ニシャとカタリナは花が咲き誇る中庭をゆっくりと散歩していた。
端から見れば美男美女が優雅に花を愛で話をしているように見えるが、ニシャは困惑していた。
「お嬢様は口数が少なく、あまり話をしたがらないので……」
到着してすぐ、カタリナにお付きの侍女が申し訳なさそうに言っていたが、カタリナは本当に何もしゃべらない。
何を聞いても、何を話しても、頬笑むか頷くか首を振るしかしないのだ。
(こうも話をしないとなるとどうしたらいいかわからないな)
とりあえずこちらの態度をうんと悪くして婚約破棄へ持っていこうとしていたが、話ができないとなるとどうすることもできない。
もしかするとカタリナも婚約が嫌なのかもしれない。嫌々訪れたから何も話そうとしないのだろうか。それとも契約結婚だからと割りきってしまっているのだろうか。
どうしたものかと考えていると、突然強風が吹いてカタリナの帽子が飛んでいく。帽子はあっという間に飛ばされて木の上にひっかかってしまった。
「大丈夫、あれくらいなら取ってこれます」
申し訳なさそうに見ているカタリナを安心させるように言って、木に登って帽子を掴む。ニシャは木登りが小さい頃から得意で、この高さでもなんてことはなかった。
「ほら!取れましたよ」
木の上から帽子を掴んだ手をフリフリと振ると、足元からミシィっと嫌な音がする。
「うえっ?!」
そのまま、バキバキィっと木が折れ、ニシャは落下した。地面に叩きつけられ、うめき声が出てしまう。
「うっ……」
起き上がろうとすると、なぜか目の前にカタリナの美しい顔がある。どうやら落下と同時に思わず駆けつけて下敷きになっていたようだ。
「すみません、すぐにどけて……」
途中まで言って、ニシャは違和感に気づいた。胸元に、カタリナの片手がある。そして、カタリナは驚いた顔と同時に沸騰したかのように真っ赤になっていた。
「あっ、えっ、わあぁぁ!!!」
ニシャは思わずその場をよけて胸元を抑えながら後退りする。いつもなら胸の膨らみに気づかれないよう固く布を巻いていたのだが、今日に限っては自分の家であり相手も女性だということでつい気が緩んでいたのかそれを怠っていた。
「こ、こ、これは、その」
(何か弁明をしなければ!でも、どう言えばいい?この状況はどうすれば……)
慌てるニシャを、カタリナはゆっくり起き上がりながらじっと見つめ、そして呟いた。
「まさか、男装?」
カタリナのその低くそして聞き覚えのある声に、今度はニシャが驚く番だった。