ダン、カチャン。ダン、カチャン。ゼラが
チマから遠く離れてしまった現状、力が制御し難い状況ではあるのだが、チマを救出したい一心で身体を最善の状態で扱えているようで、ゼラの足を引っ張ること無く対処出来ている。
「…、あちらです」
「っぼ、僕も同じ方向から」
「。」
シェオとビャスが何故にチマの位置を認識できているか、なんてことをゼラは気にする風もなく、「従者の二人がそういうのなら」と同行していく。
「っ。」
何かしらの音に気がついたゼラは進もうとする二人を制止し、発生源へと視線を向けては魔法銃を構えて待ち伏せる。
「やっぱり!ビャスさん、シェオさん、ジェローズ騎士!」
「「リン様!?」」
リンだと分かればゼラは魔法銃を下ろし、彼女の周囲にチマがいるかどうかを確認していくがいないと理解すれば、頭頂部で夜眼族の耳を表す手振りをして所在を問うた。
「チマ様は、…私を庇って川に落ちてしまい…、未だ(生きていると思うのですが)…、えっとこの雨では視界が優れず、捜索に協力していただけませんか!?」
「我々もお嬢様の救出に来ました。なんとなくですが所在は分かっているので共に向かいましょう!」
「場所が、分かるのですか?」
「はい。感覚が正しければ」「っす、スキルの影響かと」
(『
「じゃあ急ぎましょう!」
といったところでショウビが姿を現して、四人によって塵芥へ変えられて残響炭が転がるのみとなった。
―――
「う、ここは…」
「起きましたのね…、良い機会ですし休憩しましょう」
意識のないチマを背負って移動していたナツとコンは、雨の当たらない場所を見つけてはチマを下ろして二人も腰を下ろす。
「トゥルト・ナツとアーロゥス・コン?痛たた、えっと何がどうなって」
「聞きたいのはこちらなのですが…、アゲセンベ・チマを拾った状況をお伝えしますわ。―――」
「周囲の者を大切にしたいことは、否が応でも伝わってくるのだけど…貴女自身が居なくなっては意味がありませんのよ?」
「分かっているわ。でも、見捨てることなんて出来なかったのよ、…無事でいてくれるといいのだけど…」
「はぁ…」
「二人もありがとう…いえ、ありがとうございます、トゥルト・ナツさんアーロゥス・コンさん。お二人のお陰で一命を取り留めることが出来ました。この恩は王都に帰り次第お返しいたしますので」
「その件ですが、今回貴女を救助したことは公にしてほしくありませんの」
「というと?」
「アゲセンベの姫に大恩を売ったとあれば、私のお父様が出張ってきます。それはアゲセンベ・レィエの娘である貴女の望むことではありませんよね?」
「そうだけれど」
「その代わり、私たちは何も求めない代わりに、宿に戻った後にデュロ殿下へのお目通りをお願いしますわ。殿下の大切にしている貴女を救ったのだから、お褒めの言葉の一つでも頂きたくって」
「もっと大きな――」
「止めてくださる?私はデュロ殿下に負い目を感じて頂きたくはありませんの。…こんなこと貴女の前で言いたくありませんが、私は私の実力と魅力で殿下に振り向いてもらいたいのですわ」
チマが目を瞬かせていれば。
「私はこういうところに信を寄せて派閥にいるのです」
心の底から楽しそうにコンは語り、ナツは自信満々な表情を露わにした。
「分かったわ。頑張ってね、ナツ」
「…。」
応援されるのは複雑極まりないのだが、チマの毒気の無さは既に知るところ。調子が狂うと溜息を吐き出す。
「それじゃ戻りましょ――、痛ったぁい」
「馬鹿!足に裂傷がありますのよ!?歩けるわけないじゃないですか!?」
「聞いてないわよぉ…」
「あれ?」
「言い忘れてましたね」
「全身が痛いから気が付かなかったけど…、意識したら足が…」
涙目に足を抱えたチマは酷く弱々しく、それこそ年相応の少女の姿であり、彼女に対し挑発目的で大切た家族や従者、友人を馬鹿にしてきた事に対して、小さな罪悪感を感じずにはいられなかった。
「背負ってあげますから、しっかりとしがみついて下さい」
「――、あのーナツ様」
「どうしましたの?」
「それどころじゃなくなってしまいました…。茨の魔物、その
「仕方ありませんわ、迎え打ちましょう。来てくださる、ドルェッジ」
「アゲセンベ・チマ様は身体を縮こめて隠れていてください。お出ませ、ルシュシュ」
「二人に任せてなんて…、」
「理解できているのではありませんか?足の使えない貴女が如何に無力で、足手纏だということを」
「…。」
「お出でなさいな、スーパチェラ。お守りとしてサーベルを貸出しますわ、戦闘が終わるまではそれを抱いて震えていてくださいまし」
言葉とは裏腹に、幼子を落ち着かせるような声色と表情をしたナツは、チマへとサーベルを手渡してショウビへと身体を向けた。
相手は今までのショウビとは異なり下半身が四足へと変わって、手には槍状の茨を携えておる、派典と呼ばれる亜種か上位種分類。仮に上位種であれば、二人程度では敵わないのだが…。
「なんでしたっけ?…シノビ、として扱ってあげますから、コンの力を全部渡しに貸してくださいな」
「お任せを。時間は一〇分、それ以降は効力が下がっていきますので」
「問題ないわ。
「我が主たるナツ様へ力の助力を、キョウカイ」
「先ずは一本!―――
すれ違い様に四つ足の一本を切り落とそうと力を込めるも、思った以上の強度に押し返されそうになるのだが、そんなことでは若き剣聖を止めることは出来ない。見事に一本を斬り落としては距離を置く可く、足を動かしてから踵を返す。
(やはり夜眼剣術は夜眼族の特権ですわね。身体の可動域が異なり、出来の悪い真似事程度に収まってしまいますわ…)
息を吐き出し次の手を模索するのだが、瞬く間に茨は足を再構成しては、身体をナツへと向けて槍の刺突を繰り返す。高速の刺突連撃は難なく斬り落とし防ぎ切るのだが、僅かずつ疲労は蓄積していき防戦に注力している間はその場を逃げることは敵わないわけで。ナツは危機感を覚え始めていた。
(格が違いますわね。この間にアゲセンベ・チマをコンに頼んで逃がすことも無理そうですし、)
心の臓腑目掛けて進み来る槍の一撃を、ナツの持てる全力で弾き飛ばし相手の身体を足場に巨体へと登っては、頭部に当たる茨を一刀両断、斬り落としてはショウビを蹴飛ばし退こうとした。…のだが。
「茨が!?くっ、頭の形状をしていただけで弱点ではありませんの!?」
ナツの足には茨が巻き付き、体内へと引きずり込もうと巻き取られていくではないか。切り落とそうと試みるも無理な体勢と、足への痛みがそれを阻害し彼女は焦っていく。
「っうぎぃ!足なんて、―――」
痛みに呻く声を耳に、視線を向けてみればサーベルを担いだチマが立ち上がっており、「あぁ、やっぱり馬鹿なのですわ」とナツは苦笑いする。
「一本動けば十分なのよ!!今よ!」
「はいぃ!!」
片足で小さく跳び上がったチマ目掛けてコンが杖を全力で振るい、
先ずは勢いのまま片腕を斬り落としては、空いていた手で棘ごと茨を握りしめては身体の向きを調整し、片腕片足でナツの許へとたどり着いては足に絡まる茨を切断する。
「馬鹿者ですわ、貴女」
「友達は、見捨てられないし、諦められない性質なのよ」
「誰が友達ですか!?」
腕を掴み無理やり引きずり出しては、激痛の走る足を含めた両足でショウビを蹴り、二人は石の転がる河畔を転がっていく。
「痛、たい。もうっ…ぐす」
「当たり前ですわ…、本当に馬鹿者ですわよ…」
あまりの痛みに半分泣き出しているチマだが、絶望的な状況でも諦めることはせず敵を睨めつけ打開策を探っていれば。
ダン、と発砲音は一帯に響き渡り、ショウビの内側から小爆発が発生して身体が崩れていく。
「お嬢様から離れろ
聞き慣れた、心の底から安心する声を耳にすれば、風の槍が相手へと無数に突き刺さりて爆発、剣を構えた少年と棍棒を携えた少女が二人掛かりで派典ショウビへと止めを刺したのである。
「あぁ、みんな…」
安心し切ったチマは痛みからか疲労からか白目をむいて崩れ落ち、ナツが大急ぎで抱きかかえたのである。