「まさかこんなことになるなんて。本当にすみません」
荷物を背負い旅人姿のカロンの横には、傭兵姿のユースがいた。
結局、サインズの提案にカロンは意を唱えたが、ユースが旅の同行に同意したのだ。
「俺も魔鉱石が好きで仕事のない時にはよく魔鉱石屋を巡ったり採掘へ行く。雪月光石を見れるなら一緒に行く意味がある」
それに、とカロンを見つめてユースは言う。
「君を一人で行かせたくない」
綺麗な顔立ちの美しい蒼い瞳に見つめられて、思わずカロンは息を呑む。だんだん、顔に血が昇っていくのがわかる。
(特に意味はないんでしょうけど、そ、その顔でそんなこと言わないでください!!)
居た堪れなくなったカロンは思わずフイッと目を逸らすと、ユースは一瞬だけ寂しそうな表情をした。
「あ、ありがとうございます。今までなんでも一人でこなして来たので、そう言ってもらうとこそばゆいというかなんというか……でも嬉しいです」
顔を赤らめて微笑むカロンの言葉に、今度はユースが息を呑む番だった。
◇
「今まで一人でこなして来たと言っていたが、家族はいないのか?あの店も一人でやっているようだが」
ゲラルド渓谷への道中、お互いのことを知るために色々と話をしていた。
ユースの問いにカロンは一瞬戸惑うが、すぐに笑顔を作って返事をする。
「私、施設育ちなんです。物心ついた時にはすでに施設にいて、両親の顔も分かりません」
カロンは成人する十七歳まで施設で育った。施設では何不自由なく暮らし、兄弟姉妹のように暮らしたみんなとは今でもよく連絡を取り合っている。
施設を出てからは施設から紹介された魔道具屋などで働き、コツコツとお金を貯めていた。小さい頃から鉱石が大好きだったカロンはいつか自分で店を開きたいと思っていたのだ。真面目な働きぶりを認められ、とある魔鉱石屋を紹介される。
「そこが今の店なんです。先代の店主は老婦人で、私のことをとても可愛がってくれました」
元々夫婦で切り盛りしていた店だが、店主の主人が先立ってから店をどうするか悩んでいたそうだ。
カロンが来たことで採掘もできるようになり、店も残すことができる。老婦人は店をカロンに託すことで安心して天に召されていった。
「一人で採掘に行くのは怖くないのか?危ないことも多いだろう」
どうしてこの小さな細い体でそんなに勇気のある行動ができるのだろうかと、ユースはカロンの原動力が一体なんなのか純粋に知りたいと思った。
「……なんて言えばいいんでしょうね。私、とても恵まれてると思うんです。施設育ちだけど不満に思うことも不自由に思うこともほとんどなかったし。
もちろん全くないとは言えないですけど。けど、こうして今でも好きなことをして生きていられる。人との出会いも含めてとっても恵まれてるなって」
ほんの少しだけ前を歩いていたカロンは笑顔で振り返る。
「だから、せっかくだからこの命を精一杯生き切って見せようと思ってるんです!もちろん命の危険を感じることもあるけれど、鉱石花を見つけた時の胸のときめきは何にも変えられません。
採掘に行ってもし命を落とすようなことがあるなら、それもきっとそれが寿命なんだろうって思います。だから、怖くないと言えば嘘になりますけど、でも大丈夫です」
(……この胸の高鳴りはなんだろうか、どうしてこんなにこの子から目が離せないんだ)
満面の笑みを向けるカロンを見て、ユースは自分の胸がいつまでも大きく高鳴るのを感じていた。