、それと共に一人称視点から三人称視点へと……少し離れた位置から私の身体が猿の列車へと乗り込んでいくのを見守っているかのようなシーンへと切り替わっていく。


『では、出発します~』


 私を乗せた瞬間、列車の扉は閉まり動き出す。

 初めはゆっくりと、次第に加速し……新幹線も驚くような速度になると同時、列車は紫色の明かりが灯ったトンネルの中へと入っていった。


――――――――――――――――――――


 列車内、何処かの乗務員室の内部にそれは居た。

 乗務員のような服装をした、普通サイズの機械のニホンザル。

 それは近くにあった、車内アナウンス用のマイクに口を近づけると、


『次は~活け造り~活け造りです~』


 愉しそうな声で、嗤いながらそう言った。

 それと共に、車内からは悲鳴が複数上がっていくのを聴いて、再び嗤う。

 この機械のニホンザルは愉しんでいるのだ。人間が死んでいくのを。

 この機械のニホンザルは望んでいるのだ。人間が無抵抗に殺されるのを。


 懐から懐中時計を取り出し、アナウンス用のマイクの電源を落とし、猿は満足したように一息ついて眠りについた。

 その傍にはガラスで覆われた赤色のレバーが設置されているのが目に見えた。


――――――――――――――――――――


「成程、目指す場所は分かったよ……けどさぁ!」


 一人称視点に戻り、私の身体が動かせるようになったのを確認すると共に、その場から動き出す。

 私が無理矢理乗せられた車両は中間辺りであり、どちらが前方か後方かも分からない。

 車内は天井が高く、生気の無い表情を浮かべた人間が大量に乗っているものの……特に動く様子もない為、無視しても良いだろう。問題は、


「もう何体かこっちに来てるんだよね!」


 猿夢よろしく、乗車客をアナウンス通りに活け造りにしているであろう鉈持ちが複数前後の車両から迫ってきているのだ。

 他にも、遠くの方からは小さく聞き覚えのある声が聞こえてきている為、メガホン持ちも居るのだろう。限られた空間内、それも乗客が居る状態で出会ってしまったら……それなりに厄介、というよりもそれだけでピンチに陥る可能性は高い。


「やるしかないよね。こういう時は躊躇わないで行こうか!」


 だが、既に動き出した列車内に居るのだ。本当は列車の姿を見るだけに留めておこうと思っていたものの……ここまで来てしまったら、躊躇わず思い切ってやっていくべきだろう。

 そのためには、


『『活けェ造りィ!』』

「まずは倒してから!」


 既に私の居る車両に同じ方向から入ってきた、2体の鉈持ち。

 他の乗客を斬り裂きながらこちらへと迫って来ているものの、私の元へと辿り着くまでにはそれなりの時間が掛かりそうだった。

 少しでも準備が出来る、と考えれば良いが……それに伴って、血の匂いがダイレクトに私の鼻へと伝わってくるのは頂けない。身体能力が強化されているが故にその辺りも強く感じてしまうのだ。


「そういえば槍って出せるのかな……おぉ?!出せた出せた!曲芸みたいになってるけど!」


 どうせならば、向こうの間合いよりも長いものを。

 そう考え、首元の印から刃物の具現化を行えば……淡い光と共に、私の背丈と同じ程度の長さを持った槍が1本具現化していく。

……これ、槍ってよりは薙刀だね?

 矛先が刃になっているそれを軽く振るい、他の乗客に当たってしまって申し訳なりつつも。気が付いたら近くまで来ていた機械の猿へと向かって真っすぐに構える。

 メイン、サブ共に、γ能力は使わない。……否、今使うよりかは、もう少し面倒な場面や多くの敵が出てきた時に使った方が良いという判断だ。


 機械の猿達が徐々にこちらへと迫ってくるのを見つつ、私はその場から軽く跳躍して。

 他の乗客の頭を足場にしながら、機械の猿達へと向かって逆に接近し、


「やっていこう!」


 先程の具現化と合わせ、ほぼ曲芸師のようになりながらも。

 近くの乗客を魚の開きのようにしていた機械の猿の1体へと薙刀を振るう。

 猿夢、その列車内での戦闘開始だ。

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