暖かい手に優しく優しく撫でられている。頭を撫でたり、体を撫でたりしているがその手つきは控えめに、でも慈しむような手つきだ。
(あぁ、すごく気持ちいい……ずっとこうして撫でられていたいわ)
ぼんやりとした頭でうっすらと目を開けると、両膝が見える。どうやら、先ほどの少年の膝の上で少年に撫でられていたようだ。
「あ、目が覚めた?おはよう。急に倒れちゃったからびっくりしたよ。大丈夫?」
少年はメリアの顔を覗き込みながら優しく微笑み、心配そうな顔で聞いてきた。
(あ、あ、あ、なんて、なんて美しいお顔……!)
メリアは思わず見惚れてしまう。そんなメリアの様子に、少年は問題ないと受け取ったのだろう、嬉しそうに微笑んだ。
「大丈夫みたいだね、よかった」
少年の膝の上でメリアは辺りをゆっくりと見渡した。どこかの部屋だろうか。高貴な方が過ごすような部屋で驚いてしまう。
少年のむかえには先ほどの若草色のローブを羽織った男と、もう一人別な男がいた。その男はどうやら騎士のようで、腰に剣を下げている。年は若草色のローブを羽織った男と同じくらいで艶のある黒髪にルビーのような瞳、スラリと引き締まった体で背も高い。
(どうしてみんなこんなに美しい人ばかりなのかしら?こんなに美しい人たちがいたのなら王都でもっと噂になったり騒ぎになったりしてもいいはずなのに)
ぼんやりとその騎士のような男の顔を見つめると、その男と目が合う。だがその男の目つきは鋭く、無表情でむしろ怖い。
(美しい顔なのに、な、なんか怖い)
少し怯えて思わず少年の手に擦り寄ると、少年は騎士のような男を見て笑った。
「ほらサイシア、そんな真顔ではダメだよ。この子が怖がっている」
「申し訳ありません、生まれつきこの顔なので」
サイシアと呼ばれたその男は表情を変えず静かにお辞儀をした。
「さて、目が覚めたようですのでイベリス様、話の続きをしましょう。先ほども申し上げました通り、その生き物は聖獣です。聖獣は古くからの言い伝えでこの国コランダでは神の使いと言われており、強い魔力を持っています。その聖獣と心を通いあわせることができれば災いを遠ざけ強力な護りを施してくれると言われています」
モルガと呼ばれていた若草色のローブを羽織った男が話し始める。
(え、私ってそんな生き物なの?っていうか魔力って何?しかもコランダ国って言わなかった?聞いたこともないのだけれど……もしかして、前に生きていた世界とは別の世界なのかしら……)
メリアは疑問に思いながらモルガの話を聞く。
「イベリス様がこの聖獣と心を通い合わせることができれば、きっとイベリス様の強力な力となるでしょう。現に、すでにイベリス様とこの聖獣の友好度が上がっているようです、聖獣の魔力に変化が見られます」
興味深いものを見るようにモルガはメリアをしげしげと眺める。そんなモルガの様子に、メリアはまたイベリスの手に縋り寄った。
「モルガ、あんまりこの子を怖がらせないでよ。聖獣なのかもしれないけど小さくて可愛い生き物でもあるんだから。聖獣とか関係なく、僕はこの子と仲良くなりたい。ねぇ、君は僕と仲良くなってくれる?」
(はぁぁぁん!可愛い!可愛すぎるでしょ!仲良くなりたいに決まってますとも!)
優しくイベリスに聞かれ、メリアのハートはすっかりうち抜かれてしまった。返事をするようにまたメリアはイベリスの手に擦り寄る。先ほどとは違う、親愛を込めた擦り寄り方だ。そしてイベリアの指をぺろぺろと舐め始めた。
「わぁ、見て!ちゃんと返事をしてくれたよ。可愛いね!この子はこの城で僕が責任を持って育てるよ。名前は……そうだな、アリアネル、通称アリアだ!」
(アリアネル、アリア、なんて素敵な響き……!メリアにもちょっと似てるけど、この体で新しい名前をもらえたんだもの、アリアとして立派に生きてみせるわ!)