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最魔の日常─最強スローライフをしてたら世界が滅んだが?─
塩羽間つづり
異世界ファンタジー内政・領地経営
2024年09月26日
公開日
15,329文字
連載中
【世界滅亡は俺のせい⁉能力解放スキルで優秀な部下を探し出すやり直し生活】

異世界転生をした。
特訓を重ねて強くなり、最終的にスローライフにいきついた。
無事に魔王も倒されたと風の噂で聞いた……が、なぜか世界が滅びた。
死後、女神シンシアに罵られた俺は、勇者になって魔王を救うという使命を課せられ、強制的にやり直しさせられる。
だが、魔族は曲者ぞろいで、さらに街も土地も荒れ果てていた。


固有能力を酷使し、魔族たちのなかから優秀な部下探しからはじまる、ドタバタやり直し生活!

第1話スローライフ満喫中、なぜか世界が滅びる


 異世界転生をした。


 かつての俺は、これといった特徴もない、平々凡々な人間だった。

 特筆すべきことといえば、漫画、アニメ、ラノベが好きだったことか。


 だから、くしゃみをした瞬間にツルッと足が滑って頭を強打という、聞くも涙、語るも涙の不幸から目覚がめた瞬間、すぐにピンときた。

 見たことのない美男美女が、水で花や鳥を空中につくり、赤子の俺をあやしていたからだ。


 魔法だ! 魔法がある!


 俺は水の鳥にむっちりとした手を伸ばし、両足をばたつかせて喜んだ。

 気持ちは、天に掲げる感謝のガッツポーズ。


 俺はあの、『異世界転生』をしたと!



 そして、俺はよわい0にして、コレまで読んできた参考書ラノベの知識をもとに、人生計画を立てた。


 日本で生きていたころは、前世の記憶なんてなかった。

 当然、勉強なんかクソくらえである。


 毎日ネットやゲーム、アニメや漫画に溺れていた。

 ネットにいる奴らも、どうでもいいことに笑って、他人の炎上に野次馬してと、のんびりしていた。

 みんなそんなもんだと、安心しきって笑っていた。

 が!

 大きくなると、薄々わかってしまう。


 現実は、間違いなく戦いだと。

 人生とは、椅子取りゲームなのだと!


 そして、幼いころの積み重ねは、ものすごく重く、時間はなによりも惜しいものであると。


 今思えば、子どものころからコツコツ勉強していた奴らは、べつの世界からきた転生者だったのかもしれない……。



 俺はとにかく魔法を学んだ。

 その結果、俺には特殊能力があることがわかった。異世界転生ギフトだろうか。


 だが、さすがに突然ドカッと強くなることはなかった。

 そこだけは妙に現実的である。


 しかたなく、地道に特訓を重ねた。

 俺は、RPGでは敵の上までレベルを上げ、「敵よえぇ!」と、瞬時に消えるHPバーを見るのが好きだったからだ。

 執念の結果、無事、敵をワンパンくらいの強さは手に入れた。


 生まれた街周辺の魔物を掃除していき、冒険者として功績を上げ、「さあどうする?」と、目の前に選択肢が広がった。


 優秀になると、できることが増えるようだ。


 俺は悩んだ。

 人生の岐路である。

 冒険者、神官、騎士、文官、魔法庁、領主。店を開くのもありだ。

 どのルートをたどるかで、将来がある程度決まる。

 冒険者ならギルドマスター。

 神官なら教皇。

 騎士なら騎士団長といった風に。


 昼間から街のベンチに座り、悩みに悩んでいる最中、とあるウワサが広まった。


 魔王討伐パーティーが結成されると。


 そのとき、俺の頭に電流が走った。

 思い出したのである。


 勇者ご一行と関わると危険だという、前世ラノベの知識を。


 結局俺は、ドラゴン退治の褒美に田舎の小さな領地をもらい、のんびりまったりスローライフを満喫することにした。


 転生してから、ちょっと頑張りすぎたのだ。


 早めのFIRE生活である。



 と、そんなこんなで、俺は大きな屋敷をもらった。肩書きは男爵。爵位をもらったので一応貴族だ。


 白い猫脚ソファにあおむけで横たわり、あいた窓から心地よい風を浴びる。

 鳥のさえずりを聞きながらうたた寝をしていた俺の部屋に、ひとりの部下が駆け込んできた。

 ノックはない。

 毎度のことなので、もう気にしなくなった。


「ディオン様! 大変です! また魔物が!」

「またか……?」


 ディオン・ライトクロー。

 俺の名前だ。

 異世界年齢十九歳。

 毛先がよく見ると濃い紫という黒髪に、紫の瞳で、美男美女から生まれたからか、かつての俺よりはるかにイケメンだ。遺伝子に感謝である。


 年齢的に、まだまだ若造に入るはずだが、生まれた瞬間から意識があったおかげで、無駄に貫禄がついてしまった。

 決して、前世年齢を含めたら大変なおっさんであるからではない。決して。


「最近多くないか?」

「ですねぇ。魔王も倒したのに、不思議です」


 呑気に首をかしげるのは、俺の秘書官。ローラン・フィーター。二十二歳の既婚男だ。うらやましい。

 ローランは丸い小さなメガネを押し上げ、後ろで一括りにされている銀色の滑らかな髪をゆらし、紙を数枚差し出してくる。


 領内の駐屯地からの報告書だった。


 結界の外に、複数の魔物が確認されたこと。それから、民間人の争いの内容がズラズラと書かれていた。

 殴り合い、罵倒、恋人を奪われただの、ドレスを切られただの。

 本人たちからしたら深刻な問題なのだろうが、まぁまぁくだらない内容だ。


「最近、街での争いが増えているんですよ。聞けば、他の街でもそうらしいです。とくに、王都は今、地獄絵図だそうで」


 だれも聞いちゃいないのに、ローランがヒソヒソと耳打ちをしてくる。銀色の長い髪が顔に垂れてきたので、さりげなく払いのけた。

 それでも顔をくすぐってくるので、俺はしかたなく起きあがった。

 ローランは、にっこり笑う。

 ……いい性格をしている。


「王都、そんなにヤバいのか?」

「権力争い、後継者争い、他国との戦争準備、地震や嵐で食糧危機。それによって民間人の暴徒化、窃盗や暴力も増えてるとか」

「スラムかよ」

「王都です」


 ボケたわけじゃないんだが……。

 まぁいい。

 たしかに、ここ最近、地震や嵐、噴火といった自然災害が多い。

 魔物の凶暴化も確認されている。

 俺的には民間人の争いごとより、こっちのほうが気になる。食料や水の確保、新たな建築の材料確保なども必要かもしれない。


「それと、最近魔法が使えなくなる者が多発していると……。我が領地でも、昨日ひとり確認されました」

「原因は?」

「まだ不明です。伝染病の可能性もあるので、ひとまず隔離生活を送ってもらっています」

「ん、了解」


 早々に対策を立てているようなので、俺はうなずくだけですんだ。


 そして、魔物討伐部隊の編成と、民間裁判の指示を出し、あとは丸投げする。

 基本的にOKサインをしていればいいからとても楽である。身の回りを優秀な者で固めた努力の結果だ。


 素晴らしきスローライフ。

 素晴らしき堕落。


 またゴロリとソファに横になって、片腕を目の上にのせ、うとうとと微睡む。


 いつもと変わらない、とてつもなく平和で、のんびりとした日。

 ……のはずだった。


「キャアアアア‼︎」


 耳をつん裂くような甲高い悲鳴。

 と、同時に、バリンッと結界が破られたような感覚がした。体に亀裂が入り、透明なガラスが砕け散ったような、嫌な感覚。はじめての感覚だった。


 ハッと両目をひらき、バネのように飛び起きる。冷や汗が顎を伝った。

 結界が、破られた⁉︎

 今まで、俺の結界が破られたことはない。

 だから、この領地が魔族たちの住処と隣接してても。着任時、ずいぶんと寂れ、荒れ果てていても。のほほんと、平和に暮らせるようにまでなったのだ。


「ディオン様! 大変です! 見たことのない魔物が……ッ!」


 ローランが駆け込んできた。

 顔は青ざめ、かすかに体が震えている。


「場所は⁉︎ 具体的な状況報告!」

「ば、場所は、中央広場、西門、貯蔵庫、水路……ほかにも複数。敵は氷のような青白い体で、顔は楕円形、角があります。触れたものが、次々凍り漬けに……!」


 そこまで聞いて、俺は部屋を飛び出した。

 めんどうなので、正面玄関に位置する窓に足をかけ、そのまま飛び降りる。

 ふわりと地面に着地し、顔をあげる。


 そして、ありえないものを目にした。


 青い空が、真っ二つに裂けていたのだ。

 そんなバカな。

 空が裂ける?

 前世の記憶があるからわかるが、空の向こうは宇宙だぞ。裂けるはずがない。


 でも、裂けているのだ。

 見間違いではない。


 その裂けた空間に、手がかけられた。

 巨大な四本の指。まるで、機械と氷が合わさったような、メタルチックなボディだった。

 指先一本でも、人が千人必要なくらいのデカさだ。


 なにが起きてる?

 どう考えたって、普通じゃない。

 巨大な手が伸びてきて、地面に手をかざした。瞬間。


 ピシッと、世界が凍り漬けになった。

 俺の周りにいた生命体が、瞬時に凍りつく。人も、動物も、建物も。

 巨大な手が俺を見た。

 見たという表現は、正しくないかもしれない。目はないからだ。

 だが、間違いなく、「まだ生きていたのか」と言いたげに、俺のほうに手が向いた。


 瞬間的に「まずい!」と思ったが、ピシッと思考が止まり、視界が暗転した。



 こうして、俺のいた第二の世界は消滅した。




◇◇◇



「おい、起きろ。起きろと言うとろうが! 起きるんじゃ!」


 ベジッと頭をたたかれた気がして、うっすら目をひらく。


 ここはどこだ?

 真っ白の空間にいた、と思ったが、次には花畑に変わっていた。死後の世界だろうか……。


 体はなんともない。が、俺はあのとき死んだはずだ。凍り漬けにされて。


 パチパチと目をまたたく。そして、手を目の前に持ってくる。

 血の通った健康そうな手だった。指は五本。欠損はない。爪もきれいなピンク色だ。


「ようやく起きたか。まったく、お主のせいで、まーたやり直しじゃ。おいこら。責任は感じてるんじゃろうな⁉︎」


 やたら威張った女の声だ。

 いったいなんだというんだ。

 こっちは死んだばかりだというのに。


 いや、まさか、また転生したのか⁉︎


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