時は少し遡り、自然公園を穢遺地が覆い始めた頃。
ナツは異変に一早く気が付き、現在地からデュロがいるであろう場所を割り出していた。
「ありがとうございます、コン。貴女も撤退してくれて構いませんよ」
「あの進行速度ですと…ナツ様から離れるのは得策ではありません。それに私はナツ様の侍女ですので」
「忠誠心に篤いのは嬉しいのですが、雇った覚えはありませんわ。まあでも私が王后となった際には侍女として雇ってあげましょう」
「それならシノビがいいです。北方では主に仕える従者のことを、シノビと呼ぶみたいでして」
「名称なんてなんですけれども…。殿下を救出すべく現地へ向かいますわ」
「はい、頑張りましょう」
「来てくださる、ドルェッジ」
剣を
「
「わ、分かってますわ!ちょっと武勲を上げて、殿下に良いところを見せようと思っただけなのに」
運動場へと向かって進行していた二人は道中でショウビと出会い、最初こそ敵と認識されていない風であったのだが、ある時を境に二人を目掛けて攻撃を行い始めたのだ。
ナツは現在レベル38、チマと模擬戦闘をした頃と比べてレベルが2も上がっているのだが、相手は推奨レベル60以上と大きな差がある。国が指し示す推奨レベルとは、その段階で取得してるスキルポイントの
仮にナツが戦闘スキルにのみ振り分けていても、六分で36となり
「ナツ様、あの花弁から発せられる花粉だか霧だかは毒性を帯びているみたいです!毒察知が反応しました!」
「あの強さで毒まで!?もう!!」
(これら相手にに守ってばかりの後手は不利。…というより斬っても斬っても身体を繋ぎ合わせて再生していますから、ジリ貧になるのは火を見るより明らかですわ。ならば短期決戦、癪に障りますが――)
ナツは姿勢を低く屈めてから剣を背負うように構えをする、そうチマの使っていた夜眼剣術に近い体勢のものを。
じゃり、と地面を
「よしっ!コン、さっさと撤退しましょう!此処は分が悪くってよ」
「はい、ナツ様。正直、この魔物相手は厳しいものがあります」
「スキルやレベルを過信しないようにしていましたけど、逸る気持ちを抑えられない辺り…私も未熟ですわね」
「ご自身で気がつけたのなら大きな一歩ですよ」
「そうかしらね」
二人は雨に濡れながら泥濘に足を取られないよう、宿へと向かっていけば川へと当たり、コンが緊迫した声を上げた。
「っ?!ナツ様!」
「魔物でも前方に現れましたの?」
「違います、川岸にアゲセンベ・チマ様が」
「アゲセンベ・チマが?彼女はデュロ殿下と行動中のはずですけれど、…近くに殿下がいたりは?」
「単身です。川から打ち上がった状態で、意識があるかも不明、かと」
「それを先に仰ってくださいな!?どこにいますの!?」
「雨で視界が悪いですが、あの辺りに。この国に
「救出に向かいます。彼女が危機に瀕しているのであれば、助けることで貸しが作れますし、殿下からの評価が上がるでしょうから!」
「私も同行します。川へは若干の高低差がありますので、」
「私は此処から斜面を下っておりれますわ。コンは迂回してらっしゃい、魔物には気をつけるようにね」
「畏まりました」
返答を聞いたナツは勢いよく飛び降りて、剣を斜面に突き刺して速度を殺していき、ある程度の着地点を定めては斜面を蹴り飛ばし、対岸のチマ近くへと着地を決めた。
「アゲセンベ・チマ!生きていまして?!」
(意識はありませんが、呼吸は…あるから、水は飲んでいないということでしょうか。脈拍もあり、体温は…夜眼族の体温なんてわかりませんが、意識のないこの状況下で、濡れたままで良い
半身が川に浸かった状態だったチマを引き上げ、肩に担いでみれば体毛が水を吸っており異様に重い。
身体能力強化の影響もあって、増した体重そのものは問題ないのだが、足元は濡れた石の転がる川岸。体勢を崩してチマ諸共に川へ落ちないよう細心の注意を払って、木の根元へと彼女を降ろす。
(外傷は…、
裂傷を塞ぐ可く手巾を取り出し止血を行い、上着を脱いでチマへと着せていく。
(これが限界ですわね。コンが合流次第、アゲセンベ・チマを担いで川を下り、プーレット湖を回りながら宿へと戻りましょう。……問題はその後、…後で対処するほかありませんわ)
「おまたせしましたナツ様。アゲセンベ・チマ様は如何です?」
「一命は取り留めているみたいだけど意識は不明。分かりやすい裂傷は止血し、私の上着で体温の低下を抑えていますが…」
「この雨の中、魔物が現れる状態での運搬は厳しいものがありますね…」
「ええ。近くにアゲセンベ派閥の者は見えない?」
「今のところは…」
「なら急いで宿へと向かいましょう。この女が死んだところで、私が有利になることなんてありませんし、命さえ取り留めてくれればかなりの功績よ」
「わかりました。では私が先導いたしますので」
「お願いします、コン」