鉱石花。
結晶化する際に花のような美しい形になった魔力を持つ鉱石のこと。鉱石花が宿す魔力は通常の魔力を持つ鉱石よりも桁外れとされ、重宝されている。その美しさから観賞用にコレクションする者、魔力強化のために保有したり加工したりする者など様々だ。
◇
カランカラン
「いらっしゃいませ!」
ここはとある街にある魔鉱石屋。魔鉱石屋の中でも貴重な鉱石花を多く扱う珍しい店だ。
「よう!カロンちゃん元気にしてたか?」
「サインズさん!お久しぶりです」
ここの店主は年のころ二十歳を超えたか超えないか、明るいブラウンのセミロングの髪にエメラルドグリーンの瞳をした可愛らしい女性だ。まだ少し幼さの残る人懐っこい笑顔で誰にでも分け隔てなく接し、店としての人気も高い。
「この間ゲラルド峡谷まで行ったんだって?鉱石花のためとは言え無茶するよなぁ」
常連客のサインズはやれやれとため息をつく。
「だってあの雪月光石があるってわかったんですよ!行かない選択なんてないです」
カロンは両手を腰に当ててふんす!と鼻息を荒くした。
「女一人で行くなんて無謀すぎる。危ない目にあったらどうするんだよ。現に怪我したんだろ?」
カロンの右手に巻かれた包帯を見ながらサインズは言う。
「……一人で行ったのか?あのゲラルド渓谷に?」
突然、サインズの後ろから声がする。そこには艶やかな長い黒髪をひとつに束ねた端正な顔立ちの蒼い瞳の男性がいた。
二十代半ばに見えるその男の背はすらりと高く細身だが、程よい筋肉質で普段から鍛えていることが窺える。
こんなに綺麗な顔立ちの人はきっとモテるんだろうなぁとぼんやりカロンは思った。
「おっ、そうだ紹介しようと思ってたんだ。カロンちゃん、こいつはユース。傭兵をやってて俺の幼馴染なんだ。いい魔鉱石屋を探しているって言うから連れて来たんだよ」
「初めまして」
ぺこり、とカロンがお辞儀をすると、ユースは真顔でお辞儀をする。何を考えているのかわからないくらい表情が読めない。
「そんなことより、一人で行ったというのは本当か?」
「えっ、あ、ゲラルド渓谷ですか?はい。雪月光石という珍しい鉱石花が発見されたので、採掘したいと思って行って来ました」
うふふ、と嬉しそうに笑うカロンを、ユースは眉間に皺を寄せて睨む。
(えっ、こ、こわい……)
ユースの表情があまりにも険しく、思わずカロンは怯えてしまった。
「おい、そんなに睨むなよ、カロンちゃんが怯えてるだろ」
「あ、あぁ、すまない」
サインズに言われて我にかえるユースは、罰の悪そうな顔で謝った。それを見て、カロンは少しだけ安心する。
(なんだ、悪い人ではなさそうね。サインズさんのお友達だし)
「いいんです。心配してくださったんですよね」
カロンはホッと胸を撫で下ろしながら、笑顔で言う。
花が咲いたようなその笑顔に、ユースは一瞬心臓が大きく跳ねるのを感じた。
「でも私、一応剣術も習っていましたし、魔法も中級程度までなら使えるんですよ。鉱石花のおかげで魔力も強化できますし」
「だからと言って、あのゲラルド渓谷に一人で行くのは危なすぎるって。魔物だけじゃなく人攫いとか山賊とかもいるって聞くぞ」
カロンの言葉にサインズは苦言し、ユースもまた眉間に皺を寄せる。
「は、はい、あの、おっしゃる通りです……でも、でもですよ、見てくださいこれ!」
一瞬だけしょげた様子をみせるが、すぐに目を輝かせてサインズ達に鉱石花を見せる。
そこには、白く輝く花のような美しい鉱石があった。可憐な花を咲かせるようにキラキラと輝き、魔力の強さも一目でわかるほどだ。
「すげぇな、本当に採ってきたのか!」
サインズが驚くと、ユースはその鉱石花を見てほう、と呟く。
「まだこれしか採れてないんですけどね。でもまた行く予定なので、今度はもっと採って来れると思います」
嬉しそうに笑うカロンを、サインズとユースは呆れたという顔で目を合わせた。
「お、そうだ、また行くならこいつ連れて行けよ」
サインズが手をぽん!と叩いてユースを指差す。
「は?」
サインズの言葉に、カロンとユースは同時に声を発した。