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第8話 初恋

  慌ててダリルの手を引いたエリーシャは、中庭に来ていた。



「ちょっとどういうこと?」



 動揺からか怒りからか顔を赤らめているエリーシャを、ダリルは優しげな瞳で見つめる。



「ダリルとニシャがダメでも、ダリルとエリーシャなら可能かと思って」



 ダリルの言葉に、エリーシャは思わずため息をついた。



「あなた、そんなにカタリナとしての婚約が嫌なの?……そりゃもちろんその気持ちはわかるし、私もその婚約は阻止したいけど……それでもちょっとこれはやりすぎなんじゃない?」



 不満げなエリーシャに、ダリルは中庭の花を眺めながら微笑んだ。



「君は、覚えていないかな」



 突然の言葉にエリーシャはぽかんとした顔をダリルに向ける。



「え、何が?」



「まだ俺がとてもとても小さい頃、今日みたいなお茶会が開かれたんだ。そのお茶会は公爵夫人達の集まるお茶会で、未来の公爵令息や公爵令嬢の自慢話をするために皆自分達の小さな子供達を連れて参加していたんだ」



 夫人達がお茶会で自慢話に明け暮れる頃、つまらなくなった子供達は外に飛び出していた。


 ダリルは小さい頃から花を見るのが好きで、一人中庭の花を嬉しそうに眺めていた。



 だが、他の公爵令息達がそんなダリルを見てからかい始める。



「男のくせに花が好きなんて気持ち悪いとか、女みたいな顔してるとか。まぁ確かに小さい頃からそうだったけど」



 その時の光景を思い出すようにダリルは宙を眺めて話す。



「囲まれて泣いている時、突然女の子が現れて助けてくれたんだ」



 その言葉に、エリーシャは幼い時のとある光景を思い出してハッとする。



「そして向かってきた男の子達を逆に撃退してくれた。その時の女の子の姿は勇ましくてとてもかっこよかったんだ、今でもその姿は忘れられないよ」



 嬉しそうに話すダリルをエリーシャは驚きの顔で見つめている。



「その女の子は侍女達の探す声から逃げるようにすぐに立ち去ってしまったから名前も聞けなかったけど、俺はずっと忘れられなくて。あの女の子が誰だったのか調べたんだ」



 エリーシャ・マルクル。



「騎士団に入ってから、ニシャと出会ってニシャがエリーシャの双子の弟だと知った時には嬉しかったよ。最初はエリーシャに近寄れるんじゃないかと期待したんだけど、騎士団仲間として接するうちにニシャ自身のことも大好きになった、もちろん友人として」



 ダリルの話をエリーシャはただただ驚いた顔で聞いていることしかできなかった。



「でも、この間の顔合わせでニシャがあのエリーシャだと知った時、俺の心はどうしようもなくなってしまったんだ。ニシャがエリーシャで、エリーシャがニシャ。最初は何がなんだかわからなかったよ」



 胸に手を当てて瞳を閉じながらダリルは噛み締めるように言葉を紡ぐ。



「それでも、やっぱり俺は君がニシャであってもエリーシャであっても構わない。俺は君が好きだ」



 エリーシャの手をゆっくりと取って口づける。



「俺の初恋の人」









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