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第5話対決!元勇者

 勇者と戦うのを回避しようと思っていたのに、本人にエンカウントしてしまった。


 前回と違って、おっさんに勇者パーティーの詳細を聞き、今後の予定をのんびり考えていたから、未来がほんのり変化したということだろう。


 どう考えても、前回速攻スローライフを決めた俺の選択は、神がかっていたとしか思えない。

 まぁ、世界は滅んだが。



 俺の胸ぐらをつかんでいた元勇者は、額に青筋を何本も浮かべて、三白眼をギラつかせる。口もとは、不愉快そうにひくひくと痙攣していた。

 どう見てもチンピラである。


「テメェ……俺様を知らないだと?」


 というか、勇者って、こんなにガラの悪いヤツだったのかよ。

 やっぱり、勇者パーティーに関わらないのが正解だったじゃねえか!


「いやぁ、まぁ、よく見たら見覚えがあるような、ないような……」


 すっとぼけながら、サッと周囲を見る。

 口のなかで小さく「リサーチ」と唱え、指を弾く。

 パッと、集まってきていた野次馬たちの能力情報が表示された。


 それぞれの頭上に、未開花の能力は赤。獲得済みの能力は青の文字で表示される。たいてい、開花しているのはゼロ。もしくは、ひとつ。


 ちなみに、能力は先天的なものが多いが、後天的に能力獲得に近づくと表示されることもある。

 だから、努力の天才型というのも、存在する。


 そういうやつを見つけられたら、超ラッキーだ。


 まじめで堅実な性格。そのくせ、ポコポコと新能力を引っさげてくるので、トータル的にかなり有能な秘書官になる。

 前回のローランである。

 どうにかして、ローランはまた仲間に引きこみたい。


 それにしても、目ぼしい能力はないな。


 町人たちの能力を確認していると、突然腹を殴られた。元勇者だ。


「ぐっ」

「いいかァ? よーく覚えとけッ! 俺様は、黒豹ギルドのヤルド様だ。テメェみてぇなクソ雑魚とは、レベルが違うんだよ! わかったら申し訳ありませんでしただろうが!」


 黒豹って、強いが、黒い噂も絶えない闇ギルドじゃねえか。オモテの仕事もやるが、メインで請け負ってるのは暗殺だと聞いたことがある。


 そんなところのヤツが、前は勇者だったのかよ。

 いやまぁ、殺すということにおいては、特化していそうだが。


 俺はチラリとヤルドの能力を見た。


 獲得済み能力が三つ。


 シークレット・ダブル。

 常に発動型。

 すべての身体能力が倍になる能力。

 いや、チートじゃね?


 それから、ヴォイド・アブソーブ。

 攻撃を無効化し、そのエネルギーを自分の力に加える魔法。魔法や全能力が強化される。


 ……いや、チートじゃね?


 そして最後に、ライトニングブレス。

 名前のとおり、特大雷の魔法を口から放つ。

 おめーはドラゴンかよ。


 いや、強い。文句なしに強い。勇者になったのも納得の能力だ。

 今の俺が、正面から戦って勝つことは不可能。


 だが、単に固有能力頼りのヤツだってんなら、勝つ方法はある。


 さいわい、今の俺の手持ち能力に、激レアはすくない。街の人たちからコピーした、生活が楽になるちょっと便利くらいの能力が多い。


 ここで会ったのも、なにかの運命。


 なにも、強くなって勝つ必要なんかなかったってわけだ。

 最初っから、こうすればよかっただけで。


 俺は愉悦に口もとをゆがませ、元勇者、ヤルドの胸もとに右手をかざす。


「あ? なんだテメェ。クソ雑魚が歯向かう気か? おもしれェ!」


 ヤルドが拳を振りあげた。

 その瞬間、発動呪文を唱える。


「ロック」


 俺の手から、黒紫の光が放たれる。

 そして、光でできた鎖がヤルドの体内に入りこみ、心臓の周りにある、固有能力につながる魔力回路を、縛る。


 ヤルドはビクンッと体をのけぞらせ、俺から手をはなした。


 ヤルドの頭上にあった能力の文字が、三つとも光を失い、グレーに変わっている。

 能力が封印された証だ。


 ヤルドは苦しそうに胸もとを押さえ、冷や汗を流しながら地面に崩れ落ちる。そして、石畳の上をゴロゴロと左右に転がった。


「ぐ、あっ⁉︎ ガァァア⁉︎ テ、メェ……っ、俺になにをした⁉︎」


 地面に転がったまま、ヤルドが三白眼で睨みつけてくる。


「べつになにもしてねえよ。あんたがかってに地面に転がっただけだろ。病気かもしれないし、病院に行ったほうがいいんじゃないか? じゃ、そういうわけで」


 そそくさとその場を立ち去ろうとした。

 が、やっぱりそう簡単にはいかない。

 後ろから小石が飛んできて、耳の横をかすめた。耳を手で押さえ、目の前に持ってくる。

 すこし切れたのか、手にはうっすら血がついていた。


「テメェ……待ちやがれ。よくも俺様をコケにしてくれたなァ」


 ……やっぱダメか。

 このまま解散! と行きたかったんだけどな。

 野次馬多いし。


「おい、あのヤルドが苦しんでるぞ」

「地面に這いつくばってるのなんか、はじめて見たぞ」

「あの黒髪坊主、なにかしてたか?」

「いや、なにもしてなかったように見えたが」

「でもよ、あのヤルドの姿……ぷふっ」


 ヒソヒソと会話が交わされる。

 こいつ、街の人たちからもよく思われてなかったんだな。まぁ、どう見てもチンピラだしな。


 街の人たちの会話を耳にしたらしいヤルドが、顔を真っ赤にさせて立ちあがった。体はぷるぷると細かく震えている。


 そして、苦しそうに息を切らしたまま、鋭い三白眼を憎悪にギラつかせ、俺を睨みつけてきた。


「テメェ……このままですむと思うんじゃねぇぞ」


 まぁ、たしかに能力を封じたのは俺だけど。

 でも笑ったのは俺じゃないし。

 八つ当たりじゃね?


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