カタリナの声を聞いた瞬間、聞き覚えがありすぎてニシャは頭を鈍器で殴られたかのような感覚だった。
「え、待って、まさか君は、ダリル……?」
唖然とするニシャに、カタリナはふぅーっと深呼吸をしておもむろに自分の髪の毛に手を伸ばす。そして髪の毛をいじると長い髪の毛のカツラが取れて、そこには見慣れた顔の男がいた。
「はぁ?待て、待て、待てよ、どういうことだ」
「それはこちらの台詞だ」
ハッ、と何かに気づいてニシャはキョロキョロと周りを見渡し、すぐにダリルの手からカツラを取って被せ、さらには帽子も被せる。
「ここだと誰に見られるかわからないから、とりあえず俺の部屋……だとだめか、ええと、こっち!」
ニシャはカタリナの手を取ってズンズンと歩き出した。
向かった先には古びた小屋がある。
「ここは昔は倉庫だったんだけど今は誰も使っていないんだ。離れになっていて普段はほとんど人が寄り付かない」
小屋に入るとニシャははぁーーーっと盛大にため息をついた。
「どういうことか説明してくれるか?」
ニシャが言うと、カタリナはまたカツラを取って髪の毛を手で無造作に整える。化粧をしているがそこにはやはり見慣れた男、ダリルがいた。
「そっちこそどういうことか説明してもらおうか」
ダリルに言われてニシャは言葉に詰まる。
「あー……、えーーと、話せば長くなるんだけど……」
そうして、ニシャはダリルにマルクル家の事情を説明した。
◇
「なるほどな、だからお前はそうして男のふりをしていて婚約までさせられそうになったと」
「ぷっ」
ダリルが女性の姿で低く呟くと、その姿があまりにも滑稽でニシャは思わず吹いてしまった。
「おい!お前なんで笑ってるんだよ」
この野郎、とニシャの手を掴みいつもの調子でつっかかろうとするが、ふと目が合う。その距離の近さに思わず二人ともドキドキしてしまった。
(な、なんでドキドキしてるんだ)
(いつものことじゃないか、いつものこと)
でも。
(女だとバレてしまった)
(ニシャが女だった)
いつものことが、いつものことではなくなってしまった。
しかも事故とは言え、ニシャの胸を触ってしまったこと、その感触を思い出してダリルは思わず顔を背けてしまう。
「おい、どうした?」
ニシャが心配してダリルの顔を覗き込むが、その顔が女性に見えてしまいダリルは慌てて離れる。
(だから今はやめてくれ!!!)