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第11話

「アリア」




 イーリスの事件が無事終わり、アリアが相変わらず気ままに獣の姿で城の周辺を探索していると、どこで見つかったのだろうかサイシアに声をかけられた。アリアは鼻をひくひくさせ、サイシアの足元に擦り寄る。そんなアリアの姿を見てほぼ真顔に近いがサイシアはほんの少し微笑んだ。




「アリア、君と話がしたい、俺の部屋に一緒に来てくれるか?」




 それを聞いて、それなら部屋まで運べと言わんばかりにサイシアの足にアリアは両手を乗せて催促する。そんなアリアをサイシアは嬉しそうに抱き上げ、自分の部屋まで連れて行った。






「で?話って?」




 部屋についてすぐ人の姿になったアリアに聞かれ、サイシアは少し考え込むように手を口元に添える。その表情は真剣そのもので、一体何があったのだろうかとアリアは不思議に思った。




「イベリスに何かあったの?また誰かに狙われているとか?」




 そんなことはないと思いたいが、イベリスはれっきとした第三王子だ。どこの不埒ものに命を狙われてもおかしくはない地位にいる。




「いや、……そうじゃない。イベリス様のことではなくて、その、俺自身のことについてなんだ」




 静かにそう言うサイシアをアリアはもっと不思議な顔で眺めていた。




「俺にこんなことを言われるのは困るだろうけど……アリアがイーリスに捕まった時、俺はどうしてもイーリスが許せなかった。アリアをあんな目に合わせるなんてはらわたが煮えくりかえるようだった。それに」




 そう言ってサイシアは言葉に詰まる。そんなサイシアを見て、自分のことをこんなに思ってくれていたなんて、とアリアは胸の中に温かいものが広がっていくのを感じていた。




「それに、そもそもイーリスにアリアが触られたことがどうしても許せない。例え聖獣の姿だったとしても、あの汚らしい手がアリアに触れたと思うだけで吐き気がする。だから、その、俺の手で上書きさせてくれないか」




 最後まで話を聞いてアリアはキョトンとしていた。上書き?サイシアの手で?それはつまり人間で言う嫉妬といいうものではないのだろうか。そう気づいて途端にアリアは顔が赤くなる。




「もちろんアリアが嫌ならしない」




 困ったように言うサイシアに、アリアは混乱しつつも考えていた。




(えっと、別に、嫌ではないのよね。サイシアがそう望むのであればそれを叶えてあげたいし、それに)




 自分もサイシアに触れられたい、そう思う自分にアリアは戸惑い始める。




「い、嫌ではない、から、いいよ」




 アリアが静かにそういうと、良いと言われると思わなかったのだろう、サイシアは驚いた顔でアリアを見た。だがすぐに顔を赤らめて俯く。




「ありがとう。すぐに終わらせる」




 そう言ってサイシアは静かにアリアの両手でアリアの両耳を優しく包み込んだ。それからアリアの髪の毛に触れ、優しく撫でる。




(サイシアの手はやっぱり暖かくて気持ちがいい。人柄と生き様が滲み出ている素敵な手だわ)




 心地よい暖かさにアリアが身を委ね、目を瞑りながら頭を静かにサイシアの手に傾ける。そんなアリアの顔は本当に幸せそうだった。




 頭を撫でていたサイシアの手がゆっくりとアリアの頬を優しく撫でる。別にそこはイーリスに触られていないが、アリアは気にすることなくその暖かさに顔を擦り寄せた。すると手がぴたり、と止まる。




 アリアが不思議に思って目を開けると、目の前にはとても大切で愛おしいものを見るような、優しくでも明らかに熱のこもった瞳があった。その顔は、まさに男の顔そのものだ。それを見てアリアは思わず心臓が跳ね上がり、一気に顔が赤くなる。




(こ、この顔は、まずい……ただでさえタイプなのに、こんな顔されたら……)




「あ、あの、サイシアの手は優しくて暖かくて心地よいから大好き。でも、こ、これ以上は、ちょっと、心臓がもたない……」




 アリアの言葉に今度はサイシアが顔を赤らめる番だった。そんなサイシアを見てアリアは体を金色に光らせ、聖獣の姿に戻って部屋を飛び出していった。




(俺は何をやってるんだ、あのままアリアが目を開かなければ危うくキスするところだった。あんな可愛い顔されたら、止まらなくなってしまう……相手は聖獣だぞ、好きになっていいものなのか)




 サイシアはそのばにしゃがみ込み、大きく息を吐いた。






◇◆◇






 前世では自分のことしか考えず追放され野垂れ死んだ追放令嬢は、心を入れ替えて誰かの役に立ちたいと願い生まれ変わった。その生まれ変わった先では大切な人たちのために力を奮い、愛されながら今日もイケメンに囲まれてモフモフなでなでされながら生きている。




 その不思議な生き物が騎士から静かにだが確実に熱烈なアプローチを受け続け、自分を拾ってくれた少年と少年を守る魔法使いに祝福されその騎士と一緒になるのはもう少し先のことだ。




「人間じゃないのに人間と恋愛して一緒になれるのかって?だって聖獣だもの!」





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