船に揺られて二日半、北方九金貨連合国…いや
「ご乗船ありがとうございました、お忘れ物の無きよう出立をお願い申し上げます。若しお忘れ物、紛失物が御座いましたら、本船の出港日である二日後の朝までにご来訪ください。それでは改めまして、本船へのご乗船誠にありがとうございました」
チマ一行は顔を青くしたリンとシェオを連れて、二日半を過ごした船を降りて入国管理局へと向かっていく。
「一生分吐きました……」
「はい……」
「…残念ながら半生なのは確定よ」
「「…。」」
チマの指摘に二人は遠くを見つめて歩みを進める。
「大所帯だし少しばかり待ってから入国検査に向かうとしましょ。二人も少し陸で休みたいでしょ?」
「お気遣い有難うございます。休憩をいただけるのなら、是非にも」
「管理局の
「…ども」
一応のこと登録だけ済ませておこうとチマとゼラで書類を手に受付へと向かえば、チマの姿を見た入国管理局局員がぞろぞろと姿を現して、逸し乱れぬ慇懃な一礼を披露した。
「「お待ちしておりました、ドゥルッチェの姫君」」
「出迎えありがとうございます。ですが連れに動揺病で体調を崩している者がおりまして、先ずは書類の提出だけを行おうと思っていたのですが」
「では書類のみ受け取り、審査を済ませますので」
「おねがいしますね皆様」
入国許可申請書類や出港前にチマに対して行われた健康診断と予防接種の証明を手渡しては局員へ握手を求めると、相好を崩した局員は握手に応じて一礼の後に下がっていく。
種族的なものなのか、他の面々と比べて異様に具な検査が行われた。体毛や各所に潜む害虫、寄生虫の調査。猫や犬に感染する可能性のある伝染病の検査に、パスティーチャ側が検査員を派遣してまで事細かに調べ上げいていたのだ。
(パスティーチェに於いて夜眼族はやや特別な立ち位置とは学んでいたけど、随分な歓迎されようね)
束柱獣国パスティーチェ、二つの大島からなるこの国はディナート帝国時代はパスティーチェ
そしてディナート帝国内乱にて皇女の一人が亡命、彼女を擁立する形でパスティーチェ辺境伯領が束柱獣国パスティーチェを建国、帝国崩壊から今の今まで国威を保ち続けている。
ちなみにNCUは九国家中七国家が王族を擁しているが、彼らが直接的に政治に関わることはなく、全ての国家が選挙議会制となっている。そして各元首によってNCUの舵取りが行われているのだ。
では「どうして夜眼族が」という話しなのだが、時は四〇〇年程遡り当時のパスティーチェに一人の夜眼族の少年が漂流したことに始まる。少年の名はミタラ、彼本人が多く語ることはなかったが、流れ着いた時に足枷をはめられていた事から奴隷の身分にあったと考察がされていた。
当時既に奴隷制度が廃止され、所有と売買が禁止されていたこともあり、流れ着いたミターラは当時の入国管理局へ保護後、東大陸公用語を学んで入国管理局の下働きとして働くこととなる。見慣れない種族の子供が働いているともなれば、次第に話題を集めていくことになるのだが、目をつけたのがパスティーチェの王女殿下。大変な猫好きであった彼女は何度も彼の許へ足を運び、何度も交渉して自身の侍従として引き抜くことに成功。異例の大出世だ。
(そこから数十年、愛人だの何だの言われていたようだけど、結局女王となった彼女が夜眼族の子を孕むことはなくて、彼女が没するまで隣で補佐をし彼女の没後は彼も後を追うように老衰で亡くなった。…それ故にパスティーチェだと猫は忠義と潔白の象徴なのよねぇ、印象を崩さないように立ち回らないとけないけど…、スキル無しな私でも大丈夫かしら)
一抹の不安を抱えてチマはリンたちの許へと戻る。
「いやぁ、陸は良いですね~!」
「ええ、ええ、本当に!!」
「だいぶ落ち着いたわね」
「船を降りればこんなもんですよ」
「もう少ししたら入国審査と検査をして宿を取りましょ」
「はーい」
「入国書類の一式は受け取っており及び荷物の検査は既に終えてあり、問題が無いことを確かめました。入国目的は旅行と遊学でお間違いありませんか?」
「仰有る通り、間違いありませんわ」
「では問題ありません。次いで身体検査を行いますが、不都合など申告いただければ一部の譲歩ができます」
「特に無いわね、皆は?」
他の面々も問題なし、チマにはゼラが同行しつつ個室へと足を運び、身体的な特徴の精査を行う。
「身長は耳先までで一四六センチ、尾長は四五センチ、体重は―――。体毛、瞳の色も問題ありません。ご協力有難うございましたっ!」
「検査ご苦労さまです」
女性局員へ手を差し出し握手を求めれば、此方も微笑みを露わに握手を返される。パスティーチェでは抱擁や口付けでの交流が盛んなのだが、流石に初対面にそこまでは求められない。故に出会ったばかりの相手へは握手をして交流する。
とはいえ『異国異種族異文化の相手はそういった交流をするとは限らない』と局員は知っているため、無闇矢鱈に求めない。そこに対してチマが先手を打って交流を求めて暮れたことを喜び、快く握手を返していくのだ。
「それでは良き滞在を、アゲセンベの姫殿下」
「ふふっ、ドゥルッチェの公爵令嬢に殿下は不要ですよ、では」
チマ一行は荷物を受け取りパスティーチェへと入国した。