宿屋のある街から採掘場までは馬でそんなにかからない距離だ。だが、採掘場のすぐそばに馬で行くことはできず、途中で馬を降りなければならない。しかも、馬を降りてからも問題があった。
「ここを、今までは一人で行っていたのか?」
ユースが目の前の光景を見て眉を顰める。カロンとユースの足元には崖があった。少し体制を崩せば崖底に真っ逆さまだ。
「はい、ロープを使って下まで降りて、また登ってきていました。見た感じは遠く見えますけど、意外とそんなに遠くないんですよ」
なんてことない顔をしてカロンはロープの準備をする。鉄杭をしっかり地面に打ち付け、そこにロープを結び崖底までロープを垂らす。それを見ていたユースは、鉄杭をさらに強く地面に打ち付けた。
「俺も降りるとなると、カロンの力で打ち付けただけだと危ない可能性がある」
「あ、確かにそうですね」
うんうんと頷きながらカロンがユースを見る。この崖を見れば大抵の女性は悲鳴をあげるだろう、男性でもひるむほどの絶壁だ。それなのに、カロンは慣れたものでケロッとしているし、むしろ早く降りたくて仕方がないと言うような顔をしているのだ。そんなカロンを見てユースは呆れつつも口を開く。
「準備が整ったなら降りよう。天候が変わる前に早く終わらせた方がいい」
採掘場周辺の天候は変わりやすいと事前にカロンが言っていたことを思い出してユースが促した。
「そうですね。私が先に降りるので、ユースさんは続いてください」
そう言って、カロンはロープに手をかけ、崖を器用に降りていった。
◇
二人とも崖下に到着すると、そこには光を反射してキラキラと輝く鉱石花があった。翡翠色のその鉱石花は、カロンが採取用のハンマーを打ち付けると一瞬濃い青色に変化する。
「綺麗だな」
ユースが感心して言うと、カロンは嬉しそうに目を輝かせた。
「綺麗ですよね!この鉱石花は衝撃によって色が変化するんです。変化するのは色だけではなくて、魔力量だったり硬度だったりその時々で変化するんですよ。その様子から、鉱石花言葉が『移り気』なんです。面白いですよね」
嬉しそうに笑ってカロンは採掘を進める。カロンがハンマーを打つたびに様々な色に変化する鉱石花を、カロンは愛おしそうに眺めながら優しい手つきで採掘していった。そしてそんなカロンを、ユースは穏やかな眼差しで見つめていた。
ふと、カロンが何かに気づいて頭上を見つめる。ユースも同じように頭上を見て目を細めた。
「あれは……」
「ワイバーン?!どうしてこんなところに」
カロンたちの視線の先には上空を滑空する数匹のワイバーンがいた。