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Episode4 - チェンジイクイップメント


【敵性バグを討伐しました】

【ドロップ:都市伝説の欠片×3】


 機械の猿の残骸が光の粒子へと変わっていくのを見つつ、流れたログに目を向ける。

……都市伝説の欠片。これが確か換金とか出来る奴だよね。

 ドロップ品である、都市伝説の欠片は解読屋にて解析、安全化する事でアルバンの強化にも使えるようになるアイテムだ。同時に換金も行える為に、数多くのプレイヤーは敵の倒し方さえ理解したら強化も程々に換金し続ける、なんてサイクルを作るのではないだろうか。

 私もその流れに乗りたいとは思うものの、彼らと私では目的が違う為に諦めざるを得ない。


「本当にお仕事ってのは悲しいものだよねぇ……あれから詳細すら送られてきてないし。今はただゲームの攻略を進めてれば良いっぽいから、余計な事考えなくて良いのは助かるけど」


 兎にも角にも。予想外の連戦にはなってしまったが、自身のアルバンの能力把握は出来た。

……ちょっと疲れたな。予想以上に。

 肉体的な疲れは無い。代わりに精神的な疲れが襲いかかってきたのだ。

 仮想現実、ゲーム内と言えど自身よりも巨大な機械を合計で3体もスクラップにしているのだ。それも、向こうはこちらを殺害しようと動いているのだから……その分、精神は磨耗するだろう。


「一旦、地上に戻ってから……解析頼んで、今日は一旦終わりにしておこうかな」


 周囲を警戒しつつ、私は地上へと戻る為に来た道を引き返す。

 といっても、階段近くで戦闘していた為にそこまで時間は掛からないのだが。



―――――



「えぇーっと……これで今日のプレイ状況の報告書作成終わりっと。実際に現場に出てるわけじゃないけど……久しぶりだなぁこういうの」


 ゲームからログアウトした後。

 私は現在のArban collect Onlineでのプレイ状況を、自身の所属する組織である秘匿事象隠蔽特課へと報告していた。

 相も変わらずゲームをプレイする以外の指示はないものの、これがいつも通り。逆に指示が飛んでこないという事は、順調に仕事が進んでいると考えた方が良いだろう。

……私、今までやってきたのはクリーピーパスタの真偽検証くらいだったんだけどなぁ。

 ネット上の怪談クリーピーパスタ、それらが本当に存在しているのか。しているならば秘匿事象隠蔽特課の実働隊へと蒐集の要請を行うだけの、所謂事務職。それが今、こうして実働隊のような動きをしている事に少しだけ笑ってしまう。


「お偉いさんはこのゲームに何かが絡んでるって考えてるんだろうなぁ」


 今の所、その真偽は私には分からない。当然だ、まだプレイを始めて初日なのだから。

 そんな状況から分かるモノが存在していたら……私が確かめる必要すらない筈だ。

……ネット上だと……うわ、良いな。もう結構稼いでる人も居るんだ!

 ネット上の掲示板にてゲームの情報を漁ってみても、今の所は特におかしい所は見つからない。

 換金によって既に1ヵ月は生活が出来るくらいに稼ぎ切ったと言っている者もいれば、ホラー要素が薄く都市伝説と聞いていたのにガッカリだと言っている者もいる。


「ふふ、まぁ私も明日からはちょっと頑張りますか!仕事だけじゃなくて……お金稼ぎの為にも!」


 仕事は勿論大事だが、明確な内容が無い。

 ならば、自身の趣味……金稼ぎをしながら、このゲームを進めていくのも悪くは無いだろう。

……結構貯まったらオンラインカジノで倍とかに増やそっと!

 報告書を書いていた端末を閉じ、私はベッドに横になって目を瞑る。

 明日からは今日のような様子見ではなく、本格的にゲームの攻略が始まるのだ。疲れは取れる時に取ってしまった方が良いだろう……。


―――――



 翌日。私はゲームにログインすると共に、解読屋へと足を運んだ。


「いらっしゃいませ!こちらは解読屋です!……神酒様ですね。全ての解析が終わっていますが受け取りにしますか?それとも換金にしますか?」

「全部受け取りで」

「畏まりました!」


 解読屋から解析の終わった都市伝説の欠片3つを受け取り、私は店を出る。

……確認はしたい……けど、一旦先に。

 私はそのままの足で、装備屋の方へと向かった。

 前日の初戦闘、アルバンの能力確認を経てログアウト後に考えた事がある。それは、


「私の戦闘スタイルは戦士ってよりは暗殺者寄りなんだよね、これ」


 自身の戦闘スタイルについてだ。

 メインアルバンである【口裂け女】。基本的には全ての能力が真正面から戦う事に特化しているものの、サブアルバンである【メリーさん】と組み合わせるとなると……その使い方は正しくない。

 確かにγ能力である身体能力強化を使える環境であれば、真正面から戦った方が強いものの……それを使うには相手を選ぶ必要があるのだ。

 しかしながら、【メリーさん】の瞬間移動能力はモーションが固定である代わりに、敵に問い掛ける必要はない。言ってしまえば小声で呟いたとしても発動してくれるのだ。


「出来れば奇襲特化、それか……急所への攻撃が高くなる類の装備があったらそれにしたいな」


 現状の装備屋に売っている物は、最初に見た通り初期装備に毛が生えた程度のモノ。

 だが、それゆえにスタイルがある程度固まっているならば、毛が生えた程度でも十二分に有用ではあるのだ。


「……生産系コンテンツってあるのかな、このゲーム。今の所その手のコンテンツにアクセスする方法発見してないけど」


 MMOならばあっておかしくない要素であり、ものによってはプレイヤーが生産した装備等が最強である事もなくはない。Arban collect Onlineがどの系譜に寄っているかはまだ分からないものの……それでも、あるかないかによっては話が変わってくるだろう。

……お、あったあった。

 そんな事を考えながら見ていると。少しだけ値が張るものの、お目当てのモノを発見する事が出来た。


「未発見時ダメージ上昇と、クリティカルダメージ上昇、後は筋力上昇か……どれにしようかな」


 見つけたものは、それぞれに特化しているものの……序盤らしく上昇量自体は控えめなもの。

 一式装備すればそれなりにはなるものの、今後他のサブアルバンを獲得する事を考えると、


「……うん。クリティカルダメージかな。多分一番ロマンもあるし私に合ってそう。店員さーん」

「いらっしゃいませ!装備屋です!ご購入ですか?」

「うん。とりあえずこのクリティカルダメージの奴を一式貰っていいかな?」

「畏まりました!解析した都市伝説の欠片でも支払いが可能ですが……どうなさいますか?」

「……ん、今回は通貨にしとこうかな。ありがとう」


……へぇ、通貨としても使えるんだ。コレ。

 思わぬ情報に少しだけ笑みを浮かべつつ。私は買った一式をその場で装備する。

 元は布の服を着ていた姿から、日本の警察のような、紺色の制服へと切り替わると共に、私の口元にはマスクのような白いスカーフが、右手には親指と小指だけが露出するデザインのグローブが装備された。


「ねぇ、店員さん。これどういうデザインなの?プレビュー画面で見た時はこんな感じじゃなかったんだけど」

「それに関しては、お客様のアルバンによって装備の見た目に影響が出るのです。お客様ならば……そうですね、元になっているアルバンに合わせてスカーフとグローブが追加で出現した形となっています」

「へぇ……じゃあ、ある意味これってユニークなんだ!」

「そうなりますね」


 口裂け女の噂に欠かせない、マスクをスカーフと言う形で。

 そしてメリーさんの噂に欠かせない電話の要素は、能力にも合わせグローブという形で出現したのだろう。

……これから他のアルバンを手に入れる度に見た目も変わっていくって考えると……中盤とか終盤とかは凄い事になってそうだね。

 今後どのようなアルバンを手に入れるかは分からないが、それでも見た目に影響が出るのは面白い。そこから何を持っているか推測されるかもしれないが、それが嫌ならば隠すように更に上から装備を着ければいいのだから問題はないだろう。


「よっし、色々ありがとう!」

「いえいえ、またのお越しをお待ちしております」


 装備屋から出た後。私は道具屋へと足を運び、消耗品……回復用のポーションや、煙玉という自分と相手両方の視界を塞ぐ白煙を発生させるアイテムを買った後。

 そのままの足で地下へと向かう事にした。

 猿夢の終わらせ方については未だ自分の中での解答は出ていないものの……ログアウトしてから様々な文献や、自身の仕事上閲覧できる、それに類する怪異や都市伝説系の情報を見漁って来た為にある程度は似た事例は把握してきている。


「じゃ、今回の目標は……推定猿夢の本体を見る所まで!いってみようやってみよう!」


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