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第19話 雨宿り

「ここにはよく現れるのか?」

「いえ、今日が初めてです、それにワイバーンが出るだなんて聞いたこともありません。どうして……」


 ユースとカロンが話をしていると、ワイバーンが降下し始める。


(今まで出現しなかったワイバーンがどうしてこちらに向かってくるのか。ここに奴らを引きつける何かがあるのか?)


 ユースが周囲をくまなく見渡すと、キラッと何かが光った。ユースはその光の元に駆け寄ると顔を顰める。そこには、国の騎士団のマークが入った魔香炉が置かれていた。


(この魔香炉のせいでワイバーンが引き寄せられるんだな)


 ユースはすぐに魔香炉を叩き割ったが、まだ魔香炉の残り香があるのだろう、ワイバーンの一体がユースたちのいる場所まで降りてきた。


「カロン、俺から離れて岩陰に隠れろ!」


 ユースの声に、カロンは急いで荷物を背負い岩陰に隠れる。その間に、ワイバーンはユースに気づいて口からブレスを吐き出した。ユースは剣を構えてブレスを薙ぎ払う。


「ユースさん!」

「心配するな!大丈夫だ!」


 カロンの声にユースは答え、ユースは剣を構えた。



「はあっ!」


 ユースが剣を振りかざすとワイバーンの周囲に暴風が吹き荒れる。ワイバーンは風に煽られてそのまま背後の崖壁に激突する。


ドオオオオン


 大きな音と共に砂埃が舞い、ユースの目の前には崖壁にめり込み倒れているワイバーンがいた。ワイバーンはよろよろと起き上がると羽を広げて飛んでいく。


「戦意を喪失したみたいだな」

「ユースさん!」


 ユースが剣を鞘にしまうと、カロンが小走りで駆け寄ってくる。


「大丈夫か?」

「はい!ユースさんは?」

「なんともない、大丈夫だ」

「よかった……!それにしてもワイバーンを撃退するなんて、ユースさんて本当にお強いんですね!」


 ホッとしながらもユースに羨望の眼差しを向けるカロン。そんなカロンにユースは少し驚いて口元を手で覆い、目線を逸らした。


(そんなにキラキラした瞳で見つめられると戸惑ってしまうな。心臓が鳴り響いてうるさい。胸の奥がなんだかじわじわと不思議な感じがしている。こんな気持ちになるのは初めてだな)


 ユースが戸惑っていると、ぽつり、と上空から水滴が落ちてきた。


「雨、ですかね」

「ひどくなる前に上に戻ろう」





 カロンたちが上まで戻る頃には雨は本降りになっていた。カロンたちは急いで馬を繋いでいた近くの木の下に走り込む。


「ふう、結構強くなってきましたね」

「とりあえずはここで雨宿りをしよう」


 ユースの言葉にカロンが頷くと、ユースはカロンをじっと見つめる。


「寒くないか?予想以上に濡れてしまっている」

「そんなに寒くないし、大丈夫で……っくしゅん!」


 大丈夫と言おうとした瞬間、カロンは盛大にくしゃみをした。その様子に、ユースは険しい顔をするのでカロンは思わず苦笑いになる。


「あ、いや、くしゃみが出ただけで寒くはないんですよ」


 そう弁明するカロンの肩にユースは手を伸ばし、グイッと引き寄せた。


(え?ええ?)


 驚くカロンだがユースは表情を変えない。


「この方が暖かい。俺にこうされるのは嫌かもしれないが我慢してくれ」


 ユースに肩を抱かれ体が密着していること、にカロンは動揺を隠せない。だんだん顔が赤くなっていくことを自覚して余計に恥ずかしくなっていく。


(ど、ど、どうしよう、自分の心臓がうるさいし、恥ずかしい。ユースさんの腕、すごくしっかりしてる……やっぱり男の人なんだな)


 チラリ、とユースの顔を見上げると、それに気づいたユースと目が合う。雨に濡れたユースはいつも以上に色気が増していて、カロンは顔を真っ赤にしてすぐに俯く。そんなカロンの様子にユースは表情を変えなかったが、ほんの少しだけカロンの肩を抱く腕に力が入った。


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