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三話 狩猟本能! 1

 さて、時は移ろい映日果月9月。王立第一高等教育学校は秋季休暇となって、寮暮らしだった生徒たちは賑やかしく方々へと散っていく。

 本来であれば帰省して、長閑のどかな田舎で休暇を過ごす予定だったリンは、荷物を纏めてはシェオの運転する車輌へと詰め込み、アゲセンベ家の屋敷へと向かっていく。

「ご両親やブルード男爵からのお咎め等は大丈夫でしたか?」

「全然大丈夫でした。レィエ宰相さいしょうやチマ様からの信頼があついと思ってもらえているようで、使える頭を全力で使ってこいと」

「ご家族からの信頼も篤いのですね」

「田舎娘が次席入学ですから、そりゃもう期待の新星扱い。チマ様からも期待され、…もう成績を落とすことはできなくなってしまいました…」

「はははっ、大変ですね」

「笑い事じゃないですよ〜」

「チマ様を超えることはできそうですか?」

「出来ると思います?厳しいの一言以外に出てくるものはありませんよ」

(世間一般に言われているより入ること自体は難しくなかった。けれど、入学してからでてきた、ゲームでは得られなかった知識の数々を身につけて試験に活かすのは中々難易度が高いんだよね。特に前世とは大きく異なる歴史分野に、来年度以降に学ぶであろう蒸機学等は苦戦必至、…超えることはできるのかな)

 来年のことは来年考えようと、頭の抽斗ひきだししまいこんで、話題を変えるべくリンは口を開く。

「チマ様に好きですって告白しないんですか?」

「――――!?!?」

「おわわわっ!?」

 急な質問にシェオは運転を誤り、学校の周囲へ張り巡らされた柵へと車を突っ込ませそうになりながら、なんとか持ち堪えて軌道に戻す。

「な、何を急に!?」

「いやぁ、シェオさんがチマ様を好きなの、チマ様本人くらいしか知らない人いないじゃないですか〜」

「え゛。そんなに分かりやすいですか?」

「学校では上手く隠せてますけど、直接お二人と接すれば数日で気がつくかと」

「う…」

「ご婚約したみたいですけど、チマ様ってご自身への好意と慕情にはとことん鈍感じゃないですか。すれ違う前に伝えた方がいいですよ」

「そ、そうですよね。…ただ、それ以前にお伝えしないといけないこともありまして」

「…というと?」

「他言無用でお願いしますね」

誓跪けいきしてもいいですよ」

「そこまでは大丈夫です、信頼していますので。…旦那様にもお伝えできていないのですが、私の父親と名乗る男が現れ、どうにも派閥が反宰相レィエ派閥に属する貴族なのです。……お嬢様とのことは漏れていないはずなので、爵士しゃくしの地位を取得したことで旦那様の懐にいる私に利用価値が有ると目を付けたのでしょうが、…悩みの種となってしまいました…」

(バァニー・キィスが動いたと。シェオルートは結構親子の彼是あって、最終的に復讐を果たすんだけど)

「その男性のことはどう思っているんですか?」

「どう、と言われましても。母と愛し合っていたというには、母は父親と名乗る男には警戒しろと生前に言ってましたし、時期が時期ですので胡散臭いとしか」

「ふむ、言い方がアレになってしまうのですが、シェオさんお母さんを捨てた男、ということで憎んでいたりとかは…?」

「そういう感情は特に。今思うと貧乏暮らしでも楽しそうな母だったので」

(レィエ宰相が市井へのテコ入れをして国勢を盛り上げた影響かな。ゲームでは結構凄惨な生活を強いられてたはずだけど…、…孤児院生活も楽しかったなんて言ってるもんね。今のシェオさんは…困っているだけで、復讐に駆られているような感じはないと思って良さそう。なら)

「きっとレィエ宰相はその情報を仕入れていると思いますよ。直接やり取りすることもありますから理解してきましたが、独特の情報網を持っているようなので」

「…、」

「だから一度相談してみてはいかがでしょうか?既に解決策を持っているかもしれません」

(私もレィエ宰相も、生まれる前からシェオがバァニー・キィスとの血縁があることを知ってるし。手元に引き入れた時点で準備は万端でしょ)

「そう、ですね。ありがとうございます、リン様。旦那様と相談してみることにします」

「それで〜、何時チマ様に想いを伝えるんですか?」

「こ、婚約の発表までには…」

「楽しみにしてますね、二人が相思相愛になるのを」

「〜〜〜!!」

 シェオは顔を真っ赤にする、それは冬の林檎のように。

(まあチマ様の方も脈なしどころか、好意を持っているんだろうけど。…、好意よりもそれ以上に大きな感情を持ってて気がついていないパターンだよね、信頼とか)

「チマ様のどこが好きなんですか?」

「結構ぐいぐいと来ますね…」

「こういう機会じゃないとシェオさんと恋バナなんてできないんで~」

「はぁ…、不純と取られかねませんが、容姿に一目惚れしました。それからアゲセンベ家の同僚たちにお嬢様の境遇を聞き、スキルを得るための稽古事や鍛錬、挑戦を共にしている内に内面も、といったところです」

「一目惚れで数年慕い続け結ばれるなんて、恋物語ラヴロマンスじゃないですかぁ~」

 きゃーきゃー黄色い声を上げるリンに、シェオはやや引きつつ少しばかり遠い目をして蒸気自動車を走らせる。

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