「先程も言った通り不確定で破茶滅茶なのですが、この野営会の三日目にこの班を狙った襲撃が起ります」
「しゅ、襲撃、ですか」
「それも人為的に魔物を用いたものです。私の未来を知る力、未来視とでもいいましょうか。未来視では三年生の生徒が、どうやってかはわかりませんが魔物を自然公園内に運搬に成功し、私達へ襲い来るのです。ですが、未来視でも犯人そのものはわからず、そもそも根底が大きく異なっているため、それがそのままの状況で起こるとも限らないのです」
「…っじ事前の対処は、難しいんですね」
「はい。それに先程の笹耳族も存在を確認していませんし、何か嫌な感じがするんですよね、あの人達には」
「………、ジロジロとお嬢様の事を見ていました」
「そうだ。すれ違うときに、彼らの声を聞きませんでしたか?」
「ぼ、僕は聞いてません」
(やっぱあの声はあたしだけに)
「とりあえず、…不完全な力ということもあって物事がどう動くかはわかりませんから、現状維持の警戒をお願いします。……、私の目的はチマ様を必ず護り通すことなので」
「わっ、わかりました。…………、っその未来視ではお嬢様になにかある、のですか?」
「…、ええ。私はチマ様を絶対に救いたくて、チマ様を救うためにこの場にいるんだと思っています。だから…。ビャスさん、私に力を貸していただけますか?」
「っ未熟者ではありますが、リンさんと一緒にお嬢様をお護りします!ひ、拾ってもらった恩もありますし、お嬢様に何かあったら旦那様に奥様、シェオさんやアゲセンベ家に仕える皆さん、デュロ殿下と…っ多くの方が悲しみますから」
「ありがとうございます。チマ様お護り同盟の結成です!」
「あっはい、わ、わかりました。頑張りましょう」
(その名前はどうなんだろう…)
声に出さないツッコミをしつつ、ビャスはリンと共に
ところ変わってチマはといえば。ビャスがリンと共に抜け出していった事を確認し、あちらはあちらに任せようと釣具を用意しているデュロ付きの麗人の護衛、ジェローズ・ゼラの後を追って釣り場へと向かっていく。
この
本流も本流で幅広な河川であるため流れが緩やか且つ、深さもそれほどでないことから水遊びには最適で、水遊びをしたい者はそちらに向かった。
手際よく釣具の準備をしていくゼラの様子から、釣りをし慣れている事が伺えて、チマの尻尾は分かりやすく揺れていく。
「ゼラって釣りには詳しいの?」
コクリと頷きながら人好きのする笑顔を見せた彼女は、口笛を奏でながら釣竿を用意し終えて、チマへ手渡してから自身の分を組み立てる。
「
「これは
「謝罪は別にいいのだけど。貴女…こんなに話せたのね。今まで交わした会話量の数十倍の声を聞いた気がするわ」
「釣りには煩くて、あしからず。
釣り糸を垂らして、釣れるか釣れないかやきもきしながら時間を過ごすものとばかり思っていたチマは、まるで剣術の稽古が如く勢いで、釣り竿の振り方から毛鉤の動かし方等の指南を受けていき、困惑頻りな表情であったのだとか。
とはいえスキルは無くとも物事の呑み込みの良いチマは、普段は無口なゼラが満足そうな表情を浮かべる程に筋が良く、三〇分もしない内に黙々と二人で釣りに打ち込むようになっていた。
(あれ?!『きゃーシェオ!こんな虫、私触れないわ!釣り針に付けてぇ!』的な展開が無い!?)
釣りといえば蚯蚓なんかを使っての餌釣りと思っており、チマへと頼りになる姿を見せられるとばかりに思っていたシェオは肩透かしを食らって、網を手に二人の勇姿を眺めているだけだったとか。
(こんなことなら私も釣りに参加するべきでしたね…)
「あっ!来たかもしれないわ!いえ、来たわ!」
「本当ですかチマ姫様!?網の準備を!」
「は、はい!」
初心者に舞い込んだ幸運か、魚を引っ掛けたチマはゼラの指示の元で糸を手繰り寄せ魚と戦い、最後にはシェオが川へ入って網で確保したのである。
「おめでとうございます、お嬢様!」「上手くいきましたね、チマ姫様!」
「…、」
目を瞬かせたチマは、網の中で暴れている虹鱒を見つめては二人へ視線を向け。「釣れちゃったわね」と嬉しそうに尻尾を立てていた。