各々が河畔で思い思いの過ごしていれば、風に揺られて芳ばしい香りが鼻腔を
「いい香りだね、釣果があったようで何よりだよ」
「ふふん、私はね、二匹も釣ったのよ!釣りの才能があるのかもしれないわ!」
「ほう、初心者のはずだが随分と調子が良かったのだな。ゼラの方はどうだった?」
返答はなく、串焼きにされている虹鱒を指し示しては数を教える。元々寡黙な護衛、言葉が返ってこないことは普段からのものなので、気にした風もなく数えていく。すると合計一三尾が綺麗に下処理をされ、串焼きにされている。
「チマが二尾ならゼラは一一尾か。順調な釣りだったようで何よりだ」
キリッとした表情を浮かべては、
「一口程の大きさになっちゃうけど、皆と騎士たちも呼んで間食としましょ」
「なんだ、分けてくれるとは気前がいいじゃないか」
「夕餉もあるから食べ過ぎちゃうとちょっとね。ゼラも皆で食べるのに肯定的みたいだし」
鷹揚に頷いたゼラは、切り分けた虹鱒を小皿に移していって人数分用意し、机に並べては騎士の一人に皆を集めさせた。
一口で食べ終えてしまう量ではあったが、釣りをしたチマ本人は大満足といった様子で、大切な思い出の一つとして心に刻まれていく。
「来年にマシュマーロン領へ行くなら、…海釣りねっ!」
「っ!」「…。」
チマの一言にゼラは表情を輝かせ、リンは真面目頻りな表情へと変わった。
(ビャスさんからの協力は取り付け現状、…半らビャスルートと言っても差し支えない状況だから。絶対にチマ様と二年生に進級するんだ)
「旅行って良いものねぇ」
ご機嫌なチマは宿に戻るため自然公園を歩きながら鼻歌を奏でて、浮かれっぱなしだ。
「チマ様って旅行したことないんですか?」
「無いわよ、王都の直轄地から出たことすらね」
意外だ、とリンが零せば。
「お父様は日々忙しくしているし、お母様も
「一人、とは言わず、従者連れで小旅行などをしてみたいと思ったことは?」
「なかったわね。鍛錬に勉強に稽古事に、色々必死になってあんまり周りが見えてなかったのかもしれないわ。こうして視野を広く持てたのも、学校に通って…リンや皆と友達になれたことが切っ掛けだったりして」
恥ずかしいことを言ってしまったと、チマは
「まあでも、屋敷っていう居場所から離れるのが怖かったのかもしれないわ。外はスキル至上主義者が跋扈する面白くない場所、なんて思っていたし」
「その考えは変わりましたか?」
「変わったわよ、
「…今更ですけど、よく私と初対面で友達になろうって思えましたね…」
「なんでかしらね?思い返してみると…我ながら不思議だわ」
「…、」
「だって、裏庭で独り寂しく昼食を突いてる次席なんて、変わっているなんて言葉じゃ済まないものねっ」
「そ、それはっ!」
くすくすと悪戯っぽく笑みを浮かべたチマは、リンを誂い宿へと向かっていく。