カロンとユースが雨宿りをして少し経つと、雨がやんだ。雨が降っている間、ずっとユースはカロンを抱きしめたままで、カロンは心臓がドキドキと鳴りっぱなしだった。
雨がやむと、ユースは静かにカロンを腕の中から解放する。カロンはドキドキする胸をごまかすように、ユースへ笑顔を向けた。
「通り雨だったみたいですね。すぐにやんでよかった」
「そうだな」
ふとユースがカロンを見て手を伸ばす。
(へえっ?何?)
カロンが驚くと、ユースは手をかざして風魔法を使う。カロンとユースの周囲に生暖かい風が吹いて、二人の服や髪があっという間に乾いた。
「濡れたままだと風邪をひく」
「あっ、そうですね!ありがとうございます」
(ユースさん、不愛想だけどいつもちゃんと色々なことに気を配ってくれてる。いつもユースさんの優しさに助けられてるな)
カロンの心がほわほわと暖かくなっていると、突然ぐうーっとお腹が鳴る。
(どうして!このタイミングで私のお腹は鳴っちゃうの!)
思わずユースを見ると、ユースは一瞬目を丸くしてからすぐにククク、と静かに笑い出す。
(あっ、笑ってる……!)
楽しそうにカロンを見ながら、ユースは口を開いた。
「ここで一旦昼にしよう」
「そうですね、レーヌさんからもらったお弁当がありますから食べましょう」
(ユースさんが笑って楽しそうにしてくれるなら、お腹が鳴ったのも悪くなかったかな、恥ずかしかったけど)
◇
「いただきまーす!」
近くの拓けた場所に持参したシートを広げ、カロンとユースは昼食を取り始める。レーヌからもらったお弁当にはサンドイッチや空揚げ、卵焼き、角切りフルーツなど色とりどりで、手軽に食べられそうなものばかりだ。
「レーヌさんのお弁当、美味しい」
カロンは嬉しそうにそう言って、もぐもぐと頬張っている。
(頬にいっぱい詰め込んで、まるでリスのようだな)
カロンを見ながらユースはフッと笑い、サンドイッチを一口かじる。
「レーヌさんの料理は本当に旨いな。宿で食べた食事も美味しかった」
「ですよね!レーヌさんの料理目当てにあの宿に泊まるお客様も多いんですよ。私もレーヌさんみたいに料理が上手くなりたくて、宿に泊った時は料理を教えてもらうんですけど、レーヌさんみたいな味はやっぱり出せなくて」
「カロンは自分で料理をするのか」
「はい、なるべく自炊するようにしてます。その方が安上がりだし、体にもいいかと思って。それに、料理するのってなんとなくストレス解消にもなるんですよ。無心で材料を斬ったり、煮込んだりすると頭がクリアになる気がして」
ほう、とユースはカロンの話を聞きながら弁当に手を伸ばす。
「偉いんだな。俺は食にあまり興味がないから外食ばかりだし、いつも最低限のものしか口にしない。でもカロンの手料理なら食べてみたい」
「ユースさんは体が資本のお仕事なんですから、栄養バランスとか考えた方がいいですよ。今度作りましょうか」
深く考えずにそこまで言って、カロンはハッとなった。
(私、何を自分から料理作りましょうかだなんて口走ってるの)
「あ、いや、でもレーヌさんみたいに美味しいかどうか保障はもてないので……」
「ぜひ作ってほしい。カロンの料理が俺は食べてみたい」
ジッと見つめられながらユースにそう言われてしまい、カロンは思わず赤面してしまう。だが、カロンが返事をするまでユースは視線をそらさない。
「わ、かりました……あまり期待しないでくださいね」
カロンの返事に、ユースは満足げにうなずいた。