「こっちの事情は話した。今度はそっちがなんで女装して婚約することになったのか教えてくれよ」
ニシャが腕を組んでカタリナ、もといダリルに言う。
すると、ダリルは盛大にため息をついた。
ダリルには二人の兄がいる。息子が二人になった時点で、次は女の子を両親は望んでいた。特に母親は女の子を育てることにずっと夢見ていたようで、ダリルが生まれ男だとわかってからも、ダリルを女の子として育てたいと我が儘を言ったようだ。
母親に激甘だった父親は、母親がダリルに女装をさせ女性としての教養を教え込むことを黙認していた。
もちろん男の子として育てることが大前提だが、ジェーン家になぜか可愛らしい女の子がいるという話は瞬く間に広がり、父親は仕方なく親戚の女の子を引き取っていると嘘をつく羽目になった。
ダリルとしても美しいもの可愛らしいものが好きだったし、何より母親が喜ぶ姿を見るのが嬉しかった。
そんな中、今回の婚約話が舞い込んでくる。こともあろうに、母親はダリルの女性としての結婚する姿が見たいと言い出した。そして父親はそんな母親の願いを聞いてやろうとすら言い始めたのだ。
「いくら別邸で勝手に暮らせと言われても、いずれはバレるに決まってる。そもそもさすがに俺としてもこんな話はまっぴらごめんだよ」
だが、ダリルの父親は有無を言わせなかった。
「お前ももうすぐ17歳。色んなご令嬢から結婚の申し込みが来ているというのに一切見向きもしないではないか。男として決断しないのであれば女として出向いてこい。どうせ契約結婚だ。別邸で暮らすふりをしてあとはダリルとして生きればいい」
確かにダリルはその美しい顔立ちと立ち振舞い、騎士としての強さも相まって引く手あまただ。それなのに全て断っていることをニシャも不思議に思っていた。
「まぁだとしてもすごい話だよな、他家の事をとやかく言うことじゃないけど、ご両親の感覚がちょっと逸脱してる……」
「子供をなんかの道具と勘違いしてるんだよ。……まぁお前の所もそんな感じだよな」
二人で目を合わせ、同時にため息をつく。
「婚約相手がニシャだと知った時には焦ったよ。声を出せばさすがに男ってバレるし、何も話さなければつまらない女だと思われて婚約破棄されるかと思ったんだ。お前のためにも絶対婚約破棄しなきゃと思ったんだぞ」
「俺は婚約相手がダリルだと知ってびっくりだけど。カタリナ嬢があまりにも綺麗で俺なんか相応しくないんじゃないかって思ったよ」
ぷっ、はははは!と思わず二人で笑い合う。
「そういえば、確かお前には双子のお姉さんがいたよな」
ふと思い出したようにダリルが言う。
「あぁ、それは俺だよ」
ニシャの返事に、ダリルは思わず口に手を添えて呟く。
「まじかよ……」
「え、お前って、俺、じゃなくて私のこと知ってるの?」
思わずエリーシャとして話をすると、ダリルは目を見張りほんのり顔を赤らめる。
「あ、あぁ……まぁな」
ダリルの様子にきょとんとするニシャだが、ダリルはそれ以上詳しく話そうとはしなかった。