「我、
「
「下手に動いては」
焦点の合っていない虚ろな瞳の
「外より来たりし者によって歪められた道を元に戻すには、同族への配慮などしている場合ではない」
「如何にも」
「繰り返される分岐点、その錨とした琥珀の夜眼を抜き上げることは、来たるべき、
「我の早き目覚めは、分裂という
「ああ、感じている」
「忌まわしき
「あぁ、忌まわしい。嘆かわしい」
「盲愛は『
「我々を討ち滅ぼしたあの瞬間のように」
「
「あの瞬間を忘れることが出来ようか?」
「否」
「否」
「ならば」「我々が」「先手を打つべきだ」
不審な笹耳族が杖で地面を突けば、そこを中心に数メートルが色を失い、白灰色へと変わっていった。
―――
二日目は朝から昼前まで、チマたちの班は運動場で身体を動かして遊ぶ予定となっていて、昼後からは生徒が全員集まっての巨大パンケーキ作りと待っている。
澄み渡った空には一点の曇りもなく、絶好の天気と言えよう。
そんな朝方。昨日に散々
「朝食までの時間は十分ありますが、チマ様のご支度を考えるとそろそろ起こさないと
「そう、かもしれませんね。昨晩も大変でしたから」
湯浴みを終え濡れたチマの体毛を、最初は彼女自身がのんびり時間を掛けて拭き取り、温風機で乾燥させようとしていたのだが、あまりに手際が悪く三人が世話を焼くに至って、最終的には女性教師まで加わってお世話をされていた。
「来年からは、アゲセンベ家から使用人の手配をお願いしないといけませんね…」
「夜眼族ってあんまり湯浴みを好まない性質らしいのですが、純人族の国で暮らしている影響なのか、チマ様って毎日湯浴みをしているみたいなんですよ」
「綺麗好きなのは好感を持てますが、大変そうですよね」
使用人らの苦労を悟った三人は、意を決してチマを起床に誘う。
「チマ様〜、朝ですよ」
身体をそっと揺らしてみれば、口がクァっと開かれて欠伸が吐き出されていき、寝ぼけ眼で三人へ視線を向けてから掛布へ潜っていく。
「…今日は早いわねシェオ、……もうちょっとだけ寝るから。…、櫛と
「「「…。」」」
すぅ、と寝息が聞こえた三人は顔を見合わせてから、掛布を引っ剥がす。
「朝ですチマ様!」「起きてくださーい」「今は夏の野営会中なんで、支度を手伝ってくれる従者さんはいないんすよ!」
「わぁあ!何!?何事!?」
心を鬼にしてでも起こさないと拙いと警鐘が鳴らされたため、全力でチマを起こしては身支度を行っていく。
髪を
「チマ様ってお化粧は出来ないのですね」
「夜眼族用の化粧が有るとはお母様に聞いたことがあるけれど、山脈を越えた向こう側でしょ、手に入らないのよね」
「手に入ったらお化粧してみたいですか?」
「どうかしら。お母様が『手間がなくて楽々』なんて言うくらいだから、一回したら二回目はないかもしれないわ。ドゥルッチェに住まう以上はね!」
正直、チマが化粧をしていようがしていまいが、純人族からすれば大差なく、本人もそれを理解している為に乗り気はない様子。
同種族の異国人なら
「こんなところかしら。何処かハネたりしていない?」
「問題ありませんよ」
「チマ様って毎朝こんなに毛繕いしているんすか?」
「そうよ。毎日しないと毛玉ができちゃうし、通気性が悪くなって皮膚病になったり、良いことなんて何にもないの。うちで飼ってるマカロと一緒よ」
「猫と一緒で良いんだ…」という言葉は飲み込み、夜眼族は夜眼族で大変なのだと納得してから、チマの着替えを手伝っていく。
「さっき名前の出てきたマカロさんって、そのぉ…由来は画家のマカローニですか?」
「ええ、正解。メレもマカローニの絵画が好きだったり?」
「私はあんまり詳しくないのですが、父様が蒐集していまして」
「へぇー、マシュマーロン伯が」
「多分ですけど、チマ様がマシュマーロン領へとお越しになる際は、大手を振って勇みお会いになりたいと仰るかと」
「私は猫じゃないのだけどね。まあいいわ、メレの顔を立てて会ってあげるわよ。東部沿岸貴族ってお父様を懇意にしてくれてるらしいし」
「ありがとうございますぅ」
「ふぅん。マシュマーロン家で猫を飼っていたりしないの?」
「母様が過敏症持ちでして」
「そうなのね…、じゃあ領地に帰ったり、お母様とお会いになる際は衣服に気をつけて頂戴」
「はいっ」
他人から猫扱いされると訂正をいれるが、自分は自身を猫のように扱うチマに、それでいいのかと疑問を覚えながらメレは頷いてく。
「それじゃあ朝食に向かうわよ。ふふーん、昼後のパンケーキが今から楽しみだわぁ」