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第4話固有能力『スキル鍵師』

 親切なおっさんたちの話によると、勇者パーティ選抜にはテストがあるらしい。

 ただ、試験の内容は未公開。

 勇者たるもの、臨機応変に対応できなければならないそうだ。


 ……まずいな。

 勇者ご一行に関わると「没落! 追放!」と思っていたから、ろくな知識がねえぞ。

 勇者の顔なら、うっすら記憶にある。

 だけど、そのくらいだ。街中で見かけてもわかるかどうか。

 勇者というくらいだから実技試験だろうか?

 それともまさか、勇者だから人望による投票制か?



 とりあえず、俺は現時点で所持している能力を確認することにした。


 このときは十五歳くらいだったか?

 生まれた街を出て、冒険者として王都にきていたころだったはず。

 まだ野心に満ちあふれていて、大きな夢を見ていた。

 せっかくなら偉大な功績を! 安定した生活を! と。

 まぁ、その後、燃え尽き症候群におちいっていたわけだが。


 領地運営のために取得した能力が多かったから、今の俺はさぞかし弱体化しているだろう。


「チェック」


 親指と人差し指でパチンっと指を鳴らす。

 心臓がぱあッと光った。

 そこから、ホログラム映像が映し出されているような、白い光が目の前に伸び、俺にしか視認できないデータが表示される。


 現時点で俺が獲得している能力一覧だ。

 スキルブックのようなもので、能力は小さなカード状で閲覧できる。



 これは、俺の固有能力による恩恵だ。

 女神シンシアの転生ギフトだと思っているが、聞きそびれたのでわからない。


 俺の固有能力は、他者の能力解放、および能力封印。


 俺はかってに『スキル鍵師』と呼んでいる。


 チートだがチートではないという、微妙な能力だ。

 というのも、制約が多すぎる。


 この世界には、住民たちが認識できない能力がある。才能のようなものだ。

 条件を満たすと、特定の能力、固有魔法のようなものが獲得できる。

 獲得すると一応感覚でわかるらしい。

 「使えるような気がする」だとか、「わかる気がする」という直感は、たいてい能力を獲得した合図だ。

 大魔道士だとか、大賢者とか呼ばれるやつらは、この固有魔法をすべて獲得している。


 そして俺は、他者が持っている未開花の能力を視認し、解放することができる。

 同時に、解放済みの能力を閉じることもできる。


 俺が解放した他者の能力は、自動的にコピーされ、俺も使用できるようになる。

 ただ、相手の能力を閉じた瞬間、俺も使用不可になる。連動しているようだ。


 さらに、他者が自分の力で解放させていた能力を閉じた場合、相手は弱体化するが、俺の保有能力も閉じる。

 しかもランダムで。

 これは地味に痛い。

 できれば使いたくない。


 しかもこの能力は、他者の心臓付近に手を触れさせて使用する。

 そのため、敵にかなり接近する必要がある。

 敵の能力を閉じるのは、難易度が爆上がりするってわけだ。


 というわけで、強いが使いどころがやや難しい。もっとわかりやすいチートにしてくれてもよかったんじゃねえか?



 俺は現時点の能力をざっと確認する。

 攻撃魔法、防御魔法はいくつかある。


 この能力で一番大切なのは、だれの能力を解放させるかである。


 最強の魔法をもった極悪人がいたとして、そいつの能力解放をしたら、この世は地獄化する。


 善人だが弱小能力を持っていたやつの能力解放をしても、いきなり強くなるわけではない。


 まぁ、ただ、極悪人の最強魔法より、善人の弱小魔法をすこしずつ貯めるほうが、自分への被害もすくない。


 今の俺が保有している能力は、自分の父親、母親、および生まれた街にいた親しかったヤツらの能力が中心だ。


 母さんが水の防御魔法、父さんが身体能力アップ魔法、炎の攻撃魔法を未開花だったので、その能力をいただいた。


 母さんの能力、ウォーター・シールド。

 周囲に水のバリアを生成し、物理的な攻撃や魔法の威力を軽減する。ただ、強力な攻撃には耐えられないのと、継続的な使用には魔力の消耗が激しい。


 それから、父さんの身体能力アップ魔法、エンドレス・ヴィタリティ。

 筋力、速度、反射神経がアップし、疲労やダメージを一時的に無視することが可能だ。ただ、効果は一時的で、翌日に強い疲労がやってくるから、多用は控えたい。


 そして、炎系攻撃魔法、フレイム・バーストピラー。

 これは単純に炎の攻撃魔法だ。手から炎を放ち、巨大な火柱で広範囲を焼き尽くす。


 ほかによく使っていたのは、動物との対話が可能になる、ビースト・バベル。情報収集に役立つ。


 それからほかには……っと。

 一覧を見ていたが、変な能力を見つけて眉根を寄せる。


【女神召喚】


 間違いなく、載っている。

 そんな能力を獲得した覚えはないが、どう考えても女神シンシアのことだろう。


 能力の説明を見るが、【使用条件を満たしていません】と表示される以外はうんともすんとも言わない。どんな能力かも不明だ。

 まぁ、召喚というくらいだから、女神シンシアがくるのだろう。


 使用条件ってのは……。


 ……世界の進化か。

 世界が進化しないと具現化ができないとか言っていたしな。


 女神召喚って、強いのか?

 あの女神だ。翼で往復ビンタするような女神。

 まぁ、創造神だから弱くはないだろう。


 この女神召喚の文字だけで、「夢じゃないからサボるなよ?」という圧を感じる。

 俺がまず最初に能力一覧を確認することを予測していたみたいに、しれっと紛れている。


 言われなくてもやるっつーの。

 俺だって保管庫行きは勘弁願いたい。

 それに、もうやり直しははじまってる。


 ただ問題は、勇者試験まで、あとひと月しかないことだ。


 前回の勇者は、魔王を倒せるくらい強い。

 そして、間違いなく、そいつが今回もテストを受けるだろう。


 勝てるのか?


 あのいい加減な女神は、俺が勇者になるはずだったとか言ってたが、今の俺の強さが魔王に勝てるくらいかというと、微妙じゃないか?


 ある程度の魔物ならワンパンできるが、相手は魔王だぞ。魔族の頂点。一番強い。


 そして、それに勝つ前回の勇者。

 魔王と戦うより厄介だろ。どう考えても。


 さて、どうするか。

 時間はひと月。


 俺はベンチに腰かけたまま、やや前かがみになって考える。


 前はこのあと何をしたんだったか。約四年前だからな。記憶がすこし不安だ。


 たしか、ドラゴンを倒すために能力をいくつか解放した。


 前回と同じ能力を獲得するにしても、ひと月はやや短い。


 いや、待てよ。

 べつに、勇者にならなくてもいいんじゃないか?

 女神シンシアは、魔王を救えと言っていた。魔王を救うなら、勇者である必要はない。

 前回のときは勇者としてでなければ、魔王に会うこともなかっただろう。

 だけど、今は記憶がある。

 ミッションも明確だ。


 そうと決まればと、ベンチから立ち上がる。歩き出そうとしたとき、前からきた茶髪の男にドンッと肩をぶつけられた。


 いって。ぜってぇわざとだろこいつ。


 苛立ちをおさえつつ、軽くあやまる。

 だが、それだけでは終わらなかった。

 相手は当たり屋のごとく、いちゃもんをつけてきたのだ。


「あんっ? なんだテメェ。だれにぶつかったと思ってんだ? クソ雑魚が」


 突然胸ぐらをつかまれた。

 普通ちょっとぶつかったくらいで喧嘩売るか? しかも、ぶつかってきたの、おまえだろうが!


「そんだけ動けるなら、怪我してねえだろ。俺は急いでんだよ」

「はあぁああ? そこはもっとへりくだって、申し訳ございませんでしたァ! だろうが。テメェ、俺がだれかわかってんのか?」

「知らねえよ。あんた有名人か? これっぽっちも聞かねえな」


 言ってから、なんだか微妙に見覚えがある気がした。眉を寄せてマジマジと顔を見る。

 茶色のウェーブした髪。センター分け。眉はやや釣りあがり、三白眼のチンピラ顔。


 おい。

 おいおいおいおい。

 ちょっと待て!


 こいつ、勇者じゃねえか⁉︎


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