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五話 パスティーチェ! ③

 明くる日の昼過ぎ。マカローニ・マカ・ケンチーズの画廊へと一通の手紙が届いた。

「ラザーニャから?全然帰ってこないと思ったら手紙なんて殊勝な真似を…。おーい皆、ラザーニャから手紙が届いたぞ」

「それは本当かい?」「そいやアイツどこに居るの?」「親父ー、ラザーニャからの手紙だって」

 マカローニの画廊兼住居区画には彼の拾い子たちが生活しており、その一人であるラザーニャからの手紙とあって大騒ぎをしていた。

「聞こえとるわ。煩くすると猫ちゃんたちが嫌がってしまうだろうに」

 住居区画から寝間着のような恰好をし、虎柄で鍵尻尾の猫を抱きかかえた老人が現れては、ラザーニャからの手紙を読むべく椅子に腰掛けて封を開けさせる。

「春頃に姿を晦ましたと思ったら手紙とは、あの馬鹿娘はどこをほっつき歩いているだや?えぇと何々、『未だ生きてるか親父?実は親父に会わせたい人がいるから、明後日に…到着日の翌日に家に帰るわ。そんじゃ楽しみにしててよ』。……。」

「まあ、ラザーニャったら男を捕まえてきたわ」「アイツに男が…?いやぁ、まあ顔はいいか」「過去を考えなければ性格も悪か無いんだよな、手癖は悪いけど」「「手癖がねぇ…」」「あっ、男もどっかから盗んできたとか?」「「……。」」

 どうにも信頼の篤い女であるラザーニャは、勘違いをしたマカローニの子らから複雑そうな表情を向けられていく。

「トネッテ兄も結婚したし、年齢的に考えれば不思議でもないな」

「なんで私を引き合いに出すのさ…」

 マカローニの子らは年齢様々、上は三〇歳で下は一二歳、身寄りのない子供を引き取っては画廊の下働きとして務めさせ、衣食住を提供している。…いや拾ってきたのは人だけでなく猫もであり、そこら辺で雑に寛いでいたりとかなり賑やかな場所だ。

「……、まあ先ずトネッテが様子を伺い、お前のお眼鏡に敵わないのなら追い払っとくれ」

「了解。とりあえずは今日のことだよ。そろそろ昼後に画廊を開く時間だから準備をして」

「「はーい!」」

 マカローニの画廊は今日も賑やか頻りなのである。


―――


「大丈夫かしら?体毛とか髪の毛とかハネてない?」

「だ、大丈夫ですよお嬢様」

「はい、全く問題ありませんよチマ様」

 御一行を乗せた蒸気自動車がマカローニのもとへ向かう日、チマは朝から容姿や衣服が乱れていないことを頻りに確認し、そわそわと落ち着きなく過ごしていた。

「マカローニならチマ様を見たら一目惚れですよ、絶対。何に誓っても保証できるくらいに」

「それならいいのだけど」

 チマはマカローニの絵画の大愛好家ファンであり、憧れの画匠に会うために態々遊学という建前でパスティーチェへ旅行に来ているのだ。事前にラザーニャから聞いた話しでは、年老いていることもあり体調を崩す頻度も高く、『ドゥルッチェ王国に御座おわす、琥珀こはくの至宝たる夜眼族やがんぞくの姫を一目見たかった』とのこと。

「ふぅ…、それにしても蒸気自動車で二時間って、結構近いところに住んでいるのね」

「感覚が狂い始めていますね…、車で二時間って結構な距離ですよ」

「首都ホークー内なら近いものよ、たぶん。はぁぁ、もう今から楽しみでしょうがないわ…」

 まるで恋する乙女のような立ち居振る舞いだが、チマに恋するシェオは自然と嫉妬心が沸き起こらず、寧ろ舞い上がっている彼女が向こう側の対応で落ち込んだりしないかどうかを不安がっていた。

(猫っぽい種族…と本人にいうと嫌がりますが、実際猫っぽい種族の夜眼族。ですがそれは見た目だけで本質的には人種族、大丈夫でしょうか…。こうして気分が持ち上がっている時に落ちるのが、一番堪えますからね…)

 チマが落ちこんでいる姿を幾度も見てきたシェオは、その都度、心を痛めてきたわけで。

 杞憂になることを祈りつつ、若しもの時の言葉を多少用意していくのであった。


 えっちらほっちら進んだ蒸気自動車は一行を乗せてマカローニの画廊へと到着。駐車場に停めてみれば他に来客はいないようで不思議がる。

「今日は休館日なのですよ。そちらの方が落ち着いてお会いできると思い、日時を指定させていただきました」

「なるほど」

「それじゃ正面口は閉まっていますので、こちらの通用口からどうぞ」

 関係者のみに使用の許された通用口を進んでいけば、庭には何匹かの猫が昼寝をしたり遊んだりしており、チマの姿を見つけては興味深そうに歩み寄ってくる。

「あれってメロちゃん!?本物よ本物!」

「そ、そうなんですね」

 チマとそれ以外では温度差が激しく、興奮しきった彼女は猫を驚かせないように深呼吸をして、膝を丸め屈んでは手を差し出してみる。…すると猫たちはチマの指先に鼻を向けては匂いを確かめ、コツンと鼻を付けてから、のんびりとそこいらで昼寝や毛繕いを再開していった。とりあえず受け入れてもらえたのだろう。

 わきわきと指を動かし撫で回したい欲を露わにするも、先ずはご挨拶をせねばと思い出し、ゆったりとした動きで立ち上がって住居へと向かっていった。

「親父ー、みんなー、帰ったよー!」

 元気よく帰宅の報告を行えば、住居内は非常に賑やかしくなっていき、一人の男が扉から顔を出しチマと視線が合う。

「……。」

「……。えっと」

「親父ぃ!大変だ!ラザーニャが凄いの連れてきた!昨日の話し合いとか全部どうでも良くなったから!」

 トネッテの絶叫めいた声にマカローニの子らが次々と顔を見せては、彼と同じ反応をし、最後にマカローニが顔を出し。

「ネコチャン!?」

「あっはい、猫ちゃんよ」

 呆然としたチマは意味不明な自己紹介をして、控えめに一礼をしたのである。

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